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元王子クロイツとその弟子達の軌跡-史上初のSSランクを従える男-  作者: 焼納豆


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ミューテル(1)

 Sランク魔獣であるポイズナックの脅威から避難するために特別依頼を出していた闇の奴隷商の商会長に恩を売る事が出来ずに、未だに不機嫌なミューテル。


 組織としての活動も未だ禁止されている状態の為に組織からの実入りはなくなり、ギルド受付としての収入しか得る事が出来ていない。


 普通はこれで十分生活できるのだが、ブサ村の村民と同じく、一度手に入れてしまった贅沢な暮らしを手放す事は出来ずに悶々としており、この状態もミューテルの不機嫌さを加速させる要因となっている。


「仕方がないわね。こうなったら暫く本腰を入れて受付での収入を増やさないと……となれば、異動よね」


 ある程度のレベルにある冒険者の専属受付になれれば、その冒険者が治める素材、高レベルの依頼達成に応じて特別報酬が少なくない額支給される。


 ミューテルが知る高ランカーと言えば、Sランカーであるクロイツと“白套のリサ”、そしていつの間にかクロイツの弟子になっていたAランカー“黒套のリージョ”だ。


 実際にリージョの姿をその目で見た事はないのだが、少なくともAランカーである事から相当な依頼を達成できると踏んでいる。


「何と言っても、登録初期からの付き合いがあるのは大きなアドバンテージよね」


 今後の展望が開けたと思っている事から気分は上向き、ギルドマスターに異動願いを出す。


 その行先はクロイツ一行が拠点にしているダンジョンがあるゼリア帝国であり、彼らが活動を行っていると言われている国だ。


 突然の異動願いに驚くギルドマスターだが、このような事は頻繁にあるのでその申し出は受理され、ギルド総本部で多少吟味された上で数日後に許可が出る。


 移動は馬車で5日程度であり、そう時間がかからずにゼリア帝国のギルドで業務を開始する。


 SランカーとAランカー達からは、疑われているどころか確実に闇の奴隷商関連の者であると思われているとは爪の先程にも思っていないミューテルは、今か今かとクロイツ達の訪問を待ち望んでいる。


 一受付である以上は自分の前に並んでいる冒険者達の処理は行わなくてはならず、その会話を聞きつつ業務を進めている。


「よぉ、聞いたか?“黒套のリージョ”と“白套のリサ”の話」


「何かしら?また想像もできないような依頼を達成したの?教えてよ」


 今処理している冒険者の後ろに並んでいる男女の冒険者がこのような事を話しているので、業務を進めつつも神経は耳に集中している。


「この間“白套のリサ”がポイズナックを仕留めてSランクになっただろ?で、次は“黒套のリージョ”をSランクにするんだと」


「するんだって、それは誰が言っていたの?するって言ってできるランクじゃないでしょう?」


「俺に言うなよ。あのSランカーのクロイツ、二人の師匠であるクロイツが普通の会話っぽく言っていたんだよ。でも、あの様子だと本当に“黒套のリージョ”も即Sランカーになっていそうだよな」


「……本当にそうね。前人未到のSランカーが一気に三人になるなんて、誰が想像できたかしら。って、そもそも二人の師匠のクロイツが異常じゃない?」


「そうそう。巷の噂じゃ、相当な力を与える事ができるらしいぜ?頼み込めば俺達もSランカーになれるかもよ?」


「アハハハ、そんなわけないじゃない。そんなに簡単になれるSランカーなら、今まで誰もなれなかったのはおかしいわよ」


「そうだよな。でもよ?期待する部分もあるだろ?」


「それは否定しないわ」


 クロイツが誰にでもSランカーの力をつけさせる事ができると言う噂は、自分達と同じような願望が多分に含まれた冒険者の話か冗談だろうと思っている二人であり、その噂を聞いている他の冒険者も同じ見解なのだが、実際はクロイツの異能の核心をついていた。


 その話を聞いているミューテルは、Sランカー三人も専属になった暁には、万が一があった場合に自分の身に危険がある組織の一員でいるよりも、ギルドで正当な業務を行いつつ得られる特別報酬で今迄以上の生活ができる可能性が高いと思い、期待に胸を膨らませている。


 そんな噂や世間話をしている冒険者達だが、一瞬で静かになる。


 入り口から白と黒の外套をすっぽりかぶった人物を伴って、クロイツが入ってきたのだ。


 受付を含む全員の視線がクロイツに集中する中で、ミューテルは珍しく興奮する。


 暫く見ない間に大人びたクロイツだが、自分に富をもたらすと信じて疑わない色眼鏡がかかっているので、非常に魅力的に見えたのだ。


 どうやって声をかけようかと思案している所、横の受付からクロイツ達に向かって声がかけられると同時に、その受付の前に並んでいた冒険者が一斉に列から外れる。


「クロイツ様、リージョ様、お待ちしておりました。リサ様は本当にお久しぶりですね」


 驚いて横を見ると、満面の笑みを浮かべている同僚……ミリアと呼ばれている女性がいた。


 自分の描いていた未来になっていない為に何がどうなったのかわからず茫然としているミューテルをよそに、リサはフードの中からクロイツに厳しい視線を向けている。


「師匠……相変わらずですね」


 リサもミリアの事は知っているのだが、記憶にある以上にクロイツとの仲が良さそうに見えて少々機嫌が悪くなっているのだ。


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