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37. 仲間

 ——ぎゅうっ。


 碧色の綺麗な瞳に自分の姿が写り込んだことに戸惑っていると、手が伸びてきてヴィアに捉われる。ぎゅうぎゅうとエヴァにしがみつくと、彼女はボロボロと涙を流し始めた。

 思わぬ反応にびっくりしたエヴァはしっかりとヴィアを抱きとめて、頭を撫でてあやす。やがて泣き止むと恥ずかしそうにモジモジとし始めたヴィア。


「エ、エヴァ?その…」

「ヴィア、ごめんなさい。私が悪かったわ。」

「えっ?」

「顔見て話す勇気がないから…このまま聞いてくれる?」

「う、うん。」


 ヴィアの話を遮って続ける。これは彼女が謝ることではない、私が話すべきことなのだから。それから課外授業でのことを話した。魔族のヴィオルカに会って血を貰って助かったこと。ヴィアの血を欲しいと感じてしまったこと。とても動揺したこと——


「怖くなったの。いつかヴィアを襲ってしまうんじゃないかって。それに、あのジュース…ヴィアの血が入ってたよね?気づいてたの?」

「うっ…。そうじゃないかと思ったから…」


 ヴィアは、エヴァが倒れて気を失っているときに血を飲ませたことを白状した。


「怖いと思わなかったの?血を飲む化け物が側にいて…」


 ぶんぶんと勢いよく首を横に振るヴィア。


「ずっと辛かったんでしょ?何が欲しいのかもわからずに。今までどれだけ我慢していたんだろうって思った。エヴァが気づいてないならこっそり飲ませればいいと思った。大丈夫。怖くないよ。私のを…飲めばいい。」


 ぎゅっと腕に力を込めるヴィア。嫌われることを恐れて顔も向けられないエヴァを、離すまいとするように。安心させるように…


「どうして…。ダメよ、ヴィアが血を流すのは嫌。」

「……。」

「ヴィア?」

「それよりまだ聞いてないことがあるんだけど?」


 じっと、碧色の瞳を細めてこちらを見つめるヴィア。


「な、なあに?」

「…ジュース、ずっと飲んでないよね?どうしてたの?」

「それは…。」

「喧嘩した日に何してたのかも聞いてない。教えて?」

「…はぁ、わかったわ。その、ヴィオルカと会っていたの。あの日体調が悪くて、フラついたところに彼女が現れて。血をもらってそのまま休んでいたら帰りが遅くなった。だけど血を飲んでたなんて言えなくて…」

「ふーん。ヴィオルカさんのは飲んだんだ…」


 どこか不機嫌そうなヴィアは『もう飲んじゃダメ。』と言ってぷいっと顔を背けてしまう。


「ヴィア、でもヴィアを傷つけるのは嫌よ。」

「私よりヴィオルカさんの方が美味しいんだ?」

「美味しいって…。そんなこと言ってないでしょ。」


(ヴィアの血の方が甘…じゃないない。そんなこと考えちゃダメだ。)


「というか、ヴィオルカさんって何者なの?」

「さ、さあ?」

「エヴァの味方?」

「どうかしら?って言ってたね…」

「そんな人にエヴァの胃袋を握られてるのはやっぱり良くない!」

「胃袋って…。うーん、動物とかでなんとかならないかな…」

「なんとかなるなら、もうそうしてるんじゃないの?」


 相変わらずじとーっとこちらを眺めるヴィア。なんだかこの話題を続けるのは良くない。


「当分は大丈夫だからまた考えよう?みんな心配してるし帰らなきゃ。」


 このまままた仲違いすることになっては堪らないので話を逸らす。ちょっと納得してない様子のヴィアを抱えて歩き出すと、ヴィアは恥ずかしがる。


「えっ、エヴァ。自分で歩けるよ。」

「だーめ。良い子にしていて。」


 気を逸らそうとして抱えたのだけれど、なんだか楽しくなってきた。やっといつものように出来るのだからこのままがいい。そのまま歩いているとヴィアも身を任せてくれる。


「あー!お姫様が帰って来たよー」

「お、お姫様じゃないよ!」


 ニコニコと笑いながら声をかけてきたのはユディ。寮の前にはみんなが待っていた。帰りを待ってくれる仲間がこの学院にいる。ヴィアもそのことが嬉しいようで、少し恥ずかしそうに謝る。


「あの、みんな心配かけてごめんなさい。」

「仲直り、できたみたいね。」

「はい、おかげさまで。2人ともありがとうございました。」


 優しく微笑むリーデと、ルクシア。


「よかった!」

「ああ、これでため息ばっかのヴィアを見なくて済むな。」


 アレシュと、グスタフも明るい表情で迎えてくれる。


「それで、お姫様はなんで泣いてたの?」

「だからお姫様じゃ、あ。ああ——!夜会に招待されたんだった。ど、どうしよう?」


 急に思い出してワタワタし始めたヴィア。


「夜会?」

「うん、来週あるの。」


 そういって招待状を見せる。ざっと目を通したリーデは家紋を再度一瞥する。


「夜会なら協力できることがあるかも。今日はもう遅いし、明日また話しましょう?」

「ここは貴族様に任せておけ!」

「う、うん。ありがとう。」

「じゃあ、明日は久々にみんなテラスに全員集合だね!」

「じゃあとっておきのお菓子を持っていくねー」


 悩み相談のはずなのに、とても楽しいことのように明日の約束をして別れる——もう1人じゃない、2人ぼっちでもない。みんながいるからきっと大丈夫。力になろうとしてくれていたのにエヴァは臆病になっていた。やっと、やっと気づけた。


 


 自分が人ではないと受け入れたけれど、まだ記憶は思い出せていない。たぶん望めば思い出せるような気がする。ヴィオルカは知っているようだし。だけど、まだそうしたいとは思えない。部屋に戻ってからヴィアに尋ねる。


「ヴィアは、私に思い出して欲しい?」

「ううん。今まで無理に記憶の手がかり探そうとしてごめん。エヴァが思い出したいと思った時に探せばいい。」

「いい、の?」


 商人が来るだびに聞いて回っていたヴィア。思い出して欲しいのかと思っていたけど…


「記憶がなくて不安そうだったエヴァに、何か拠り所になるものが見つかればいいなって思ってたの。でも思い出すかどうかはエヴァが決めることだもん。それにね、誰でもいいの。エヴァは、エヴァだから。」


 にっこり笑ったヴィアにぎゅっと抱きつく。エヴァにとっての1番の拠り所はヴィアだ。ふふっと擽ったそうに笑うヴィアとすれ違っていた間を埋めるようにたくさん話をして、一緒に眠りについた。


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