24. Raza
学園に着くと、ラザは2人の代わりに運んでいた買い物袋を渡す。時間が立つのは早く、もう日が傾き始めていた。
「はい、それからこれはお土産。」
「「えっ?」」
そう言ってラザが渡した紙袋の中には、今日寄った紅茶専門店の紅茶と、露天の菓子が入っている。美味しそうだと眺めていたのに、買わなかった2人に代わってラザが購入しておいたのだ。
ギルの店で働いていた間は、「労働の対価に学園入学のための勉強をさせてもらえる」という条件だったため、2人は給金を受け取ろうとしなかった。ギルが何かとうまく理由をつけてはお小遣いを渡していたから、多少はお金を持っているはずだけど、2人とも我慢するタイプのようだ。
(というか、嗜好品にお金を使った経験が少なすぎて、この子たちにはお菓子を買うという発想が無いのかもしれない…。)
思い返せば雑貨屋でも必要最低限のものしか買っていないようだった。時々お菓子や雑貨を買いに連れて行くか、と考え始めるラザ。それに対して、てっきりラザが食べる分を買っていたのだと思っていた2人は驚く。
「疲れた時にでも2人で食べて。」
「でも…いいんですか?」
戸惑った様子のエヴァに、こくりと頷くラザ。
「ラザお兄ちゃんありがとう!」
「どういたしまして。エヴァも申し訳なさそうにするより、喜んでくれた方が嬉しいんだけどな。」
「…はい。ラザさん、ありがとうございます。」
ふわり、と綺麗に微笑んだエヴァ——その表情を見てラザ目を見開き、直ぐににっこりと微笑んだ。また遊びに行こうと約束して、それぞれの寮へと戻る。
男子寮へと戻るラザは少し顔を赤らめていた。とてもびっくりしていたから。
エヴァはいつも穏やかな人好きのする表情をしている。けれどヴィア以外に対しては、愛想笑い以外だとあまり笑わない。そんな彼女が別れ際に見せた微笑みはすごく綺麗だった。
(…あんなの反則だろう。)
そう、何かこうグッとくるくらい良かった。日頃からエヴァに心のこもった笑顔を向けられているヴィアを恨めしく思ってしまう程に——その時、ふとギルの言葉を思い出す。
『ラザ。学園では2人を頼んだぞ。エヴァは、彼女は人では無いだろう。本人も何者かは分からずともそのことは自覚しているようじゃった。』
『お爺様は、エヴァと、エーファという女性が同一人物だとお考えなのですか?』
『分からぬよ。けれどどちらにせよ、人の手に負えるような存在では無いと思う。人が触れてはならぬ類の力のような…ラザ、2人のことを気に掛けておきなさい。ヴィアに何かあるとエヴァは揺れるようだ。エヴァは優しい子、それは間違いない。けれど、ヴィアにもしものことがあれば悲しむだけでは済まない、何か恐ろしいことが起こるような気がしてならんのだ。年寄りの戯言かもしれんがね…』
ロダリガを離れる前に聞いたのは随分と物騒な話だった。ラザは2人に何かあれば直ぐに報告すると約束をした。年寄りの戯言などと言っていたが、ギルは只者では無いのだ。人の内面を見抜く彼の能力は王も一目置くという。そんな彼があのように心配するのだから、エヴァには彼女も知らない何かがある可能性が高い。それも危険な類のものが。
元より気に掛けるつもりではあったが、もしもギルの言う何かがあったとして、果たして自分に何ができるのだろう…
(…あんなに、綺麗に笑えるのに。)
恐ろしさとは対極の、心が温かくなるような笑顔。
(こんなはずじゃなかったのにな…)
ラザは笑みを浮かべる。自分は要領の良いタイプだと思っていた。商売人一家の血を引き継いだのか、付かず離れずの人付き合いも上手くやれる方だと思う。だから、初めて2人出会った時には、「適度に仲の良い後見人の孫と、貢献を受けた子」の関係になるものだと思っていた。
けれど、2人はラザが思っていたよりずっと純粋で性格の良い子たちだった。ラザからしたら、信じられないくらいに。
休暇でロダリガに行く度に少しずつ仲良くなった。明るいヴィアと物静かなエヴァ。素直で優しい2人に会うのがいつの間にか楽しみになっていた。帰る前にはどんな『お土産を買って帰ろうか?』と考えるのが楽しくなって。自分でもびっくりするくらいに自然に、ラザは2人を家族のように守りたいと思うようになっていた。
このままずっと穏やかに日々が過ぎていくことを改めて願う。
(たとえエヴァの正体がわからなくてもいい。わからない方がいい。このまま、2人が幸せであればそれでいいんだ…)




