23. 王都
「ラザお兄ちゃん、お待たせ。」
「おはようヴィア、エヴァ。」
「おはようございます。ラザさん。」
今日は朝からそわそわしていた。この学院に来た時、馬車の中から初めて見た王都の圧倒的な賑わいを見てから、街に行ってみたい!と、思っていた。今日はラザに連れて行ってくれる日。
『初めて王都の街へ行くときは必ず僕と一緒に行くこと。』
ロダリガを離れる前にギルやラザとした約束だ。普段は賑やかな場所より、ゆったりとした自然を好むオリヴィア。けれど王都は例外で、同年代の子がそうであるようにヴィアにとっても街は魅力的だった。それにモノや人が集まる王都でなら、エヴァのことも何かわかるかもしれない。
「2人は今日行ってみたい所や買いたい物はある?」
「来る時に見た街の中心の方へ行ってみたい。」
「中央広場のあたりのことかな?やっぱりお店が集まってるエリアは気になるよねー。何件かオススメのお店もあるから見て回ろう。エヴァは?」
「日用品が手頃に買えるお店とかありますか?」
「それなら、寄ろうと思ってたお店が何件かあるから大丈夫そうかな。気になるお店があったら、いつでも声かけてね。」
ラザのおすすめのお店は大通りより少し外れた所に点在しているようで、街をぶらぶらしながら途中で寄っていくことになった。
「初めての時は僕もよく友達と逸れちゃったから、2人は手を繋いでおくといいよ。人が多いからね。」
『誰かに声をかけられても絶対について行かないように。怖い大人もいるんだからね!』と真剣な顔で念を押して来たラザは、本当のお兄ちゃんみたい?いや、もはやお父さんのようだ。
そうしてたどり着いた中心街は予想以上に活気に溢れていた。大通りに合流した途端に大きくなる喧騒。道には人が溢れ、両側には商店にレストラン、カフェがずらりと立ち並ぶ。
店先の壁からは、道行く人の頭上に向けて青銅が枝のように伸びており、それぞれ独自のデザインを形作って看板の役割を果たしている。天秤の形をした両替商に、金槌の形をした鍛冶屋。雑貨屋には青銅の枝から華やかな意匠が施された金属板が吊るされている。
1つ1つこだわりが詰まった看板を眺めているだけでも楽しい。
道の端には所々露天が出ており、誰かの演奏する楽器の音も聞こえる。お祭りの日なのかと思ったけれど、そうではなくて、お祭りの時はもっとずっと賑やからしい。人の多さに圧倒されたオリヴィアは、ぎゅっとエヴァの手を握り直した。
初めこそ緊張していたオリヴィアだったが、気になるものを見つけるとエヴァを引っ張ってフラフラと近づいて行く。そんな2人の後に少し困ったように微笑むラザが続く。
ラザのおすすめ雑貨店は、良い香りのするハーブ石鹸や可愛い小物類が揃い、お財布にも優しいお店だった。他にも何件か日用品や、薬局、文具店に書店、教会や騎士団の詰所など王都で暮らす上で役立つ場所を案内される。
王都には一般向けの店が立ち並ぶエリアの他に、貴族向けの店が並ぶエリアがあり、その中間に貴族と平民両方が訪れるような店がある。そして華やかな街の隣には貧民街もあるのだ。だから安全な行き帰りのルートと、避けるべき危ない通りは特にしっかりと教え込まれた。
お昼は庶民の定番食、パニーニを食べることに。ギルと暮らしたロダリガの街にもパニーニ屋さんは何件かあったけれど、王都では名物料理の1つのようで、街を回る途中で何件も見かけた。ラザが1番お気に入りのパニーニ屋さんに連れて行ってくれる。
ロダリガでは3、4種類が普通だったが、この店には10種類以上もバリエーションがあって、選ぶのに困ってしまう。迷った結果ラザのおすすめメニューの中から肉、魚、ハムと野菜、の3つを頼んで分け合って食べた。
午後はぶらぶらと気になるお店を見て回った。最後に着いたのは大通りから細い路地に外れ、何度か路地を曲がった所に佇む1件のお店。
「ここは?」
「エヴァが気に入るかと思って。入ってみよう。」
こじんまりとした印象の店に入る。扉を開けた瞬間にふわりと香りが立ち込め、店の中を覗くと棚には上から下までずらりと紅茶の銘柄が並んでいる。
「うわあ、すごい。」
「紅茶の専門店?」
「そう。店内で飲めるから、気に入ったのを選んで。良い茶葉を置いているんだけど、サイドメニューが少ないからお茶をする学生は少なくて穴場なんだ。ちょっと休憩してから帰ろう。」
大量の茶葉に圧倒され気味のオリヴィアと、興味深々のエヴァ。エヴァは店員さんの説明を受けながら真剣に選び始めた。何事にも割と無頓着なエヴァが珍しく興味を示したのが2人は嬉しい。
茶葉の購入のみのお客さんがほとんどのようで、カフェスペースにいるのは1組だけだった。3人は腰を下ろすとホッと一息つく。朝から石畳を歩き回った結果思った以上に疲れていたようで、座ると疲れが出てきた。
ラザには香り高い深い色合いの紅茶、エヴァには花香の明るい赤みの強い紅茶、オリヴィアには店員さんのお任せで、ベルガモットが薫る飲みやすい紅茶が運ばれる。
「ふわぁ。」
「いい香り。」
「美味しいね。」
紅茶と一緒に頼んだのはお茶菓子。茶葉の販売がメインのこの店には、日替わりお茶菓子1種類しかサイドメニューが無い。それにあくまで紅茶を楽しむためのものなのでサイズも小さく、カフェ利用客が少なめな要因となっているのだが、味はどれも美味しいと評判だ。
今日のお茶菓子は、卵とバターをたっぷり使ったクッキーで、甘い香りが広がり、口の中でほろほろと解けていく。
『あそこのお店はちょっと高めだった。こっちの店はあれが可愛かった…』と、今日寄ったお店を振り返りながらゆっくりティータイムを楽しむ。
「気に入った?」
「はい。とても素敵なお店です。」
「うん、また来たいね。」
「良かった。それじゃあ、また遊びに来た時寄ろう。」
大満足でお店を後にした3人は、わいわいと話しながら学園へと帰る。
そんな仲睦まじい3人の様子を見て、顔を歪める人物がいたことには気づかなかった…




