22. 魔力測定
魔法適性と、魔力量の測定は屋外の演習場で行割れる。
「入学試験でも魔力量を調べたとは思いますが、改めて詳しく測定を行います。魔力量や適性は、先天的な要素が大きいですが、鍛錬によって成長もしますし、後天的に適性が変わったり、新たな適性が開花したという事例もあります。定期的に測定して、将来目指す進路の選択に役立ててください。」
そう説明した担任のリゲル先生は火魔法に適性があるらしく、騎士団に属していたこともあるとのことだった。リゲル先生の容姿は光魔法が似合いそうな、優しげな雰囲気だ。見た目からは想像できない経歴にみんな驚いていると、先生はいたずらが成功した時のように笑った。
「続けて、魔法の基本についておさらいをしますね。まずは、適性について。魔法には『火』、『水』、『地』、『風』の4つの基本属性と、『光』と『闇』という対となる2属性があり、まとめて6属性と呼ばれています。多くの方は基本属性のどれか1つに適性を持っていて、『光』と『闇』は基本属性に比べて適性を持つ者が少ないと言われています。特に光属性の適性者は、人数の少なさと、治癒系の魔法に優れているという性質から重宝されますね。他には、稀に6属性以外の希少属性を持つ方もいらっしゃいます。例えば、騎士団の雷神様はその名が表す通り、希少属性の『雷』属性をお持ちです。武器や防具に雷を流してビリビリ感電させてしまうとか、ちょっと反則ですよね。」
斜め上を見ながら雷神様の姿を思い出したのか、ちょっと微妙顔をした先生。過去に何かあったのだろうか?
「次は魔力量についてのおさらいです。魔法は自分の魔力を消費して発動するものなので、魔力が足りないと魔法を発動出来ません。つまり自らの魔力で賄える魔法しか使うことは出来ないし、魔力が少ない=魔力切れを起こすのが早いということになります。」
村を出る前にオリヴィアが測定したのはこの魔力量で、魔術の学院という性質上、最低でも初級の魔法が発動できる量がないと入学できない。
「そしてもう一つ、魔法を使う上で大切だとされているのが魔力操作、魔力制御などと呼ばれる能力です。要は魔力を自在に操る能力のことですね。魔力量や適性に恵まれていても、操る能力が低いと、暴走を起こしたり、小さな魔法に大量の魔力を使用して魔力切れを起こしたりしてしまいます。例えば、火を灯すだけの魔法でも、指先に小さく灯したり、火の玉を灯したり、制御がまずいと爆発する事だってあり得ます。」
先生は実際に指の先に小さな火を灯す。それが今度は人の顔くらいのサイズになり、最後は小さくボンっと爆発した。
「ですから、まず最初に身に付けなければならないのは、安全に魔法を使う術です。魔力操作の能力は努力での伸び代が大きい要素です。効率的に魔力を使えるようになるので、最低限の魔力で魔法を発動できますし、新しい魔法の習得や、魔力を発現するまでの速度を速めるのにも役立ちます。何より安全に生活を送る上で最も大切な能力ですから頑張って練習しましょうね。」
そういって先生は測定を始めていく。1人ずつ魔力量と適性を調べていく。やはり殆どの生徒が4属性のうちの1つを持っていて、たまに魔力の強い平民の子もいるが、総じて魔力量は平民より貴族の子の方が多いようだった。水盤の色が変わったり、専用の球体が魔力を受けてキラキラと光る様子はとても美しい。
「おい、見ろあれ!」
クラスの男の子の興奮気味な声を受けて、顔を向けると女の子がちょうど水盤に手をかざしているところだった。水盤の色は透き通った黄緑色に淡く輝いており、そこだけ優しい空気が流れているようだった。風属性のように渦を巻くこともなく派手さもないのに、水盤の周りだけまるで別世界のような光景に目が吸い寄せられる。
「あなたは、入学試験で草花を芽吹かせたという話でしたね?」
みんなの視線を受けて、戸惑いながら肯首する彼女にリゲル先生が優しく話かける。
「詳しい属性について調べたことはありますか?」
「いいえ、特に調べる機会もありませんでしたので。」
「そうですか。希少属性の方は、新しい属性かどうか詳しく調べて属性名を決定するので、今度調査の為に時間を頂くと思います。植物系の希少属性の方は過去にもいらっしゃったはずですから、調査の時に今度の参考になる書籍なんかも紹介してもらえるでしょう。予定が決まったら連絡しますので、ご協力をお願いしますね。」
「はい、わかりました。」
そうして彼女が手を下ろすと、綺麗な黄緑色はなくなり、元の無色透明な水盤に戻る。
他に、珍しかったのは、2属性持ちの子が何人かいたことだ。エヴァもその1人で薄っすらと緑がかった、渦巻く『風』と、眩しい『光』の組み合わせは綺麗だった。2属性持ちであること、さらに光属性であることから注目を浴びていたが、続いて測定した魔力量が少なめだったことで、少しがっかりしたような空気が流れる。そんな空気にエヴァのことが心配になるが、本人はそこまで気にしてないようでスタスタと戻ってくる。
オリヴィアの番が来て水盤に手を翳すと、水面は薄青色に染まり水球がふよふよと浮かび上がる。不規則に動き続けている水球は、それ自体もふるふると形を変えながら漂うので、その都度光の反射が変わって不思議な色合いに見える。傍目には綺麗なのだが、不規則な動きが魔力操作の未熟さを表しているようで、少し複雑な気分になる。オリヴィアの適性は『水』だ。
その後の魔力量の測定で球体は力強く輝いた。魔力量は貴族と比べても遜色ないくらいに強いようだった。とはいえ、このクラス内での話で上位クラスの貴族には劣る。それでも平民にしては強い魔力を持つオリヴィアは、少し注目を集めていた。
「エヴァ、エヴァが水盤に手を翳した時、すごく綺麗だった!」
「そう?ありがとう。ヴィアの時の水も綺麗だったわ。それに、じっとしていない所はお転婆なヴィアに少し似てたね。」
「もう、どういう意味?」
ぷうっと頰を膨らませると、エヴァはからかってごめんなさい、本当に綺麗だったわと、楽しそうに微笑む。
「綺麗といえば、あの希少属性の方も綺麗だったね。」
「うん、それから火と水の属性持ちの子もカッコ良かったよね。」
そうやって、1日を振り返る。同じ属性でも水盤に現れる変化は人によって異なり、見ていて飽きないものだった。食堂での契約獣や、魔力測定での光景、昨年までは想像さえしなかった魔法の世界に触れたことに興奮して、オリヴィアは瞼が重くなるまで今日のことを話し続けた。




