3-14.「採血」
vsフルマルン、vsメルティ戦を終えた俺たちは俺の部屋に戻った。
先の戦いではフルマルンの実力を測り、俺の力を見せつけ、メルティの成長を確認した。
ガーベラ王女も飽きている様子ではなかったし、良い時間の使い方をしたよな。と俺はガーベラ王女の正面で紅茶を飲みながら考えていた。
「先程の戦いに感動致しました。ジークエンス様は、本当にお強いのですね」
「ありがとうございます、ガーベラ様に強いと思われたのは嬉しいですね。今後力が必要な時は構わず相談して下さい、私が力になりますから」
「はい、ありがとうございます」
紅茶を飲みながら話している俺たち2人の話題は、さっきの試合だ。
最優先事項の一つである
ガーベラ王女に俺の強さを見せて、その強さを頼りにして貰う事に成功した。
経験則からこの城及びこの国はあまり平和じゃない。
先代も今代も、王族が外部から命を狙われる王家だ。そんなもしもの時に俺の力を頼って欲しいので力を見せたのだ。
そんな話を続けている間に、夕食の時間まで残り1時間程。部屋の扉が開いて執事が戻ってきた。
遣いに出していた専属執事のミゲルだ。
会話が切れた瞬間にミゲルが俺の近くに寄り、耳打ちで情報を伝えた。
「殿下、例の容器を回収致しました。そして陛下より『急ぎ、一昨日の詳細を纏めて提出せよ』との事です」
「分かった、今日までに一昨夜の出来事を纏めてお前に渡す。そして容器は私の部屋に持って来い」
「了解致しました」
一昨夜いつの間にか無くしてしまった容器は無事、みつかったようだ。
更に、その一昨夜の出来事を纏めて提出するようにと王からの催促。
すっかり忘れていたよ。
「ジークエンス様。ジークエンスには重要な仕事がある御様子ですので、私は部屋に戻る事に致します」
「分かりました」
口元を拭いて立ち上がり、部屋に戻ろうとするガーベラ王女の手を取って部屋まで送る。
俺とミゲルとの会話から何か察してくれたのだろう。
「では、夕食前に部屋に伺います」
「はい。お待ちしています」
ガーベラ王女と約一時間後の夕食の約束をし、一時間でレポートと採血を終わらせる為に俺は部屋に戻った。
◇
部屋に戻った俺は席に着いた。
さっきまでブレイクタイムを楽しんでいたソファーでなく、様々な資料が置かれた机専用の椅子。
そしてアテン ザ ミステルの資料が入った棚から、タイトルに『生存している悪魔及び薄型爆弾の脅威について』と書いてある紙を取り出した。
そして一昨夜の出来事を思い出していく。
・向かう途中に奴隷解放をして
・悪魔ダエーワと戦い勝利して
・悪魔達がこの国に入るのを制限する契約を結び
・人質だったチェリンを家まで送り届けて
・帰り道でガーベラ王女たちの乗った馬車を盗賊から守った。
書く内容は、奴隷解放は省いても良いだろう。
ダエーワとの戦いとその後の薄型爆弾を記述。
悪魔シャムネルと交わした契約を細かに書き、肝心の悪魔ダエーワの生存も記述する。
義妹であるチェリンの無事。その時は分からなかったが、婚約者の乗った馬車を最近多くいるらしい盗賊から守った事も……書いた。
言葉を選び、大体十分くらいでレポートとして仕上げられた。
事実を伝えるだけなんだから簡潔でよいのだ。
書き終えた俺は肩と手首を回しながら部屋を見ると、あの容器を持ったミゲルが立っていた。
一昨夜に悪魔ダエーワが残した、血を保管する容器だ。
「殿下、探されていた容器はこちらで間違いないでしょうか?」
「それだ。よくみつけてたな」
ミゲルが手渡す容器を机の上に置き、確認する。
この容器は形、材質からして珍しい。まるでプラスチックやガラスのようなのだ。
これに血を注がないといけないのだが、量が多過ぎる。
あれ? これってどうやって注げば良いんだろく。そんなに血は出なくないか?
「うぅ……ん」
レポートの横に置いた容器を見ながら考える。
一回に容器の4分の1の量が必要で、ぱっと見一回で500mL以上の血液が必要だ。
ダエーワは俺の『神通力の宿命通』が目的で、同じく神通力を持ったアシュレイ姉様の血は回収済みと言っていた。
アシュレイ姉様もこの量を採血したのか。
「今からアシュレイ姉様の部屋に伺う。ローザは先行して部屋に向かえ」
「分かりました」
考えたが俺には安全な採血の方法も分からず、経験者のアシュレイ姉様に教えて貰いに行くことにする。
刃物で皮を斬れば血が出るだろうけど、流石にこれだけの量を流したら貧血になるし、血液不足になって死にそうまである。
「そしてミゲルは、私が纏めたレポートを陛下に届けろ」
「はい、了解致しました」
俺がアシュレイ姉様に採血の方法を聞いている間に、ミゲルには王にレポートを渡して貰う。
レポートの内容を詳しく知るにはこの容器も必要になるのだが、容器は必要になるので後で届ければいいや。
先行したローザとレポートを受け取ったミゲル。
部屋に残った俺と、容器を持ったサーシャと婆やとメルティ。
特にやる事もない俺が部屋を出たのは、資料を軽く整理し終えた3分後だった。
◇
アシュレイ姉様の部屋に来たのは今日で二度目だ。
一度目は俺の家名の参考の為、アシュレイ姉様とハルト兄様の家名を聞きに訪れた。
そして姉様は家名を響きだけで決めていたり、レイングラム伯爵になっていたりと知らなかった話を教えて下さった。
二度目は、血を多く採血する方法を教えて貰いに今部屋の前まで来ている。
部屋の前には姉様の執事がいて、『話は聞いている』と部屋の中に案内された。
「さあ座って頂戴。今回はジーク一人なのね」
「はい。今回も姉様に伺い事があるのです、まずはこの容器を見て下さい。」
「あら、何かしら……」
「血を補完する容器です。私はある事情でこの容器4分の1まで私の血液を満たさないといけないのですが、私はその方法を知りません。
ですが姉様ならその方法を知っているのではないかと、伺わせて頂きました」
ソファーに座った俺は、サーシャに持たせていた容器をテーブルに置いて聞いてみた。
容器を見たアシュレイ姉様は驚きの表情。
俺は今の状況を話し、その方法を伺った。
「私が考案した採血専用の魔術があります。自らの血にしか使えませんが、必要なら今すぐに覚えなさい」
「分かりました。ありがとうございます姉様!」
「ですがこれだけの量を一日で採決してはいけません。少なくとも二日に分けるのよ?」
「はい」
アシュレイ姉様はいくつもの魔術を作っているが、まさかそんな魔術も作っていたとは。
魔術を教えて貰う前にまず使用上の注意を受けた俺と、姉様は席を立つ。
「部屋を移しましょう。隣の部屋で、ジークにその魔法を教えてあげるわ」
「ありがとうございます」
一緒に部屋を出た俺たちは隣にある魔法の研究部屋に向かう。
姉様から採血専用魔術を教えて貰えば、これから続くあと4回の採血も楽になるだろうな。