3-13.「vsメルティ」
踏み込みとスピードとタイミングと剣。それが重なり合い、打ち合った俺とメルティ2人の一撃目は単純な力比べとなる。
3年前は、男女の力の差で毎回俺が押し切っていた。だがしかし今は……
「(俺が押されている?)」
踏み込みも、剣の角度も加える力も3年前とは変わっていない。
変化があるとすればメルティの方だ。
加えている力は以前より強いし、俺が指摘した悪い癖も直っている。
意識を失って目覚めるまで、身体は3年間経過しているが記憶の感覚では1日も立っていない。
俺を守れなかった事を後悔しながらそれでも、強くなっていたんだな。
自分の練習相手がちゃんと、3年間相応強くなっていで嬉しい。
「ハァッ!」
力での押し合いに制し、何度かの攻防を繰り返し後彼女が放った横薙ぎの一刀に少しよろめいた。
彼女はその隙を逃さずに追い打ちを仕掛け、俺はその攻撃を捌くのに精一杯の防戦一方。
一秒間のうちに何度も打ち込まれる攻撃に、服が擦るギリギリで避け、剣で対処する。
だがその隙に次の攻撃を準備して繰り出すスピードに、足も下がっていく。
「(そしてやはり一刀一刀が重い。これは彼女が強くなった……よりも俺が弱くなっているのか?)」
その考えを読んだ様に、優勢状態のメルティは剣を振りながら喋り始めた。
「私が殿下に勝てる方法はありませんが、今ならっ! 殿下の膂力が戻っておりません今なら勝機はあります!」
「ーー成る程な」
俺が目覚めたのはつい最近。
その日までベッドで寝たきりだった俺の体は、筋力不足で全然動かせず、魔法を使用した強引なリハビリの結果5日での復活に成功したのだ。
つまり、彼女が力を上昇させたのに俺は3年前と同等以下って事。
成る程。力で押されるのも納得だ。
ちなみに短期間のリハビリだが、勿論俺1人の成果じゃない。
この復活には俺の復活を計算し、無理なリハビリにも合わせてくれたアシュレイ姉様と妹のリズやメリアス。
入浴の際、体や筋肉をほぐしてくれたらしいメイドのローザやサーシャ達の力もある。
「だが……」
「ーーッ!?」
一度少しの距離を取った後、後退していた足を止め、慣れた攻め口と定石を変えたリスキーな交戦に出る。
下がった距離の分だけ姿勢を前傾に倒し、片足を前に出して斬り込みを入れる。
一振り一振りに力を込めた攻撃。いくつもの方向から剣を振り、メルティに剣での防御を誘発させる。
「えっ……」
彼女は易々とそれを受け止め攻勢に移ろうとするが、それが狙いだ。
メルティは俺の右からの袈裟斬りを剣で滑らせ、その加速で勝負を決めようとしたのだろう。
あだが剣と一緒に体を移動させた俺は、彼女の剣に横方向から下に力を加える。するとバランスを崩したメルティは地面に叩き付けられる。
俺を甘く考えたバトルイメージだが、その通りにはいかないぞ?
メルティも慌てて体を起こし、剣を構える。
「私に遠く及ばなかった3年前とは違う。流石だ、かなり強くなったな」
「ーーありがとうございます! 殿下の言葉で私、救われました」
「救われるのは良いが、お前は私にはまだ及ばないな。本気で来いメルティ、鍛えた力を主人に見せてみろ」
「はい!」
間合いの外からまだ少し距離をとった位置。
俺はメルティを賞賛し讃え、彼女はそれを受け止める。
会話の後は、互いに再び剣を構える。
緊張感が途切れる合間を狙い、それが訪れず痺れを効かした俺が一歩踏み込む。
それを見たメルティも、俺に攻撃を加える為に動く。
◇
俺が右上段から振り下ろせば、メルティそれを払って左上段から攻める。
それを払われた剣で左上段を払い、更に下から上に……と、俺とメルティの攻防は一瞬のうちに不必要な行程や間が一切ない剣の打ち合いだ。
王子の女騎士としての見栄えも重視する彼女の細腕。
俺が体勢を落とし右腕一本で交戦している状況でも、3年前なら力で押せたが今は逆に押し返される。
『筋肉量の少ない腕では、片手剣を両手で持っても必ず押される』
『互いの攻撃を高速で読み合い拮抗しているように見えるが、力で押されていく』は昔はメルティに当てはまった言葉だが、今は俺ことジークエンスに当てはまるのだ。
今の俺だって一応因縁のある悪魔を倒した実力はあるが、行動パターンを知られている俺と手の内が増えた彼女とでは実力も逆転してしまう。
俺はこの状況をひっくり返す為後退し、体内の魔力を循環させ聖銀剣に流し込んでいく。
所謂剣ビーム。それを光線を放つ準備だ。
一瞬で魔力の光が強くなり、輝き始めた聖銀剣を振る。
「まさか……ッ」
「ロード・ブラスターー!!!」
右肩から袈裟斬りを放つが如く伸びる、輝きの光線。
斜めに伸びたその光には攻撃性があり、触れれば重傷を負うので当てる気はないし、当たらないだろう。
魔力の光線には安全の為の魔術はかかっていないので傷を負う。→だが防戦一方な状況を変える為に剣ビームを放つ。→しかし傷つけたくないので躱せる用に放った。
聖銀剣の光でメルティも、俺が何をするかに気付いたようで、王宮剣術ロード・ブラスターの攻撃をしゃがみこむ事で躱した。
これで大きな一撃を躱したメルティが優位に立った。
「ーーだが、私の勝ちだ」
剣をメルティの額に向け、確定した勝利宣言を彼女に放った。
俺も、当てる気がない技を使った後にただただ静観なんてしない。
ロード・ブラスターが伸びる影を走ってメルティに近づき、勝負を決めた。
「私の負けです」
俺に気圧され尻餅を付いたメルティ。その彼女の敗北宣言で俺は勝利したのだった。
俺が距離を詰める事が出来た理由は、メルティが対戦相手の俺を見ず攻撃だけに集中してしまったから。
だからしゃがみ込んだ時に剣を向けられ、負けた。
「私の手をとれ。ーー強くなったな、メルティ」
「……はい、ありがとうございます殿下!」
剣を鞘に収め手を差し伸べる。
彼女はその手を上から恭しく重ね、まるでエスコートして貰うお嬢様の様に立ち上がり頭を下げた。
「お前が私と拮抗する戦いをするなど、思っていなかったよ。だからまた、私が眠っていた間の話を聞かせてくれ」
「承知致しました。殿下」
いつの間にか手から落ちていた剣を拾い上げ、鞘に戻したメルティ。
そして勝負を終えた俺たちは、ガーベラ王女達の元へ戻っていった。
ちなみにメルティが剣ビームを撃ってこなかった理由だが、それは簡単。
彼女は技の発動までが遅く、俺がそれを許さない猛攻をしていたからだ。
◇
観覧席の結界を全て解除した俺は、中にいるガーベラ王女達の元に戻った。
ガーベラ王女は先のフルマルンとの戦いも、ドキドキしながら見ててくれた様だが今度は全員が。主にガーベラ王女とフルマルンの食い入り具合が凄い。
「ジークエンス様は流石にございます、本当にお強いのですね。ーーですがお怪我はありませんか? 本当に、今の戦いは凄かったですので」
「心配ありませんよ。私も彼女も無傷です」
「それは良かった……」
ガーベラ王女はひたすら心配している。
恐らくどんな攻防が繰り広げられたか分からなかっただろうが、力が拮抗した接戦だったし、白熱しただろう。
胸を撫で下ろすガーベラ王女からフルマルンに視線を移した。
だがフルマルンもまた興奮状態。その彼女にも話を振ってみると
「フルマルン、お前にはこれ程とは言わないが強くするつもりだ。今の試合の最後はどう見た?」
「はい。中盤まではジークエンス殿下とメルティ殿の接戦でしたが、ジークエンス殿下が放たれた攻撃を起点に一気に勝負を決める戦法。まさに流石にございます」
「そうか」
何が起こったか理解は出来ているようだな。
戦いの目と頭はあり、あと彼女に無いのは実力だけなのはいい事だ。これで実践練習に注ぎ込む時間が増える。
「試合も終了致しました。ではガーベラ様、部屋に戻りましょう」
「分かりました。そうしましょうジークエンス様」
ここに来て2つの試合を終えたが、まだ1時間も経っていない。
だがもうここでやる事はない。
俺はガーベラ王女の手を取り、俺の部屋に戻った。
ちなみにバトルの行われた演習場の整地や後片付けはその場の騎士達が行うのだが、ロード・ブラスターの痕は地面が押されて固まっており、整地が凄く大変だったらしい。




