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私、元は邪竜でした  作者: 瀬野 或
四章 邪竜と賢者 〜東大陸 観光地レンデル 地獄の炎編〜
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〖第五十話〗私達、会議しました


 南大陸の東北に位置する港町『レンデス』は、いつもなら観光客で賑わいを見せる町なのだが『レチラード』の事件以降、観光客が途絶えてしまい、かつての活気は何処へ行ってしまったのかと思えるほど、悲しみと絶望に満ちた重苦しい雰囲気を醸し出している。船着場から少し歩いた先にある広場に入港監査室があり、そこで入港手続きを済ませるのが入港の手順だが、五将にもなるとそこを素通りできてしまうようだ。だが、それはどうやら違うらしく、あらかじめゼルの口利きがあったらしい。入港したディレザリサ達をゼルの部下が待っていた。


「お待ちしておりました。ゼル様はレチラードに設置したテントで待機しています。町の外で馬車を待機させていますので、お疲れの所申し訳御座いませんが、お乗り頂けますでしょうか」

「構いませんよ。急ぎましょう」


 レウターの言葉に一同は頷き、俯く町民達とすれ違いながら、レンデスの外に待機してある馬車に乗り込む。馬車は二台用意されており、先を行く馬車にレウターnとバリアス。後続の馬車にはハイゼル、ディレザリサ、フローラが乗り込んだ。五将を一纏めにしなかったのは、襲われた際に二人を護衛する為だが、それ以前に『面白そうだから』という理由でレウターはこういう組み合わせにしたのだ。

 ガタガタと揺れながら馬車は広い草原を走る。途中、獣の鳴き声のような雄叫びが馬車の中まで聞こえてくるが、それはこの辺りに生息している二本の角を持つ『ロアバッファル』と呼ばれる、牛のような動物の鳴き声だとハイゼルは二人に説明した。ロアバッファルの角は高値で取引される。加工して武器の一部にしたり、アクセサリーにしたり、上質な判子にしたりと用途は様々で、ロアバッファルの肉は筋肉質だが、脂身もしつこくなく、比較的庶民でも手軽に食べる事ができる。どうやらこの辺りはロアバッファルの放牧地らしい。木材で作られた柵が何平方も張り巡らされている。


「ロアバッファルの肉は噛みごたえがあって美味いな。こんな事態でなければ食べに行きたい所だが……」

「そうだね。でも私は野うさぎの肉に慣れてるから、野うさぎがいいなぁ」

「レイバーテインで野うさぎの肉を手に入れるには、露店を何件かハシゴしなければなりませんからね。私は数回しか食べた事がありませんが、フローラさんが作ったシチューに入っていた野うさぎの肉は、口の中にいれた途端にホロっと崩れて、臭みもなく、とても美味しかったですよ」

「ああ、そう言えばそんな事もあったな。……忘れたい過去だと思っていたが」

「あの失態は、お忘れ頂きたい……」


 ハイゼルが『歌う精霊』を求めてゴロランダ山に入り、遭難したのは数ヶ月前の事だが、もう何年も昔の事のように思える……と、三人はあの山小屋で過ごした日を思い出し、暫し感傷に浸っていた。

 やがて馬車が停止し、「到着しました」と馭者(ぎょしゃ)が扉を開けた。先にレウターが降りて、ディレザリサとフローラに手を貸して二人共降りる。


「凄まじい光景ですねぇ……」


 先に降りていたレウターは、何が面白いのか笑みを浮かべている。


「貴様という男は、この惨状を見て笑うか……」


 バリアスはレウターの様子を見ながら、軽蔑するかのように睨んだ。


「と、取り敢えず、ゼル様の元へ参りましょう。お話しはその時に……」


 ハイゼルはこの一触即発の空気を読んで、二人を仮設テントへと促した。


「ハイゼル様、大変そうだね」

「いつも通りじゃないか?」

「そうなんだけどさ? バリアス様もいるから緊張してるんじゃないかなぁ……」


 確かにハイゼルの表情はいつもより硬く感じた。それはバリアスがいるからというのもあるが、これから何が起きるのかという不安もあるのだろう。確かにこの一面焼け野原状態を見ればそれも頷ける。

 テントの中は広く、奥に木製のボードvがあり、そこには南大陸の地図が貼られていて、中央に長四角い木製のテーブルが一つ有り、それを囲うように椅子が並べられている。その一番右奥にゼルが足を組んで座っていた。


「───何故、お前がいる?」

「久しぶりですね。ゼル様」

「───成程。そうだな……」


 本来ならここで憎まれ口の一つや二つ交わすのだが、今回はバリアスが同行しているので、ディレザリサも慎重に言葉を選ばなければならない。それを察したゼルは、これ以上ディレザリサに絡むのを止めて、レウターを見た。


「やあ、ゼル。元気そうで何よりですよ」

「───()かせ。それで、今回はやはりバリアスも来たか」

「事が事じゃからな。それで、現状はどうなっておるか聞かせてくれまいか?」


 ゼルは組んでいた足を解き、全員が着席するのを見計らって説明を始めた。


「レチラードは見てもらった通り全焼している。生存者も今の所見つかっていない。そして、出火の原因だが……」

「魔剣・地獄(インフェルノ)(バーン)じゃな」

「レウターからの折り返しの手紙に書いてあった魔剣か……。バリアス、その魔剣は一体どんな魔剣なんだ」


 バリアスはゆっくり息を吐き出してから、魔剣について語り出した。


「地獄の炎は〝魔王の遺産〟の中でもタチの悪い魔剣じゃ。使用者の精神を乗っ取り、自分が満足するまで炎で周囲を焼き払い、最後に使用者をも焼き尽くす。今回、レチラードだけの被害だけだったようじゃが、それで満足するとは到底思えん。きっと他の町や村を襲うじゃろう。 以前、儂はこの魔剣を封印して隠したのじゃが、どうやら誰かが封印を解いたようじゃな……」

「それで、ゼル。地獄の炎は見つかったのですか?」

「───いや、まだだ」


 朝に到着して、現在は夕方。それまでの間周囲を探索していたようだが、手掛かりになるような物も無く、操作は難航していたようだ。


「魔剣がその場にになかった……という事は、誰かが持ち去った後という事でしょうか。それとも、その魔剣は自ら移動出来るような能力を持っていたりするのでしょうか?」


 ハイゼルはバリアスに訊ねる。


「儂が以前、地獄の炎と相対した時には、そういう能力はなかったが……それも考慮する必要がありそうじゃな」

「なるほど……魔剣は日々〝進化する〟という事ですね?」


 『進化』という言葉に、レウター以外の五将が危機感を覚えた。村一つを焼き尽くす程の威力を持つ魔剣が、これ以上進化してしまった場合、最終的に大陸全土を焼き尽くす力を持つ可能性がある……という事を、レウターは示唆したのである。


「バリアス。今の所アンタが一番この魔剣に詳しい。魔剣が行きそうな場所とか無いのか?」


 だが、バリアスは唸っているだけで、明確に返事を返す事が出来ないでいた。それもそのはずで、魔剣が自らの意思で移動するなど、見た事も聞いた事も無いのだ。


「───お手上げか」


 打つ手無し……そんな雰囲気がテントの中を漂うなか、一人だけ、この現状に笑みを浮かべる者がいた。


「レウター。お前、何か知ってるのか?」


 ゼルはレウターが笑みを浮かべているのを見て、この男なら何か企てているのではと思ったのだ。


「そうですねぇ……。例えば、地獄の炎が意思を持った魔剣だとすると、次のターゲットはより人間の多い場所で、しかも、絶望が蔓延している場所になるのではないかと思いましてね。それを考慮すると、次に狙われるのは……」


 そこまで言われて、今日南大陸に上陸した者達なら誰でも思い浮かぶ場所があった。


「───港町、レンデスでしょうね」


 緊張感が張り詰める。

 もしレンデスを攻撃されたら、無論、船も燃やされるだろう。つまり、ディレザリサ達一行は南大陸に閉じ込められる事になる。仮に魔剣がディレザリサ達一行が上陸していて、自分を回収、或いは破壊しに来たと知っていたら、間違いなくそうするだろう。


「では、二手に分かれましょうか。バリアスとハイゼル、そしてディレさんとフローラさんはレンデスに戻り、港町の警備と見張りをお願いします。私とゼルは此処に残り、今一度魔剣の手掛かりを探りながら、捜索を続けます。何か異論はありますか?」

「無難じゃな。もし地獄の炎がレンデスに現れたとしても、儂とハイゼルなら食い止める事が出来よう。それに、このテントに女性二人を寝かせるのは可哀想じゃな」

「私もレウター様に異論はありません」 

「───じゃ、決まりだな」


 ディレザリサとフローラは、この会議を聞いていたが、一言も発言出来なかった。


「五将会議って、いつもこんな感じなのかな?」

「さぁな……だが、今の一連の話を聞いていて、引っ掛かる事がある」

「え?何かあった?」

「今はまだ、確信が無いから言えないが……」


 ディレザリサはある男の発言が気になっていた。だが、それに確証が得られていない以上、口に出すのは厳禁だ、と、フローラに伝えなかったが、明らかにあの男は『何かを隠している』はずだ……と、ディレザリサは行動を開始した三人の五将と、それを纏める総括の男を見た。


(まあいい……。奴が気付いていないのなら、私が奴の化けの皮を剥がすまでだ……)


 ハイゼルはディレザリサ達に声を掛け、再び四人はレンデスへ引き返す事になった……。


 【続】

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