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私、元は邪竜でした  作者: 瀬野 或
四章 邪竜と賢者 〜東大陸 観光地レンデル 地獄の炎編〜
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〖第四十九話〗私達、ガールズトークしました


 フローラの告白は、ディレザリサを困惑させるには充分過ぎた。一番不明瞭なのは『どうして好きになったのか』だが、それに対してフローラは言明していない。『もしかすると好き』という、実に曖昧な表現だけに、ディレザリサもどうして良いものかと悩む。そして、そんな自分はどうなのかと考えてみたが、ディレザリサには『恋愛感情』というものが一体どういう感情なのか分からず、結局何も分かっていないのでフローラにどんな言葉をかけるべきか……と、黙ってフローラを見詰めていた。


「あはは……そんな困ったような顔しないでよ……」


 苦笑いを浮かべながら、フローラは船の甲板の落下防止の手摺りに背中を預け、小石を蹴るかのように足を軽くブラブラと振った。


「ディレはどうなの?ハイゼル様の事……好き?」

「そ、そういう感情に疎いのは知ってるだろ……」

「駄目だよディレ。逃げるのはズルい」

「ぐぬぬ……」


 最近、ハイゼルと顔を合わせるのを避けていたのは確かだが、それが『恋愛感情によるもの』と結び付けられない。それはディレザリサの『人間』という『経験』が、あまりに無さ過ぎる為でもあった。レウターに借りた本にも人間について記されていた物があったが、それが自分の理解に繋がる事はあれど、文献に記されているものは『文字』に過ぎず、それ以上を知るには『人間をやる』しかない。人間の経験を積んで、初めて『自分の解釈』に到達出来るのだ。


「もっと自分の気持ちに素直になりなよ。〝(つがい)〟って言葉じゃなくて〝恋〟って言葉を、ディレはもっと考えた方がいいかもね」

「恋か……」

「折角女の子として生まれてきたんだもん!やっぱり恋愛はしないと勿体無いよ!」

「そ、そうなのか……?」


 いつの間にか『フローラ先生の恋愛講座』になって話に花を咲かせていたが、そこに一人の男がディレザリサ達に話し掛けてきた。


「何やら楽しそうじゃな」


 白く長い髭を生やした老人。五将の一人であり賢者、バリアス・アンダーソン、その人である。


「バリアス様。ご機嫌は如何ですか?」


 ディレザリサはいつもの『背伸び言葉』に戻り、まだ未知の人物を警戒しているようで、その言葉に少し冷たさを感じる。


「若い頃は船旅をしていたのじゃが、歳はとりたくないものじゃな……波が腰に響いていかん。良い〝回復役〟がいれば、この痛みもどうにかなるのじゃがなぁ……」

「ナターニャ様がいれば、痛みも緩和出来たのでしょうね」

「……ほう。ナターニャとも知り合いなのか」

「……えぇ。親しくさせて頂いております」


 ディレザリサは、今『しまった』と心の中で思った。この男は、ディレザリサ達が敵ではないか、探りを入れに来たのだろう。


「そう身構えなくて良い。儂はただ、お主達がどんな人間なのか、話をしに来ただけじゃからな」

「は、はい……」


 フローラは緊張しているようで表情が硬い。本来、五将に会う機会なんて、普通の民間人では滅多に無い事だ。それこそ『賢者、バリアス・アンダーソンに会う』なんて、魔法研修者でもない限り、会う機会の無い人物なのである。


「あ、あの……バリアス様。一つお聞きしたい事がございます」


 それでも、フローラはここで負ける訳にはいかなかった。自分がディレザリサと共に歩くという事は、こういう高貴な相手と話す機会も増えるという事になるのだから、自分もそれに慣れる必要がある。


「ふむ。儂が答えられる範囲ならお答えしますぞ」

「〝魔法〟とは、何でしょうか?」


 その問いに対して、バリアスは『ほう』と、何やら一人で納得し、二人を見詰めていた。


「その質問は、精霊云々の話ではなさそうじゃな?」

「ば、バリアス様は〝魔法の深淵に最も近付いたお方〟として有名ですから、バリアス様のお考えをお聞きしたいんです」


 ディレザリサは静かな顔をしているが、内心ではかなり驚いていた。まさか、フローラがそんな質問をするとは思っていなかったのだ。確かにフローラは竜が使う『創造魔法』が使える。魔法に興味があっても不思議ではないのだが、今の今まで『恋』だのなんだのと話していただけに、そのギャップは凄まじいものである。


「儂が思うに、魔法とは即ち〝生命そのもの〟だと思っておる。先ず〝生きている事自体〟がそもそも魔法なのじゃよ。魔法も生命も、長い年月をかけてゆっくりと育むものじゃ。それは先程お二人が話していた〝恋愛〟に通ずるかもしれんな。人と人とが出会い、そしてその間に生まれるモノ……不透明で形の無いモノであり、それは魔法も同じ。傷付け、壊し、欺き、滅ぼす事もあれば、癒し、生かす事も出来る。これは人間も同じじゃな。つまり魔法とは〝生命そのもの〟という事じゃ……ちと分かり難かったかの?」

「いえ。とても素敵なお考えだと思います」


 魔法が生命と同じなら、竜はどうなのだろうか…と、ディレザリサは思う。竜は存在自体が『天災』とされ、忌み嫌われてきた存在だ。向けられる感情は『殺意』や『憎しみ』や『恨み』といった負の感情のみだ。


(なるほど……だから私は人間の恋愛感情を理解出来ないのか……)


 ハイゼルから愛の告白をされた時に、心臓が跳ねたのは『知らない感情』をぶつけられたから。今まで孤独に生きてきたディレザリサにとって、それは『未知』であり、『恐怖』だったのかもしれない。


(もう少しだけ、〝恋〟という感情に踏み込んでみるか……)


 ディレザリサの自問自答は、甲板に出て来たハイゼルによって遮断された。


「皆様!間もなく南大陸に到着します!上陸の準備をお願いします!」


 そう一言だけ残し、ハイゼルはまた船内へと入って行った。


「全く……いつから英雄は船員になったのじゃろうな……」

「フフッ……これもハイゼル様の良い所ではありませんか」

「そうかもしれんな。じゃが、今のままではいかんな……」

「……?」


 何やら意味深な事を呟いたバリアスだったが、それ以上言及する事もなく、三人は上陸の準備をする為に船内へと入って行った。



 * * *


「目の前に見える島が、南大陸です。中央大陸よりは小さい島ですが、暖かい気候で果物が豊富な大陸です。この島で取れるグァナナと呼ばれる果実は、近年人気になり、この島から輸出されるグァナナは、ほぼこの大陸から輸出されています。他にもカーシィという苦味のある飲み物や───」


 上陸する前に船員の一人が、この大陸について説明をしている。


「ねぇ、確かランダにいた果物商の人も、南大陸出身って言ってたよね?」

「ああ、名前は確か……エドとか言ったか。会えたら改めて礼がしたいな」

「そうだね♪」


 まるで観光でもするかのように話している二人だが、上陸したらゼルが率いる隊と合流し、現状報告とこれからどうするかの作戦会議が始まる。故に観光している暇など一秒足りとも無いのだが、新しい土地に浮かれる気分も分かり、ハイゼルは苦笑いしながらも「私もお会いしたいです……時間があれば探してみましょう」と言っていた。


「これより先は、いつ襲われてもおかしくありません。皆、慎重に行動をして下さい。特にディレさんとフローラさんは、ですよ?」


 レウターは二人の会話を聞いていたのか、予め釘を刺した。


「分かってますよ!ね!ディレ!ハイゼル様!」

「わ、私も含まれているんですか!?」


 ハイゼルは頭をブンブン振りながら「ち、違います!違いますから!」と抗議しているが、それがかえって逆効果で、レウターから白い目で見られている。


「まあ、二人の事はハイゼル君にお任せしますよ。でも、両手に花で浮かれるようであれば、任を解きますからね?」

「……かしこまりました」


 バリアスは大きな溜め息を吐き出し、情けない……とでも言いたそうな顔をしている。


「では、行きましょうか……」


 船はゆっくりと速度を落とし入港した。

 そして、ディレザリサ達は再び、戦乱の渦に巻き込まれて行くのである……。


 【続】

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