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私、元は邪竜でした  作者: 瀬野 或
三章 邪竜と聖者 〜中央大陸 首都レイバーテイン 暴虐の牙編〜
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〖第三十三話〗皆、捜査を開始しました


 それは、まるで廃棄物のように積み重なっていた。廃棄物の袋が敗れて滴る何とも言えない液体のように、『ソレ』から溢れ出したのだろうモノは、月の光に照らされて、赤黒い水溜りを作っていた。

 無造作(むぞうさ)に積み上げられた『ソレ』は、まるで糸の切られた人形のように、ぐったりと腕を曲げて、今も再び糸を繋いでくれるのを待ちわびるかの如く、その場でぐったりと横たわっている。


「背後から一撃…それも、全員が…」


 それを証明するかのように、一番上に横たわる『ソレ』は、親切にも仰向けに積み上げられている。つまり、一人一人、丁寧に背後から襲った…という事だ。そんな無駄とも思える行動にも、犯人からすれば重要な意味があるに違いない。

 ディレザリサは『ソレ』が積み上げられている周囲を見る。争った形跡は無い。つまり、この中の誰一人として、犯人を見ること無く、そして、反撃も許されず事切れたのだろう。


「そうなると…瞬間的に移動出来る力を所持している事になるか」


 例えば、ハイゼルが得意とする『朧崩し』という剣技。あれは、超速移動から放たれる超速の斬撃だ。こういう技を会得しているのなら、この現状も納得出来る。


(かと言って…ハイゼルが犯人のはずもない…一体誰が…?)


 こうして考えている間にも、もしかすると襲われている兵士がいる可能性がある。今日はレウターとゼルが見回りに出ているはずだ。幾ら超速剣の使い手の犯人でも、この二人を相手にするのは危険だろう。それに、この二人が負けるという場面は、なかなかに想像し難い。ただ、二人は…という話で、見回りをしている兵士がその領域に達していないのは、目の前に横たわる『ソレ』が証拠だ。何より、この兵士達は『男』なのだ。犯人がターゲットにするには好都合。


「全滅も有り得ない話ではないな…」


 ゼルとレウターが警備に参加しているにも関わらず、兵士達を無駄死にさせたとなると…これは謝罪だけで済む話ではなさそうだな…と、ディレザリサは思った。だが、ゼルとレウターが許されようと許されまいと、この状況が最悪の状況という事に、何ら変わり無い。とどのつまり、朝が来る前に(かた)を付けないと最悪の結果に終わるという事だ。


(別に人間が幾ら死のうと構わないが…このままだと私が犯人に仕立て上げられ兼ねない。時間はあまり残されてはいなそうだな…)


 ディレザリサは目を閉じて、この状況で一番の最善策を考える。思考の海の中に身を投じて、深く深く…深海にも匹敵するかのような、薄暗い海の底へと潜って行く。そして、小さな光を見つけ、それに手を伸ばして掴んだ。その光こそが、今自分がどう動くべきかの答えであり、唯一の希望でもある。


「───ゼルかレウター…どちらかと合流だな」


 身の潔白を証明するには、判決を下す者のすぐ傍にいればいい。この場合、ゼルかレウターのどちらかと合流して行動するのが最善手だ。


(それなら魔力を追いやすいゼルだが…)


 レウターがこの事件をディレザリサに伝えた時、この事件の担当はゼルだと伝えられた。なので、魔族であるゼルの魔力を追えば、必ずゼルと合流出来るはずなのだ。然し、どうにもこうにもゼルの魔力を感知出来ない。気配を消している可能性も否定出来ないが、今回の敵を考えると、何となくだが嫌な予感がした。

 ゼル…元は白銀の騎士として、世界最強の人間であったが、この世界に転生された後は魔族としての生きている。今のゼルは白銀時代の魔力よりは弱いが、それでも、並大抵の相手に不覚を取るような魔力ではない。然し、今回ばかりは分が悪いかもしれない。あの死体を見るからに、相手はプロ…相当な腕だ。しかも、気付かないうちに背後から斬られるので、一撃で終了…という事も十二分にある。


「早く合流した方が良さそうだな…」


 積み重ねられた死体を横切り、ディレザリサは走り出した。


 * * *


「まさか、これ程とは…」


 ハイゼルは絶句していた。あの時、自分が声を掛けた兵士達が、今では命無き人形のように、床に倒れていたのだ。だが、これだけではない。来た道を引き返すまでに、数人の惨殺死体を目にして来たのだ。これはもう撤退する他に無いのではないか…と、ハイゼルは照明弾を撃った。緊急事態を知らせる黄色い閃光弾が、宙に向かって伸びて、静かに消えて行く。


「レウター様やゼル様はご無事だろうか…いや、あの御二方なら問題は無い。然し…兵士達は…」


 さぞや無念だっただろう…と、ハイゼルは英霊にせめてもの救いをと、祈りを捧げた。


「───ハイゼル。こちらでしたか」


「…あ、アナタは、何故アナタが此処に…ナターニャ様…」


 ナターニャは、まるで夜の闇の中から出てきたかのように、スっと姿を現した。


「嫌な予感がしまして…やはり、的中してしまいましたね…」


 深い悲しみを顕にしながら、ナターニャは倒れている者達に哀悼の意を表す。


「ナターニャ様…一先ずレウター様達と合流しましょう。このままでは全滅も有り得ます!」


「そうですね。然し───」


「・・・・・・?」


「貴方が無事で何よりです…ハイゼル。貴方は英雄…この国に必要な存在。いえ、世界を照らす大いなる光…そして…私の…〝救世主〟なのですから」


「ナターニャ…さ───」


 ハイゼルは今、自分に何が起きているのか分からなかった。あのナターニャが、突然抱き締めてきたのである。


「ナターニャ様!?こ、こんな…お離れ下さい!!」


「そ、そうですね…私とした事が…申し訳ありません…」


 恥じらいながらゆっくりと離れたナターニャの顔は、頬を赤らめていて、今にも泣きそうな表情をしている。


(そうか…ナターニャ様はこれ程までに、この国や世界を…!!)


 ハイゼルは心の中でそう呟いた。


「あの閃光弾で、レウター達もこちらに向かっているでしょう。ですが、それは敵も同じです。警戒は怠らないようにして下さいね?」


「はい!」


 そして、数分経たずにレウターも合流し、三人で現状を報告し合う。


「迂闊でした…まさか、敵がここまで強敵とは思いませんでしたよ」


 レウターは焦りからなのか、額から汗を流している。


「この状況にナターニャ様がいるのは有り難いですね…これでグライゼン様もいれば、五将が揃うのですが…」


「城から五将全員を出撃させるのは、それなりに根回しが必要なのでしょう?レウター」


 ナターニャはレウターに問う。


「そうですね…手筈は整えてあるのですが、私とゼルとハイゼル君がいれば、この事件はそんなに困難な事件ではないと踏んでいたのです。然し、それが油断に繋がりました…」


「そう言えば、ゼル様がまだ見えせんが…」


「…確かに、ゼルの姿が見えませんね。レウター、ゼルを見かけましたか?」


「いや…私は見ていないが…まさか!?」


 三人は同時に、嫌な予感を覚える…。

 この状況でこの場所にいないという事は、即ち、そういう事になるのだ。


「レウター様、ナターニャ様、ゼル様を探しましょう!!」


 三人は、ゼルが担当していた地区へと走り出した……。


 【続】

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