謎とは迷い生まれる
火乃は赤い髪を揺らし俺の横をすり抜けると扉を開けた。
「あら、終わりましたか?」
扉の先には金井達三人がいた。火乃は近くで寛いでいてくれと言ったが、金井達は言葉通り、近くで寛いでいた。廊下にシートをひき、お茶とマカロンで優雅なティータイムを楽しんでいる。お茶はペットボトルの物ではなく、水筒に入れ持参してきたもののようで、紙コップに移して飲んでいた。
「何してるんだよ……」
呆気にとられ俺は口を開く。
「お茶の時間でしたので、こちらでいただいてました」
穏やかな笑みで金井は答える。
「お話も終わったようですし、真夜姉様と水澤さんもいかがですか?」
「私は所用があるから遠慮するよ」
「そうですか」
新しい紙コップを取り出そうとした手を止める。
「ああ、それから、攻が部に入ることを快く了承してくれた」
「快くじゃねえだろ」
俺は訂正を求めて口を挟むが、火乃は意に返さずに話を進める。
「本当なら部長の私が部の説明なりしてやるべきなんだが、多忙で当分顔出しも出来そうにないから、部の説明や、指導なりお前達に任せてもいいか?」
「了解です」
日向は敬礼し答える。
「頼もしい後輩を持つと上も楽できる。それじゃあお前達……限りある青春の日々を謳歌してくれ」
軽く手をあげ挨拶し火乃は部室を去っていった。
足音が遠ざかって行き聞こえなくなると、日向がシートから立ち上がった。
「片付けて部活動に勤しむとするですか」
「そうしましょう」
金井は水筒とマカロンを手に取り部室の中に運び出した。
「部の説明はお茶を飲みながらしましょうか」
廊下を片付け長机にお茶を並べると、それぞれ席についた。俺と月城がならんで座り、向かいには日向と金井が座る。
「それでは改めまして、部の説明と参りましょうか」
金井はお茶に口をつけふーと一息つくと話し出した。火乃がいない場合の進行役は金井がやるようだ。
俺も前に置かれた紙コップを手に取り一口飲む。火乃を前にし、俺の体は心底疲れ、喉が水分を欲していた。
中身は冷えた紅茶だった。香りはいいが味はなく、俺にはこれが美味しいのかどうかは分からなかった。
「教室で彩香も話したのでご存知とは思いますが、時風高校探偵倶楽部は校内に蔓延る謎を解明していく部活になります」
その話は聞いていたが、余りにも抽象的で俺はいまいちピンと来ていなかった。
「謎の解明って言うけれどさ、その謎ってのはなんなんだ?」
これが推理小説の世界なら、校内で起きる殺人事件の解明や、付近の未解決事件を解いたり、密室トリックを見破ったりするだろうが、多少は変わってはいるが、この学校は普通の学校だし、推理小説の世界ではなく、現実世界にある。
殺人なんて身近にあるはずもない。
「謎ですか」
そう金井はポツリと呟くとお茶をまた一口飲む。「これは私が真夜姉様に言われた言葉なんですが、言葉が迷って謎になると言われているが、私は心が迷って謎になると考えている。謎と言うものはちょっとした疑問や悩みの事なんだ。と、言っておりました」
「……心が迷って」
なぜかその言葉が俺の胸に深く刺さった。
「あとはこうも言っていたです」
日向は手にもった紙コップを離すと、腕組をした。「小さな謎なんて青春の日々を送る高校生の胸の中には多少なりとも宿っているもの。友達や家族、恋人の一言で消え去るような小さな謎がね。しかし中にはそれだけじゃ解決できない謎を宿した子もいるんだ。私達探偵倶楽部はその謎の究明、解決のために存在する……です」
火乃の口調を真似日向は言った。表情も真似しようと、不敵な笑みを浮かべようとしているが、上手く真似できてはおらず、小憎たらしい笑みを浮かべた。偉そうなちびっこにしか見えないな。
話を聞く限りで言えば探偵倶楽部と言うものは悩みの相談所と言った所なのだろう。
「なるほどね。何となくは分かったけど、具体的には何をするんだ? 悩みを聞いてアドバイスでもするのか?」
「いいえ」
と、金井。
「私達がするのは調査と報告です」
調査と言う言葉に俺はピクリと反応する。火乃は俺の過去を調べた方法は部活を行っていれば解ると言っていた。
「なあ、その調査って言うのはどうやるんだ?」
「それはーー」
金井は俺の質問に答えようと口を開いたが、その言葉は戸をコンコンとノックする音に遮られた。誰か来たのかと俺は扉を向く。
「……ちょうどいいタイミングですね。どうやるのかは、実際に見せて教えてあげますね」
そう言うと戸に向かった。
「ご依頼ですか?」
開けた扉の先にいた生徒に向かい金井は言った。




