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時風高校探偵倶楽部の活動報告  作者: 也麻田麻也
第二章 探偵倶楽部勧誘事件
19/40

危険な女

「えー、でも真夜姉様の指令はどうするの?」

 跳び蹴りに耐えた数を未だにカウントしていた木ノ実は指を折るのを止め聞いた。


「水澤君の目を見るです。例え無理矢理連れて行っても水澤君は部には入らない。目を見ればわかるです」


「そうかな」

 と、木ノ実は近づいてくるとじっと俺を見つめる。

「確かに……自分の罪を認めようとしない犯罪者みたいな目だね。意思は強そう」


「……おい」

 確かに俺の目付きは鋭いが、犯罪者呼ばわりは失礼だろ。普通の高校生ならその一言でぐれるぞ。


「水澤君悪かったです。部長には私から上手く話しておくです。茜の跳び蹴り等本当に失礼なことをしてしまったですが……許してもらうないですか? 私も茜もこれが原因でクラスメイトである水澤君と仲が悪くなるのは嫌ですから」

 少し悲しげに俯くと、日向は唇をぎゅっと噛み締め再度俺を見上げた。

「私は……水澤くんと……仲良くしたいんです」


「……ッ!」

 俺の胸がどくんと高鳴る。女の子に仲良くしたいと言われるのなんか初めての事だし、そう語る日向の頬が少し赤らんでいた。まるで遠回しに気持ちを伝えようとする恋する少女のように。


「酷いことをいっぱいしたくせにこんなこと頼むなんて都合のいい話ですが……仲良くしてくれないですか?」

 スッと手を前に出した。握手を求めているのだろうが、緊張しているのか、手は少しだけ震えていた。顔は恥ずかしさからかまた俯かせている。


 ヤバイ。可愛いな。


 怒りって感情は不思議なもので、ちょっとした好感で消え去ってしまっていた。俺は太ももで手のひらにかいた汗をぬぐいーー女の子と手を繋ぐなんて小学校以来のことだ、手汗くらい掻くし、それを気にするのも思春期の男なら当たり前のことだろーー日向の手を握る。

「ああ……いいよ。仲良くしようぜ」

 日向の手は小さく柔らかかった。握った瞬間にハッキリと日向を異性として意識したが、俺はそれを悟らせないように、平静を装い答えると、日向は強く握り返してきた。

 まるでこの手を離したくないといった感じで、皮膚から感じる熱が増していく。


「両手で……握り返して貰いたいです……」

 照れたように日向が言ってきた。


「あっ、ああ……」

 と、俺は伸ばされた右手の甲に左手を添える。


 ドキドキドキと心臓の鼓動が強まり、日向の耳に届くんじゃないかと俺は気が気じゃなかった。

 心臓よ落ち着け、静まれ、柔らかいな、届くな、ツインテールって可愛いな、もういっそ鼓動よ止まれ、いや止まったら死ぬな、日向って可愛いな。

 と、俺の心はまるで子供のおもちゃ箱のようにまとまりのない感情で溢れ変えると、ガチャンと鼓動よりも遥かに大きな音を俺の耳は捕らえた。


「……うん?」

 なんの音だと思うと、もう一度ガチャンと音が鳴った。掌に集中させていた感覚が再度全身に行き渡ると、俺は手首に重みを感じた。


「……なんだこれ」

 俺の手首にはテレビとかでよく見る手錠が掛けられていた。


「なんだって、手錠ですが、知らないですか?」

 テレビすらないような山奥から出てきた、田舎人を見るような、奇異の目を向けてくる。少し前までの照れた顔はどこに行ったのだろうか?


「……いやいやいや、手錠くらい知ってるよ。俺が聞いているのはなぜ、手錠を掛けられているかって事だよ」


「何でって、手錠を掛けるのは逃がさないようにする以外に意味なんてないですよ」

 当たり前のことのように語った。まあ、当たり前のことなんだろうが、俺が聞きたいのは、その用途ではなく、どうして俺に掛けたのかと言うことだ。


「あの、いつまで手を握ってるですか? 手汗ベトベトで不愉快です」


「あっ、すいません……」

 慌てて手を離す。

「じゃなくて、何で俺が手錠を掛けられる必要があるんだよ」


「それは水澤くんが部室に来ようとしないからです。多少傷つけても良いならいくらでも手はありますが、出来れば穏便に済ませたいと思ったので手錠を使わせていただいたです」

 顔面に跳び蹴りを食らっている以上穏便なんかではない。そもそも、手錠を使っている時点でも野蛮だろう。


「さっき連れていくのを諦めると言ったのは嘘かよ!」


「嘘じゃなく虚言と言って欲しいです」


「意味はおんなじじゃねえか!」

 叫ぶと振動で手錠の鎖がガチャンとなった。


「水澤君みたいな人にはこの手を使うのが一番です。童貞には色仕掛けが良く効くです。逆にありがとうと言って貰いたいですね。こんな可愛い子と手を繋ぐ機会なんて、モテなさそうな水澤くんにはあと三年二ヶ月は訪れないですよ」


「リアルな年数を言うなよ。第一俺は言うほどモテないわけじゃ……ねえ……よ……」

 強く言い返そうとしたが、モテた経験がない俺の言葉は萎んでいった。本当なら自分で可愛いとか言うなとも言ってやりたかったが、俺の弱った唇は、ただ心の痛みに震えるだけだった。


 傍観者を決め込んでいた木ノ実が俺のもとに来ると、ポンと肩に手を置く。

「ドンマイ。蓼食う虫も好き好きって言うじゃん」


 誰が蓼だ。フォローデモなんでもない。傷口に塩を塗り込みやがった。

 そもそもこいつは馬鹿の筈じゃないのか。的確な諺を使いやがって。


 肩に置かれた手を払いのける。両手が手錠で拘束されてはいたが、それくらいの抵抗はなんとかできた。


「さあ、水澤くん、観念して部室に行くですよ」

 勝者の笑みを浮かべて日向は言った。


 実際に勝者なのかもしれないな。腕を振りハッキリと分かったことがあった。この手錠が縁日のくじの景品のようなおもちゃではなく、強度に優れた本格的な手錠だと言うことが。


 俺は咄嗟に片手で木ノ実の手を払おうとしたが、もう片方の手も鎖に引っ張られて、両手で払う結果となった。


 ガチャンとなった鎖からは鉄の音がしていた。この鎖は人力できるのは難しそうだ。


「行かねえよ。いいからこの手錠を外せよ」


「外してやっても良いですが、その代わり部室に来るです。と言うよりも鍵は部室にあるですから、来ないと外せないですよ」

 勝者の笑みを嫌らしく歪めた。


「……ッ!」

 敗者のように顔を歪める。さすがにこのまま家に帰るなんて選択肢を選ぶことはできない。


「部室に来たら外してあげるですよ。水澤君に選べるのは自分の足で部室に来るか、私達に担がれて部室に向かうか。それだけです」


 千切れないかと試してみるが、ガチャンガチャンと音をたてるだけで鉄の鎖はびくともしなかった。鎖を千切るのは不可能である以上俺に残された選択肢は……三つしかなかった。


 部室に自分の足で向かうか、部室に運ばれるか、部室から鍵を取ってきて貰うかだ。


 部室には行ってはいけないと本能がより強く叫び出す。


 選択肢三を選ぶしかない俺が、なんとか鍵を持ってきて貰う策はないか考えていると、日向がああそれからと補足を口にした。

「自分の足で向かわない場合これを使わせて貰うですよ」


 そう言いながら日向はブレザーのポケットから携帯電話くらいの大きさの黒い物体を取り出した。黒い物体の先端はクワガタの角のように二つに割れていて、先端から銀色の突起が飛び出していた。

「……嘘だろ」


 おもちゃだよな。さすがにそれはおもちゃですよね。

 日向は俺にそれを向けると、先端から青白い光がバジバジッと放電した。

 それは紛れもなくスタンガンだった。おもちゃなんかじゃなかった。

「あっ、水澤くん部室には自分の足で来てくれるですか?」


「……はい」


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