青と白のボーダー
俺は突然の入部発言に呆気にとられていると、肩を日向がポンと叩いた。
「それじゃあ、部室に行くですよ」
「……はっ?」
「間抜け面しては? じゃないです。部長であらせられる真夜お姉様の放送を聞いていなかったですか? 水澤君は探偵倶楽部への入部が認められたんですよ。ここは小躍りして喜ぶ所ですよ」
真夜お姉様と聞き、俺は今の放送が、月城に聞いたこの学校をほぼ女子高に変えたと言う火乃真夜だと言うことが分かった。
「いやいやいや、何で俺が探偵倶楽部なんて胡散臭い部に入らなくちゃならないんだよ」
「胡散臭くなどないです。探偵倶楽部は十二年前に作られた由緒正しき部活です。まあ、初代部長の卒業と共に廃部になってしまったですが、一昨年、真夜お姉様がこの学園に渦巻く謎を究明するために復活させたのです。救いの主です。偉大です」
最後は崇拝するかのようにうっとりとしていた。
「真夜姉様は凄いんだよ。生徒会長よりも偉くて、校長先生すら逆らえないんだから。最強なんだよ」
木ノ実がテンション高く言ってくる。
校長すら逆らえない生徒なんていてたまるか。もし存在するなら、この学校は学び場としてダメだぞ。
「取り合えず部室に向かうです」
「いや、行かないから。そもそも俺は探偵倶楽部なんかに入る気は微塵もねえよ」
「入る気なんか関係ないです。部長が入部させると言ったら、それはもう決定事項です。もう水澤君は探偵倶楽部の一員、私達の部活仲間、フレンドです。一緒に学園の平和を守ろうです」
「私達?」
私ではなく複数系で言われたので俺は聞き返した。
「鋭いです。流石は部活に入部が認められただけはあるですね。私達と言うのは祥子と茜と月城君も部員と言う意味です」
「お前もなのか?」
月城に向かって聞くと、表情を暗くし頷いた。
「君が同じ部活になるなんて気が滅入りそうだよ」
「入らねえって」
「あら、でも探偵倶楽部に入ることは名誉なことなんですよ。入りたい方は山ほどいますが、真夜お姉様の許しがないと入れないんで皆羨ましがっているはずですよ」
金井の言葉にクラスメイト達は激しく頷いた。よほど入りたいようだった。
「まず、ほとんどの生徒は入りたくても入れないです。部長を含めて部員はたったの五名ですから」
そう言うとあっと呟く。
「水澤君が入るので六名でしたね」
入ることが決定事項として話されていることに俺はイラッとした。
「入らねえって。それに今日は予定があるから、部室になんて行かないからな」
そう言い俺はリュックを手に取り席を立った。
まあ、予定なんかないがこう言っておけばしつこく言われないだろう。
「待つです」
日向に声を掛けられるが、俺は立ち止まらずに廊下に出た。
「待つと言っているです」
小走りで走ってくると俺のブレザーを掴んだ。
「離せよ」
「離さないです。校内放送の前に私は部長から連れてくるように言われたのです。だから水澤君を力づくにでも連れていくです」
携帯の画面を俺に見せつけ言った。画面はラインのトーク画面で、『手段はとはない、水澤攻を部室に連れてこい』とあった。
因みに日向は、『仰せのままに』と、大業な返事をしていた。
「力づくにってお前の力でどうやって連れていくんだよ」
ブレザーを掴み引っ張る力は弱く、俺は異に返さずに日向を引っ張りながら歩いた。
「むむむ。なんと言う馬力ですか」
正直、日向じゃなくても、引っ張って歩く自信はあるが、日向は幼稚園児が掴んでいると思うほど軽かったので、速度を落とさすことなく俺は廊下を進んだ。他のクラスの女子が、日向を引き摺る俺に奇異の目を向けてくるのが少しだけ恥ずかしかった。
「むむむ。かくなるうえは」
日向は片手を離すとパチンと指をならす。学習能力のある俺は、音に反応し振り向いた。
さっきはこの音が鳴ったあとに、金井に羽交い締めにされ……思い出したくもない出来事に見舞われた。
今度も何かあるに違いないと思っていると、俺のクラスから木ノ実が飛び出してきた。
「逃げ出す気です。止めるです」
「ラジャー」
と、叫びながら木ノ実は短距離走のスプリンターのように駆ける。廊下を走ってはいけないと言う学校のルールを守る気はさらさらないようだ。
「たあっ」
一気に距離を縮めると俺に向かい高く飛び、蹴りを放った。
「えっ?」
咄嗟だったことと、短いスカートがふわりと浮き、青と白のボーダー柄のパンツが丸見えになったことから俺の反応は遅れ、かわす事も出来ず、顔面に飛び蹴りが炸裂した。
顔に上履きのゴム底の感触が伝わると、衝撃が走り、俺は背中から廊下に倒れた。
「痛っ!」
「あっーーあうぅ」
俺の裾を掴んでいた日向は逃げるのが間に合わずに下敷きになると呻いた。
「重っ……苦し……死ぬ……デス」
体の小さな日向は俺の背に押し潰され圧死しかけている。
「悪い」
と、謝り俺は日向の上から退けるとふらつく頭を押さえながら立ち上がる。
「いきなり跳び蹴りするとか、なに考えてるんだよ」
「せめちんやるね。私の跳び蹴りを食らって立ち上がったのはせめちんで…………」
好敵手を前にした格闘家のように瞳を輝かせながら言うと、指を折り出した。どうやら立ち上がった数を数えているようだが、両手の指を全て折ると、一度手を開きまた折出した。
十人は余裕で越えているようだ。
「えっと、立ち上がったあと二秒後に泡を吐いて気絶した人は立ち上がったに数えていいかな?」
「どっちでもいいよ。ってかせめちんじゃなく、こうだからな」
俺は声を張り訂正する。そもそも泡を吐いて気絶させるような蹴りを素人にお見舞いするなよ。顔より痛む、衝撃を受け止めた首を押さえる。
「うぅ。三途の川の向こうで亡くなった愛犬ポチが手を振っていたです。危うく死ぬところでした」
手を振るってポチ賢いな。まあ、冗談だろうが。
「お尻が痛いです」
と、日向は臀部をさすった。蒙古斑的な痣が出来るくらいの勢いで倒れたので相当痛いのか目には涙を浮かべていた。
「許さないです」
きっと俺を睨み付ける。
諸悪の根元は蹴りを放った木ノ実だと思うが、俺はもう一度悪いと日向に謝った。
「謝るくらいなら部室に来るです」
臀部をさすりながら唇を尖らせる。
小学生のような見た目の涙目は俺の心に罪悪感を抱かせたが、それはそれ。
俺は探偵倶楽部の部室など行く気はない。と言うよりも、薔薇色の学校生活を送るためにも行ってはいけないと、俺の本能が叫んでいる。バッターにボールを投げる前の投手のように、PKを蹴る前のキッカーのように。本能がそっちは危険だと騒ぎ立てている。
「行かねえよ」
目にもその思いを強く宿し日向を見つめる。
「……迷いや淀みのないまっすぐな瞳ですね。茜、水澤君を部室に連れていくのは諦めるです」
観念したのか、フッと諦めたような笑みを浮かべる。




