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天使、休日の予定が決まる。

 二年の月日が流れ、天音ちゃんも大きくな……ったりはしていません。すみません。まだトリップして七日目のままです。本当にすみません。


 最後になりましたが、感想をくださったあなた!

 ずいぶんと長いこと放置していたにもかかわらず、感想を頂けて嬉しかったです。ありがとうございました!!

 なんだか明日が楽しみ。



   ◇◇◇



 ロベルトとの楽しい食事を終え、そろそろトレイを返しに行こうと立ち上がりかけた天音は、こちらへと近付いて来るレイナルドの姿に自分でも気付かない程小さな笑みを浮かべた。

 彼は働き始めたばかりの天音を心配してくれているのか、食堂へ来ると必ず声を掛けてくれる。まだまだこの世界に馴染めたとは言えない天音には、それがとても嬉しかった。


「レイナルドさん!」


 レイナルドは天音の呼び掛けに応えるように小さく手を上げる。


「よう。もう食い終わったのか?」

「はい。今日はロベルティナさんと一緒に食べたんです」

「バネッサがまだ来てないのよ。アタシはアマネと食べられて良かったけどね」


 ロベルトが付け加えるように口を挟んだ。


「そうか。ああ、ロベルト……ちょっと良いか」


 ロベルトの説明に軽く頷き、レイナルドは座ったままの彼の耳元へと小声で話し掛けた。あまり良い話ではないのか、若干眉間に皺が寄っている。


「ラディ……がまた…………酒場……る」


 途切れ途切れに聞こえてくる言葉からすると何かトラブルが起きたようだ。レイナルドが言葉を続けるにつれ、ロベルトの顔がどんどん険しくなっていく。


「……っ、あんの酔っ払いがあぁぁっ!!!」


 そう叫んで、ロベルトは椅子を蹴倒さんばかりに勢いよく立ち上がった。険しく吊り上がった目尻から彼の怒りが伝わってくるようだ。眉間の皺は物が挟めそうな程深い。

 激怒という言葉がピッタリなロベルトの様子に、天音は目を丸くする。ここまで怒り狂っている人を見たのは初めてで、怖いというよりただ驚いた。


「ゴメンなさいね、アマネ。アタシ、ちょーっと用ができたから先に失礼するわ。また一緒に食べましょうね」


 そんな天音の様子に気付いた訳ではないだろうが、ロベルトはそう言ってニッコリと笑顔を向ける。……完璧なのが逆に怖い、やたらと迫力のある笑顔だった。


「……………」


 半ば呆然と、足早に去って行くロベルトの背中を見送っていると、その顔に苦笑を滲ませつつレイナルドが口を開く。


「邪魔して悪かったな」

「い、いえ。もう食事は終わってたので……。あの、ロベルティナさんどうかしたんですか?」

「いや……アイツの上司がちょっとヘマをしたんでな。その事後処理みたいなもんだ」

「…………大変なんですね」


 レイナルドの言葉と先程のロベルトの様子を思い出し、天音は心の底からそう思った。レイナルドといい、ロベルトといい、副神官長というのは上司に恵まれなさ過ぎる。アレンもあれだが、“酔っ払い”と評されていたロベルトの上司も碌なモノじゃなさそうだ。


 この神殿、大丈夫なのかな……。


 ナンバーツーの神官長達の存在になんとなく不安を抱きながら、天音は置きっぱなしになっていたトレイを持ち上げ、レイナルドへと視線を向ける。ちなみに、ロベルトのトレイはいつの間にかなくなっていた。


「じゃあ、そろそろ私も宿舎に戻りますね。レイナルドさんはもうお仕事終わりですか?」

「いや、まだ少し残ってる。俺も宿舎の方に用があるから、アマネさえ良ければ途中まで送って行くぞ?」

「ええっと……じゃあ、お願いします」


 自分を気遣ってくれているのかと思ったが、特に詮索はせずにその申し出を受け入れることにした。さすがにもう宿舎への道は覚えているが、やはり神殿内を一人で移動するのはどこか心細い。


 ……はぁ。迷惑掛けちゃダメだとは思ってるんだけどなぁ。


 隣を歩くレイナルドをコッソリと窺いながら、天音は小さく唇を噛み締めた。

 気に掛けてもらえるのは純粋に嬉しいし、こうして彼の傍にいられれば安心するのだが、素直に喜ぶことができないのは、天音が誰かに頼るということが不慣れだからだろう。実際、十歳という天音の年齢を考えれば“大人”に頼っても何も恥じることはないのだが、自立心の高い彼女にはレイナルドに無条件に甘えるという選択肢はなかった。


「ご馳走様でした。とっても美味しかったです」


 天音には少しだけ高いカウンターへとトレイを返すと、まだ働いている同僚達から次々におやすみコールが掛かる。どれも周りの喧騒に負けない程の大声だ。


「おやすみ~。しっかり眠りなよ~」

「ちゃんと寝ねえとチビのままだぞ。12時間は寝ろよ!」 

「バッカ! そんなに寝れる訳ねえだろ。朝までぐっすり寝りゃあ良いんだよ」


 小さな子どもに対するような言い方が少し恥ずかしい。まあ、この五日間でずいぶん慣れたが。

 彼らからすると、天音は娘か孫のようなものなのだろう。


「おやすみなさい」


 陽気に手を振ってくる同僚達へと同じように手を振り返し、天音は騒々しいカウンターを後にした。




 少し離れたところで待っていてくれたレイナルドが先程の遣り取りを見ていたのか、ふと問い掛けてきた。

 話しながら食堂の出入り口へと歩いて行く。彼の天音に合わせたゆっくりとした歩調にもすっかり慣れてしまった。


「アマネ。明日の半日休み、予定はあるか?」

「いえ、特にないですよ」


 天音のここでの知り合いはレイナルドを除けば、バネッサや女性宿舎の人達と厨房のメンバーくらいだが、休みだからと自分から積極的に声を掛けられる程の仲ではないと思っている。齢が違うため、なんとなく面倒を見てもらう形になるのが申し訳なくもあるのだ。


「明日は俺も非番なんだ。お前はまだ街に出てないだろう? 良ければ街を案内しようと思ってるんだが……どうだ?」

「行ってみたいです!」


 “街”という単語に思わず即答していた。

 戸惑うことも多い異世界生活だが、やはりそれなりに好奇心もある。バネッサ達が言っていた美味しいケーキ屋さんなども気になるところだ。


「あっ、でも……折角のお休みなのに良いんですか?」

「休みつっても特にすることないしな。俺にとっても気分転換になるし、誘いを受けてくれると嬉しいんだが……どうせなら齢の近いバネッサ達との方が良いか」

「そんなことないですよ。バネッサさん達と出掛けるのも楽しそうですけど……」


 バネッサ達と出掛ければ、女子同士賑やかで楽しい時間を過ごせるだろう。

 でも、天音はレイナルドと出掛けてみたかった。休みの日にまで異世界の子どもを気に掛けてくれる優しい彼と。


 本当は……迷惑、なのかもしれないけど。


 頼ってばかりではダメだと分かっていても、天音が一番安心できるのは彼なのだから仕方がない。


「レイナルドさんの街案内、とっても楽しみです!」

「ああ、期待外れにならないよう努力しよう」


 嬉しげに見上げると、いつものように温かな手が天音の頭を撫でる。

 いつの間にか、不思議とレイナルドのこれを“子ども扱い”だとは感じないようになっていた。決して口数が多いとは言えない彼の、天音への気遣いの一つだと思うからかもしれない。


「うぎゃあああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!!」

「……っ!?」


 そんな二人のどこかほのぼのとした遣り取りをぶち壊すかのような奇声が聞こえてきて、天音はびくりと肩を震わせた。心臓に悪い……が、この数日で聞き慣れてしまったこの声には心当たりがある。ありすぎる。しかも、その予想を裏付けるかのように声の主はどんどん天音達へと近付いて来る。


「あぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!!」


 天音の世話係であるバネッサだ。


「………………。バネッサ、ちょっとで良いから落ち着け」

「はっ、レイナルド様!? ……と、アマネちゃんっ!!! 良かったぁ、まだいてくれたんだね!!」


 呆れたようなレイナルドの声に、バネッサは“今気づいた!”とばかりに目を瞠り、そしてすぐさま彼の隣にいた天音へと顔を向ける。

 そのあまりの勢いに思わず一歩下がってしまった。


「あっ、はい」

「ホントに、ホント~にごめんね! 急な用事が入っちゃって……。えっと、もうご飯食べちゃった……よね?」

「すみません。待ってようかとも思ったんですけど……」

「ああぁぁ、悪いのは、悪いのは私だから!!」


 ゴンッと床に頭をぶつけるスライディング土下座を披露するバネッサ。正直、そこまで謝ってもらう必要は全くないのだが。


 えっ、ど、どうしよう。


 過剰な謝罪に困った顔でレイナルドを見つめると、天音の視線に気付いた彼が口を開く前に二人の女性神官がバネッサへと話し掛けていた。


「あっれー? バネッサ、どうしたの?」

「そんなところに頭を擦り付けてると汚れるわよ」


 バネッサの友人のエマとルイーサだ。

 二人とも女性宿舎で生活しているため、天音もそれなりに面識はある。ちなみに、街にある美味しいケーキ屋の情報を教えてくれたのはエマだったりする。アンナを筆頭に、暴走しがちなバネッサと止めてくれる心強い人達だと認識していた。


「ほら、さっさと行きなさいよ。……アマネ。私達、今から帰りなんだけど、一緒に宿舎に戻ってもらっても良い?」


 二人の登場にホッとしていると、彼女達はあっと言う間にバネッサを食堂へと追い立て、天音の送迎まで買って出てくれた。食事がまだだったバネッサは天音達を気にしつつも、トマト煮を求めカウンターへと駆けて行く。


「ええっと……」

「俺のことは気にするな。ルイーサがこう言ってるんだ、一緒に戻ってやれ」


 一瞬、“レイナルドさんも一緒に”と言いそうになってしまい、その言葉を呑み込むように笑顔を作る。天音を気遣ってくれていただけで、もともと彼は女性宿舎に用事なんてないのだ。甘えすぎてはいけない。


「分かりました。お仕事頑張ってくださいね」

「ああ。……また明日、な」

「はい。楽しみにしてます」


 でも、明日はもう少しだけ甘えてみたい気がした。




 ―――レイナルドさんに何かお返しができたら良いな。





 次がいつになるかは未定ですが、必ず更新しますので広い心でお待ち頂けたら幸いです。ブクマの片隅にでも置いてやってください。

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