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夏の樹  作者: 粥
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五十八

文化祭から随分と時が経ち、世間はすっかり冬の装いになった。

街行く人々が防寒具に身を包む中、藍那たちは期末試験の最終日を迎えていた。


チャイムと同時に先生が声をかけ、後ろからテスト用紙を回していく。

テストの重圧と、終わった安心感、そして冬休みが来る高揚感に満たされ、生徒たちは楽しげに会話しながら帰っていく。

その中で、藍那はまだ教室に残り何冊もあるノートをまとめていた。

例によって凛がやって来て、藍那の前のテーブルに逆向きで座り込んだ。


「何してんの?帰らないの?」

「今日テストを受けた教科のノートを、全員分その教科の先生に提出しなきゃいけないから、まだ帰れない」

「ふーん...手伝おうか?」

「お好きにどうぞ」

「じゃあ手伝う」


凛は出席番号順にノートを重ねていく作業を手伝っていった。

ついでに今日は藍那が日直だったらしく、日誌も書いた。故に帰る頃には学校から生徒は9割方いなくなっていた。


テストがあったのは午前中までだったので、まだ全然明るいお昼頃の通学路を二人並んで歩いていると、前の方から凛の知っている顔が現れた。


「あれ?凛くん?」

「........紫音」

「そう!やっと覚えてくれた〜」


紫音は制服のままで誰かを待っているみたいだった。

紫音は藍那にも気付き挨拶をした。


「そっちはもしかして藍那ちゃんでしょ!」

「................」

「私のこと覚えてないみたいだねこりゃ。私小坂 紫音。同じ中学だったよ」

「あー...この前卒アルで見た」

「良かったぁ〜思い出してくれた!」

「何してる、こんな所で一人で」

「んー?嶺二を待ってるの。バイクで迎えに来てくれるから」

「どこか出掛けるのか?」

「うん、両親今日は仕事で遅くなるみたいだから二人でご飯食べに行く」

「早くないか?まだ昼だぞ」

「ついでに遊ぶからへーき」


紫音の発言からここの姉弟仲は良いことが分かる。

そんな話をしていると遠くからバイクのエンジン音が聞こえ、バイクに跨った嶺二がやって来た。


「アレ?何で二人ともいんの?」

「偶然会ったの」

「午前で終わってたのに何でまだ帰ってないの?」

「色々やってた、当番だから」

「あーなるほどね」


嶺二は適当な返事をして、紫音にヘルメットを渡した。

そして後ろに乗り込んで、そのまま二人は走り去っていった。


「じゃあまた今度ね、二人とも」

「じゃあな〜凛くん藍那ちゃん」

「オキヲツケテー」

「................」


下校を再開した藍那と凛。先程からずっと黙ったままの凛に、藍那が話しかけた。


「小坂 紫音はやっぱり綺麗になった。予想はしてたが...予想以上だな」

「うん、そだね」

「おや、同調とは珍しい。さては惚れたか?先程から喋ってないのは緊張してたからかな?お主」

「まさか」

「ちっ、つまんな」


藍那はそんな悪態をついた。

しばらくすると家の前までやって来たので凛に素っ気なく、


「じゃあな」


と言って家の中に入っていった。


凛はそれを見届けて自分の家に帰っていった。



一方、バイクで街中へやって来た二人は、時間の潰せそうな店を回りながら姉弟の会話を弾ませていた。


「そういえば、凛くんとは仲良くやれてるの?」

「仲良く...出来ないなぁ〜。いや、したいんだけどあっちが近付かせない様にしてくるんだよなぁ」

「また嫌われるような無神経なこと言ったんでしょ」

「俺が悪いの!?いや、何つーか独占欲がえげつないっつーかさぁ...」

「藍那ちゃんに対しての執着は中学から何も変わってない。どころか更にって感じがするなぁ〜。合ってる?」

「知らねぇよ」


そんな世間話をしながら過ごしていると、もう陽は落ちて辺りは暗くなっていった。

紫音が気になっていたというお店にて夕飯を食べることにした。


「凛くんて、学校じゃどんな感じ?」

「えー?同じクラスじゃ無いから知らんけど、まぁあんま他人に興味持ってないのは確かだなぁ。この前体育一緒だったけど、藍那ちゃんとしか喋ってなかったし、つーか同じクラスに奴ほとんど無視してたし」

「虐められてない?」

「イケメン虐めるって聞いたことねぇよ。ま、最低限の気遣いみたいなことはしてたし、嫌われてはないんじゃん?好かれてるかどうかは知らん」

「ふーん...」

「何?なんか随分心配してるじゃん」


嶺二がそう聞くと、紫音が一度深いため息をついて、そっぽを向きながら恥ずかしそうに応えた。


「私...さぁ...」

「うん」

「凛くんのこと好き...だったんだよね」

「ん?“だった„??」

「中学の時の話。でも凛くんにはもう藍那ちゃんがいたからさぁ、叶う筈のない恋だったんだよ」

「あ〜まぁ、あいつの藍那ちゃんへの愛情の入れ込み具合は見てて凄いからな」

「まぁあの二人が同じ高校に行くって分かってたし、高校でまた好きな人出来るだろ〜な〜とか簡単に考えてたんだけど...」

「え?おいちょっと待て。紫音お前...まだ凛くんのこと好きなの!?」

「........うん...」


紫音は赤面しながら、乙女らしい顔をしていた。

嶺二は自分の双子の姉がここまで一途だとは予想して無かったらしく、非常に驚いていた。


「あー...マジかぁ。いやでも...んー厳しいたぁ思うぞ」

「ぅん...分かってる。分かってるけど、無理だよ。付き合ってない、あの頃と何も変わってないって聞いた時点でもう...私は諦められないって思っちゃったんだもん...」

「...そっか」


嶺二は目の前にあるお冷やを一口だけ飲む。氷も溶けて、もう冷たくも無い。


「差し当たって、クリスマス誘おうと思う」

「は!?マジか!」

「いや、ここは驚くところじゃ...」

「いやいやいや、絶対あの二人、一緒に過ごしそうじゃね?特に凛くんが藍那ちゃんを誘いそう...」

「だから...協力して嶺二」

「はぁ...?なんで俺が」

「嶺二が藍那ちゃんを誘って。そしたら、私が凛くんを誘いやすくなる」

「なるほどなるほど...いや無理だろ!幼馴染であんなに仲の良い凛くんにさえあの態度の藍那ちゃんが最近転校して来たばかりのクラスメイトにOKするわけねぇじゃん!」

「わっかんないじゃーん!!携帯貸して!」

「あ、おい!!」


紫音はテーブルの上に無造作に置いてあった嶺二の携帯を取り上げて、藍那に電話した。

すると、すぐに出てくれた。


『もしもし、長谷ですけど』

「あ、藍那ちゃん?さっき会った紫音だけど〜」

『あーどうも。どうしたの?』

「いや実はね〜うちの嶺二がどうしても、今月の25日一緒に過ごしたいらしいの〜。だから、その日一日嶺二にくれない?」

『25はバイトだから無理だ』

「え...あーじゃあ24は?」

『クリスマスシーズンは忙しいからバイト入るようにしたんだ。要件はそれだけなら切るぞ』

「あー!ちょっと待って最後に一つだけ!」

『何だ?』

「凛くんとは...出掛けたりとかしないの?」

『は?するわけないだろ面倒くさい』

「そうですか...。すみませんお邪魔しましたー...」


通話を切ったあと、申し訳なさそうに嶺二に電話を返した。


「な?無理だったろ?」

「いや、まぁ無理ではあったけど、その必要もなかったって感じ」

「はぁ?どういう意味?」

「バイトだから、二人で出掛けないって...」

「あー...藍那ちゃんらしいな。でもよかったじゃん、これで凛くんを誘えるな」

「うん!OKしてくれるかなぁ...」

「こればっかりは、聞かなきゃ分からん」

「今夜電話してみよ...!よっし!ゲーセン行こっ!UFOキャッチャーやりたい!嶺二のお金で!」

「ざっけんなや!金ないわ!」


ゲーセンで遊んだその後、紫音は寒空の下、家の前で凛に電話をかけた。

嶺二が隣の部屋にいて、話を聞かれるのが嫌だからである。


プルルルル...という呼び出し音が4回鳴ったところで、ようやく凛が電話に出た。


『はい、もしもし』

「あ、凛くん?急に電話してごめんね?今いい?」

『まぁ...』

「何してたの?勉強?」

『お風呂入ってたけど。そしたら、あんたから電話来たから出た』

「あー...もしかして今...裸?」

『うん』

「ご、ごめん!お風呂から出たらで良いよ?」


紫音は凛が電話の向こうで裸であることを想像してとても恥ずかしくなった。


『いや、今出たところだからこのままでいい。着替えてるし』

「あ、そうなの?じゃあよかった」

『で、何の用?』

「あー...そう!用があってね、電話したんだよね...」


紫音は恥ずかしながらも、服の袖を巻き込むながら拳を握り、ハッキリと要件を伝えた。


「あの...凛くん!」

『なに?』

「今月の...に、25日...あ、空いてる...かな?」

『25?........空いてる』


凛は、多少の間隔を空けて25日が空いている事を伝えた。電話越しに何かゴソゴソ聞こえたから、恐らく予定を確認する音だ。


「じゃ、じゃあさ...その日...さ!で、デート...しない?」

『デート?何で?』

「いや、せっかくのクリスマスだし...凛くん何か...予定あった?」

『...いや、別に無いね』

「じゃあ...良い?一緒に出掛けても...」

『良いんじゃない?』


終始不思議そうに会話をしていたが、この際そんなことは紫音にとってどうでも良かった。

とりあえず凛とクリスマスにデート出来る事に喜び、声色が少し高くなる。


「ありがとう!じゃあ、詳細は追って連絡するね!」

『うん、うるさい』

「ご、ごめん...。じゃあ...バイバイ、おやすみ」

『ん、おやすみ』


凛との通話はそこで切れた。

家の中に入ろうとすると、上の窓から凛が見ていたので、腕を使って大きな丸を描いた。

すると嶺二も嬉しそうに笑ってくれた。

え...なんか...書いてるうちに主人公紫音に変わったねこれ



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