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夏の樹  作者: 粥
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四十九

バイトが終わったので、真夏の夜に鈴虫の鳴き声を聞きながら歩いて家まで帰る。

歩いていると、凛が前から歩いてきた。


「あ、藍那ちゃんだ。こんばんは」

「...お前、どこにでもいるんだな」

「バイト帰り?一人で危ないでしょ」

「どこが」

「藍那ちゃん可愛いんだから」

「お前、頭どころか目もイかれたか」

「正常運転だよ〜」


凛は当たり前の様に私の隣を歩き、家まで送った。


「じゃあ、バイバイ藍那ちゃん」

「...ああ」


私は少しだけ、凛の纏う空気が変な気がしたので去ろうとした凛を呼び止めた。


「なぁ、凛」

「ん?」

「...あー、お前髪切らないのか?」

「え、切った方がいいかな?」

「いや...好きにすればいいと思う」

「???えーっと...じゃあ、切っておきます...?」

「おぅ...」


我ながら変な会話だと感じつつ、凛を家に帰らせた。


次の日学校に行くと、凛の髪のパーマは消えて真っ直ぐストレート、前髪は眉下のままだが前より短く、後ろと周りの髪はスッキリしていた。


「髪、切ったのか」

「うん、藍那ちゃんが切った方がいいって言うから」

「いや、別に切ろとは言ってなかったはずだ」

「似合うかなぁ?」

「...知らん」


今日私たちのクラスは家庭科の授業で調理実習があったので、エプロンを持って家庭科室へ向かった。


「何作るんだっけ?」

「生姜焼き、と味噌汁、ご飯、おひたし」

「あー、お昼持って来なくて良かった」

「お腹すいた」


家庭科室にて先生の多少の説明を受けたところで、露華と二人で作業を進めていった。


「露華〜生姜切って」

「はい〜」


テキパキと作業を進めていき、あっという間に生姜焼きは完成。だが、班の一員である二人の男子に味噌汁を頼んだところ、ちんたら作っていたようでまだ出来ていなかった。


「まだ出来てないの?」

「え?あーうん、もうちょいもうちょい」

「...退いて、私がやる」

「え?マジ?さんきゅ〜」


やる気のない男子は味噌汁作りでさえ私に任せ、椅子に座ってケラケラ笑いながら雑談をして時間を潰していた。

そんな男子二人を露華が説教していたが、呼び戻しておいた。


「何でよ、結局ほとんど藍那が作ってるじゃん」

「別にこの程度誰がやるかで揉めることでもない。私はちゃっちゃと作って終わらせたいだけ」


味噌汁も作り終えて食べていると、コンコンと家庭科室の窓を叩く音がした。

外を見ると、そこには凛がいたので、窓を開けて要件を聞いた。


「何?というかお前授業は?」

「藍那ちゃんに会いにきた。授業は早めに終わったから来れた」

「あっそ、じゃあな」

「調理実習なの?いい匂いする、一口ちょうだい」


窓を閉めようとしたが、凛に簡単にそれを阻まれた。


「私の昼だ、あげるわけないだろ」

「藍那もう食べられないって言って私にあげようとしてたから食べていいよ」

「おい言うなよ」

「じゃ、お邪魔しま〜す」


凛は窓から家庭科室に入って、藍那の生姜焼きを食べた。


「ん、美味しい。藍那ちゃんが作ったの?」

「違う」

「そうだよ」

「やっぱりね、藍那ちゃん好きそうな濃さだもん」

「流石旦那さん、よく分かってるねぇ」

「さっさと食え」


お腹が空いていたのか凛はバクバク私の食べ残した生姜焼きを食べていき、ついでにご飯もお代わりしていた。


「凄く美味しい」

「あっそ」

「ありがとね」

「お前の為に作ったんじゃない」


私は調理中に出てしまった洗い物を洗い始めた。

しばらく洗っていると食べ終えた皿を凛が持ってきた。


「はい、ご馳走さま」

「そこ置いといて」

「手伝うよ」

「狭いから良い」

「食器拭くのは別に水場じゃなくていいでしょ」


そう言って凛は私のすぐ横にあった水切り場で食器を拭き始めた。


「藍那ちゃん、ご飯作るの上手くなったね」

「私はほとんど作ってない」

「それは嘘。中学の時に作ってもらった料理と似てるから分かるよ」

「何で覚えてるんだそんなこと」

「覚えてるよ、藍那ちゃんとの思い出だもん」


凛はそう言いながら笑う。

正直、どうして凛が私に対してそこまで過剰に愛を注ぐのかよく分からない。

そもそも私に何を求めている?

何か大事な物だと思っているのか?

であれば、見当違いも甚だしい。私は凛が思うほど大層な人間では無いし、まして凛に過剰に肩入れされて喜べるほど素直でもない。

だからこれは謎である。解く気にもなれない問題。


「はぁ...」

「疲れた?」

「ああ、お前といるのがな」

「そっか。じゃあ、そろそろ教室に戻るよ。またね」


私が本気で思っていることなのかそうでないかが、凛にはすぐ分かってしまう。

今のは本当に思っているから、凛は食器を拭く作業を途中でやめて教室に戻っていった。

それは私の為を思ってじゃなく、自分が嫌われないようにする為の自己防衛だと思う。


「今更そんな事で嫌うほど小さい人間だとでも思っているのか...?」

「まさか。どっちかっていうと、藍那の事を一番に考えているからこそ、藍那にとっての不都合は極力無くそうって言う彼なりの思いやりに見て取れるね」

「...面倒な性格してるな。それだって結局、私の視点の問題だろう。露華の視点ならそう見えるだろうが、私の視点で見たら全く違う解釈になるだろ」

「ま、大事な事は口で言うタイプじゃん、凛って。行動もそれに準ずるものになってるはずだよ」


凛の面倒な性格は、好きではないが、行動と言動が一致しているのは、何というか私には気味が悪かった。


お久しぶりです。

気付いたら一ヶ月以上も更新をストップしていたのですね。時の速さとマイペースさに驚きを禁じ得ません。

今回の話の内容的には、進む事なく下がる事なくと言ったところでしょうか。

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