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夏の樹  作者: 粥
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四十八

ある土曜日の午前中、もうお昼も近くなって来ていた頃、藍那は部屋にて小説を読んでいると、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

部屋から出て、リビングに向かうと那月と槐がいた。もちろん大和もいた。

だが、後もう二人藍那の知っている人がいた。


「宗介くん、秋穂さん」

「お!藍那いた!久しぶり〜」

「........(ペコリ)」


宗介と秋穂は高校から付き合い始めて、那月たちとほぼ同じタイミングで結婚した。その後は宗介と秋穂は籍も入れて結婚式も挙げたのだが、今のところ子供を作ってはおらず、今後も作る気は無いらしい。


藍那との関係は、秋穂は第二の姉並みに仲が良く、宗介は同じく第二の兄並みに仲が良い。宗介とも秋穂とも二人きりで遊びに行くこともあり、仲は良好である。


「どしたの?みんな集まって。同窓会?」

「いやぁ、久々に長谷兄弟を見たかったから来た」

「もっと早く連絡いれろって言ってんだけど?」

「悪ぃって〜謝ったろーが」

「まぁいいけど...」


全員はソファに座り、藍那は普段あまり会えない秋穂の足の間に座り込み、後ろから抱きしめられてる状態になっている。ちなみに秋穂は妹がいないので、甘えて貰えて嬉しそうだった。


しばらく昔話をしていたのだが、天気も良いという事で、宗介の車でドライブをしに行くことになった。

大和は藍那のお母さんと一緒にお留守番をして、藍那は部屋で読書の続きをしようと戻ろうとしたら、


「藍那ちゃん、着替えて来てね」

「え...?」

「藍那も行く」

「えぇ...」

「やなの?」

「嫌じゃないけど、良いの?同級生同士で行きたくない?」

「妙な気ぃ使ってんなよ。さっさと行こうぜぃ!」

「藍那、服足りてんの?そろそろ新しいの買ってやるよ」

「わ、分かった...ありがと」


藍那は早急に外着に着替えて宗介の車に乗り込んだ。


「藍那ちゃんスカート履かないの?」


藍那が黒のスキニージーンズを履いて出て来たので、槐がそんな疑問を投げかけた。


「あースカート持ってない」

「え、何で?嫌い?」

「ヒラヒラしてるの私に似合わないなぁって思って」

「絶対似合うよ、ね?秋穂」

「........(コクリ)買ったげる」

「あ、そうだね!私たちが藍那ちゃんに合うスカート選んでプレゼントするよ」

「え...」


槐と秋穂の計らいで、一同は藍那の服を買いに行くため街へと向かった。

車を適当に駐車場に止めて、ショッピングモールへ歩いて向かった。


「藍那ちゃん、服の趣味ってどんな感じ?キレイ系?ふわふわした感じ?」

「基本的にスカートは履かない。まぁキレイ系って言えばそんな感じ」

「了解了解、なるほどね」

「ねぇ、別に良いからね?新しい服とか特にいらないし」

「だーじょぶだーじょぶ!うちは子供いねぇから金は有り余ってっから」

「だからって私に使わなくても...」

「甘えとけよ、藍那」


藍那たちはそんな会話をしつつ大通りを歩いていく。

正直、顔面偏差値が高過ぎるので通行人の若い男の子、女の子がすっごい見て来るのだがそれに気付いているのは藍那だけだった。

藍那も引けを取らないので、妙にその四人に馴染んでいる。


服屋に着くと、槐と秋穂は藍那を連れて色々な服を藍那に当てがっては楽しんでいた。


「んー白の方がいいかなぁ?」

「淡い青も良い」

「あ、分かる。爽やか感欲しいよね」

「藍那、どっちが良い」

「...どっちでも」


16歳の藍那が既に疲労に満ちた顔をしながら28歳女性二人の買い物に付き合っているという面白い構図が広がっていた。

ついでに宗介と那月は店の外で喋って時間を潰していた。


「藍那って今いくつ?」

「16」

「へぇ〜ついこの前まで4、5歳だったのになぁ」

「それ言ったら俺らだってついこの間まで20代前半だったよ」

「高校卒業してからが早ぇよなぁ」

「ぶっちゃけ結婚できて良かったかも。つか子供出来て良かった」

「何だ惚気か?」

「いや、あーそうかもな...。独りと三人は違うから」

「俺も秋穂いて良かったと思うぞ、あいつが家で待ってると思うとすぐ帰ってやりたいって思う」

「お互いベタ惚れだなぁ〜」


買い物を終えた三人が戻ってきたのだが、藍那だけとても疲れた顔をしていた。


「おかえり、大丈夫か?」

「選んでくれて嬉しいけど...疲れた」

「ははっ、お疲れ。飯食いに行こうぜ」


時刻はそろそろ13時を回ろうとしていた。お腹の方もいい具合に空いてきたので、海辺にある海鮮料理屋に一同は向かった。


「ここ気になってた」

「あれ?行ったことねぇの?うめぇんだぜあの店」

「へぇ〜」

「丼専門?」

「も、あるけど普通に刺身とかハマグリとかも食べられっぞ」

「良いねぇ〜」

「宗介お兄ちゃん大トロ食べたい」

「宗介、俺も鯛の刺身食いたい」

「バカ二人はここで降りろ、窓開けてやっから」


なんだかんだでお目当ての海鮮料理屋に着いた。


店内は焼き魚のいい匂いがして食欲をそそって来る。


「見て、刺身すごい美味しいそ〜」

「うん、何食べよっか?」

「秋穂、タコ食べようぜタコ」

「タコー」


全員好きなものを食べて行き、色々な話をした。


(なんか、良いなぁこういうの...)


藍那は自分だけ大人じゃないその空間が、なぜか好きだった。

この四人の中にいたら、まだ自分が4歳のままのように思えて童心に帰れる気がしていた。そこに劣等感も、優越感も無い。

ずっとこのまま、変わらないままの居場所は、今の藍那にとってかけがえのないものだった。



帰りの車の中、藍那はいつの間にやら眠っていた。お腹いっぱいご飯を食べたからだろう。

時刻は17時の夕暮れ時。車が止まり、那月が藍那を起こした。


「藍那、起きろ。ちょっと降りるぞ」

「んぅ...?」


まだ家ではないことに気付きつつ、藍那は気だるい体を持ち上げて車外へ出た。

眩しい夕日が起き抜けの体に差し込んで行く。そのせいで目は完全に開くことは許されない。


既に那月を除いた三人は砂浜へと降り立ち、波打ち際で並び、水平線に沈んで行く夕日を見つめていた。


「行くぞ」

「ん...」


歩いて三人の元へ向かうと、三人とも藍那たちの方を振り向いた。


「よぉ、寝坊助」

「よく眠れた?」

「夕日綺麗だよ藍那ちゃん、一緒に見よ?」


藍那を真ん中にして、五人は沈んで行く夕日を見つめた。

藍那は海側から吹く風に長く綺麗な髪を揺らしながらスッと目を閉じた。

潮の香り、波の音、遠くで鳴く海鳥の声、そして...


「あ!ちょっと靴濡れた!」

「だから言ったろ、近付き過ぎんなって」

「靴下とか平気?」

「だいじょーぶだいじょーぶ!........いやそんなことねぇか...?」


両サイドステレオで聴く28歳たちの会話。


「あーあ...この時間ずっと続かないかなぁ...」


藍那は独り言で小さくそう呟いた。四人の中で誰一人その言葉を聞いた者はいなかったので、藍那はある意味ホッとした。


「帰ろっか、お母さんと大和もいるし」

「そだね」

「大和迎えに行こっか」

「秋穂、俺らも帰るぞ」

「........(コクリ)」


五人はその後、各自の家に帰っていった。

今回割と早いスパンで挙げられたかなと自負しております。(前回が遅過ぎたのもありましょう...)

趣味の一環である故、そこはご了承頂きたく存じます。


今回は久々に大人になった那月たちと藍那の関係といいますか休日について書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか?

藍那の気持ち、感情が読者の皆様に伝わっていたなら幸いです。

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