四十七
『大人ってどうやったらなれるんだろう?』
そんな疑問をいつの日からか持っていた。
大人って辞書で引いてみると、それなりの言葉で説明されていたが、私が知りたかったのは「なり方」で、定義が知りたかったわけじゃなかった。
一応、凛に聞いてみた。もしかしたらあいつは意外とそういうとこちゃんと考えているのかもしれないから。
「え?大人のなり方?...んー、落ち着いてるとか?」
「落ち着いてれば大人なんだ?」
「んー僕はそんなイメージだなぁ〜。クールで、責任感の強いって感じ?」
「...うんこ、自分で出来んだよ私」
「落ち着いて、思いっきり違うから」
「うんこは自己責任でしょーが」
「見たことある?それわざわざ言う大人」
「ねーな。後は?」
「んー強かだったり?」
「全身ピンクのコーデでも街中歩ける」
「強かだ!でもそんな藍那ちゃんは見たくない...」
やっぱり凛に聞いても分からなかった。
こういうのは実際本物の大人に聞いた方が早いのかもしれない。と、思い立ったのでお姉ちゃんのところに遊びに行った。
「大人のなり方ねぇ...」
「お姉ちゃんは、正直私くらいの歳から既に大人っぽかった気がする」
「んー雰囲気だけじゃ無い?大人ってそういうとこあるよ?誰かの前でだけは子供っぽい人いるよ。大人だって子供みたいにはしゃぐし、泣くし、叫びたくなるんだよ」
「お姉ちゃんもそういう時があるの?」
「あったなぁ〜。でもそういう時絶対にね、那月が側にいるんだ」
「お兄ちゃん?」
「はしゃいでる時は那月が隣にいる時で、何か心の内側にある事を全力で叫びたいときも隣で那月が聞いてくれてて、泣きたい時は泣き終わるまで優しく抱きしめてくれてた」
「わぁ、急に惚気」
「良いじゃん、聞いてくれる人がいないの。まぁだから無理に大人になろうとしなさんな、意外とこの世界で大人やってる人なんていないから」
「でも...」
「あ、でも一つだけ大人になる方法があるかな」
「何?」
「すっごい大切で、何があっても守らなきゃって思えるものが出来た時かな?」
「なにそれ?またお兄ちゃん?」
「それもそうだけど...」
お姉ちゃんは一度部屋で遊んでる大和の方を見て聖母のように優しい笑顔で続けた。
「そのお兄ちゃんと作ったあの子が生まれた時は、もう学生時代を思い出さなくなったなぁ」
「度々思い出してたの?」
「うん、那月と懐かしさで話したり、高校の友達と遊んだりで、意外と学生気分は抜けきれてなかったのかも」
お姉ちゃんは笑いながらそう言った。
私は何かを掴んだ気がして、何かを見つけた気がしたので、そのまま帰ることにした。
「ありがと、家に帰って考えてみるよ」
「そっか、何か助けになったなら良かったかな」
玄関先まで送ってくれて、靴を履き替えてる時にお姉ちゃんは最初に持っていたという疑問を投げかけて来た。
「そういえば、どうして急に大人になる方法なんて聞いて来たの?」
「んー?早く大人になりたいから〜」
私はそう言って玄関の戸を閉めた。
結局分からなかった。
まぁ一日どころか数時間で分かるはずもない。そこまで簡単な事ではないのだと知っていたので驚きはしないな。
家に帰って母親の為に夕飯を作る。私だってある程度の家事はお兄ちゃんから教わって出来るのだ。
母親が帰って来て二人で一緒にご飯を食べた。
朝になり、洗面台で顔を洗って朝ごはんを食べ、制服に着替えて、イヤホンをしながら学校へ向かった。
その道中、面倒な男に出くわした。
「藍那ちゃん、おはよ〜」
「........」
「無視しなーいの」
「お前は私を尾行でもしてるの?」
「してないよ?っていうか目指してる場所が同じなんだからこういう事はそりゃ起きるよ」
「お前に合わなかった日の方が少ないぞ、数えてやっかな...」
「じゃあ運命だね。きゃっ、嬉し!」
「あははははははっははっははははは!」
「うわ、やばっ」
朝から元気に笑えたのでもうお家帰って良いかな?
「おっはよ〜露...!」
学校に着くと、露華がいたので露華のおっぱいを後ろから揉みしだ........こうとしたら振り向きざまに殴られた。
「ビックリしたぁ〜」
「私も〜...」
頭がクラクラする中立ち上がり、今度は普通に露華と雑談を始めた。
「今日も朝から凛と一緒に来たの?」
「ん」
「仲良いよねぇ、どーして付き合わないの?」
「ただの幼馴染としてしか見てないからだよ。てか一緒に登校して付き合うってなんだし」
そんな話をしていると、教室でふざけていたクラスメイトの男子が、藍那の肩に当たってきた。
「................」
藍那は痛かったのか、気に入らなかったのかその男子を冷たい目で睨みつけた。
そんな藍那が怖かったのか、男子はすぐに下手に出て謝った。
「あ...ごめん長谷さん...」
「だいじょぶだいじょぶ、行って良いよ、気を付けてね」
「う、うん...ホントごめんね」
男子は藍那から逃げるように離れていった。藍那はそんな男子の背中をまだ睨みつけていた。
「藍那、わざとじゃないんだからそんな睨まないの。ちゃんと謝ってくれたでしょ?」
「うざ...」
藍那は男子が当たった肩の部分を汚い物を落とすように手で払った。見るからにイライラしているのは言うまでもない。
「男子嫌いなの?」
「うるさい馬鹿は嫌い」
「凛は?うるさくない?」
「うるさいけど、馬鹿じゃない...かな?てか凛の話まだすんの?」
「だって今のが凛だったらどうしてた?」
その質問と共にチャイムが鳴り、クラスのみんなは席に戻り始めた。
藍那は露華に席に戻る道中で答えを教えた。
「有り得ない話をする気は無いよ」




