チュートリアル・二回目
「現想世界よ!
私は帰ってきた!」(ジト目のままドヤ顔)
再び現想世界にログインした。
同じようにマザークリスタルから出てきていた人達の注目が俺に集まる。
大多数の興味はすぐに俺から興味を移り、塔の外に向かう。
まだ見てる人はもしかして元ネタが分かった?
何歳か知れると言うものだな。
でもちょっと嬉しい。
「え?
……え?」
さっきからちらほらと何かに戸惑っている人達がいる。
マザークリスタルから一番乗りで出たわけではないのだが、マザークリスタルの中からでも視界は通っている。
そして見間違いでなければ戸惑っている人達は最初からそこにいた気がするのだ。
マザークリスタルからさらに出てきた人達の流れに飲まれてすぐに見えなくなり、俺自身の興味もすぐに移った。
広場では二日目だからかまだ軍と協会の案内人がいた。
昨日と同じ人達だ。
近寄って話しかける。
「こんにちは。
久しぶりですね。
一日だけど。」
昨日と同じようにナランの肩に座ったイファが、返してきた。
「こんにゃちは。
昨日と言われても流石にあんにゃ数のクリスタリアを全員覚えるにゃんて無茶だよ。
後、うちらは自由がウリの協会の冒険者だぜ。
敬語にゃんていらねえよ。」
「そういやそうか。
昨日一番最初に特技を見せた蜥蜴族のクリスタリアだ。
登録はしたんだけど、死んじまってな、それを機にチョイと体を作り直してみたんだよ。
名前も合わせて変えるつもりだから登録し直しが必要かなって思ってさ。」
「つ、作り直し?」
エルフ族のアンヘルが思わず聞き返す。
「うん。
前の槍に特化した蜥蜴族は軍の歩兵ならともかく、一人旅には向かないなぁと思ってね。」
「前は男だったよにゃ。
性別どころか種族も…
にわかには信じらんねーにゃ。」
「そうか?
まあそうだよな。
ってゆうかさあ。
昨日、説明会があるって知らなかったんだけど。」
「それなら、説明会の案内はアンヘルだったな。
それにしてもあれほどの才能が開花する事無く終わるのは槍使いとして惜しいな。」
グルシャンが言うが、
「そのアンヘルを気絶させたのはお前だ。」
とナランに指摘される。
「む…うむ…
すまなかったな。
確かに私のせいだ。
説明会に出ていればお前も死ななかったかも知れん。
詫びに何か有れば力になろう、ぜひ頼ってくれ。」
「私には謝罪は無いんですかねぇ?
まあ、あの時の私は冷静でなかった事は認めますがね。
しかし、フォルティドゥといい、イファといい、グルシャンといい何故男のように話すのでしょう?」
「裏路地育ちだからだぜ。
おんにゃだってにゃめられちゃ困るからね」
「女である前に武人であるのだ。」
「言葉使いまであわせて変えんのは流石に面倒くさい。」
「ああ、どこかにお淑やかで控えめな手弱女はいないのでしょうか。」
アンヘルが大げさに天を仰いで嘆く。
「レオニダス様に娘さんを下さいと言え。」
「そりゃ手の込んだ自殺だにゃ。」
グルシャンとイファがなおもからかう。
「と言うかあのオーガンとタイタニアのハーフから何がどうなったらあんな可愛らしい子が生まれるんだ?
いや、あんなフェアリーの嫁とどうしたらできるんだよ?
体格差で悩む巨人族がどれだけいると思ってんだ?」
ナランは真剣に悩んでいるようだ。
巨人族は体がでかいから出来なかったりするのか。
「む?
アンヘルよ、今……彼女の名を呼ばなかったか?」
「ええ、クリスタリア全員ではありませんが、能力を聞き出したクリスタリアは名からアビリティやスキルまで覚えていますよ。」
「あ、名前も変えたんだった。
ぬこ鍋って呼んでくれ。」
「もうお前別人にゃんじゃないか?
共通点あるのかよ?」
「記憶と思考、それ以外は無いかな。」
「よく考えればお前、猫族で短剣二本と弓矢ってイファと似てるな。
真似たのか?」
「いや、一人旅したいって掲示板で……大勢のクリスタリアが集まって話し合う場所かな?
そこで聞いたらさ、飛ぶ奴に対抗するには飛び道具か魔法が無いときついとか、短剣は持ち運びしやすいし戦闘以外にも使えるとか、猫族の索敵と隠密は雑魚の狩猟から強敵の暗殺はもちろん逃走まで使えるとか聞いたんだよ。
嫌ならまだ初日だし変えようか?」
「そんにゃに嫌じゃにゃい。
うちらにあんたの姿形ににゃん癖付ける筋合いはにゃいし。」
「そりゃ良かった。
でも似たビルドなのは確かだしコツとか有ったら教えてくれよ。
先輩?」
「先輩!?
フッフッフ。
よーし、生後二日、レンジャー初日のぬこ鍋に一六歳でレンジャー歴十年のイファ先輩が教えてやるにゃん!」
(レンジャーを志したのが十年前でしょう。それにしても生後二日の方が一六歳より発育が良いとは、プッククク。)
(思えば私もイファを子供扱いしてからかっていたが…そんなに先輩と呼ばれたのが嬉しいのか。)
(呼び方一つで浮かれるとはなあ。才能はあるし経験もついてきたがアンヘルに子供扱いされるのも仕方ない。)
「第一波は終わったぞー!」
塔から合図が聞こえてきた。
「協会で冒険者になりたい奴はついて来い!!」
ナランが大声を上げてから進み出した。
試験場は昨日と同じ場所だ。
またも走らされたりしたわけだが、【猫足】のおかげか短距離走ではそれなりに上位に入れた。
障害物のあるコースでは【猫足】【反応】【運動神経】【バランス感覚】の効果でトップクラスだ。
まるで漫画か何かのように障害を一回転しながら飛び越し、片手で着地してから小さくジャンプし、回って壁を蹴ってコーナーを曲がるといった具合だ。
特に【反応】は少し時間が遅く流れているような不思議な感覚だった。
反射でなければ間に合わないだろう動作が考えてからでもギリギリではあるが間に合った。
特技では初期装備の癖のついた雑木のショートボウを使った弓術と錆びたダガーを使った短剣二刀流を披露した。
【調合】【手当て】【採取】【隠密】も見せたかったが、隠密と採取は試験を行っておらず調合と手当ては別枠で試験をしているそうだ。
昨日と同じように双葉の証をもらい、今日は説明会に参加出来るよう他のプレイヤーが終わるのを案内役のアンヘルと一緒に待った。
「そういやさ、オーガンとかタイタニアとかクリスタリアとか言ってるけどさ。
鬼族とか巨人族とか言わないのか?」
「正式には其方ですね。
普通は獣人系をアニマル、猿族犬族猫族馬族蜥蜴族鳥族をそれぞれエイプマンとかドックマンとか言いますね。
甲殻系をアーセロポッド、甲虫族飛虫族をインセクツとフライングインセクツと。
精霊系をスピリトゥス、エルフ族ドワーフ族フェアリー族セイレーン族はそのままエルフやドワーフと。
魔人系をマギア、鬼族巨人族魔族をオーガンタイタニアデモニシアと呼びます。
因みにクリスタリアは正式には結晶族と言いますよ。」
そんな事を話しながら待っていると人数も集まる。
……何か熱心に俺を見てくる奴がいる。
特に鳥族の男がこれぞまさに鵜の目鷹の目といった目つきで睨み付けてくる。
その男はボディビルダーに申し訳程度の翼と無駄にリアルな鷹の頭を被ったかのような姿で、瞬きすらせずに俺の胸を凝視している。
俺の胸を見れば腕を組んでいるせいで、胸が押し潰されて柔らかさを強調するかのようだ。
そういや今は女で巨乳だったな。
まあ、気持ちは分からなくも無いが。
「ああ!?
俺になんかくっついてるか?」
だが許さん。
イファ先輩も女だからって舐めてくる奴は多いからこっちからくってかかるぐらいじゃなきゃ駄目だと教わったし。
「い、いえ、その……さーせん。」
「くっついているな。
素晴らしき禁断の果実が二つ。」
チラチラ見てきた奴は誤ってきた。
だが本命の鳥男は口先だけですら謝らない。
鳥男に顔を息がかかるほど近づけ、マンガで見たように眉をハの形にして睨みつける。(本人は動かしているつもりだが結局不動のジト目、起こっている感じはせず怖くない、その上近づいたので襟元から谷間が見えている)
「男ならチラチラ見るのはしゃあねぇよ。
俺もそれぐらいで一々咎めたりしねぇ。
だかなてめぇの当然の権利と言わんばかりに堂々と見てくんのはムカついたぞ。
はっきり言われて尚、悪びれないたぁな。
ふてぇ野郎だ。」
「中は男か?
……チッ。
……………
む、だが……俺…ジト目…だが感情的になりやすい…口が悪い…不良か…更に元男故…無自覚…初心…無防備…」
ビビるどころか、無視して妄想を始めている。
だがそんな程度では負けない。
「オイコラ!
聞いてんのか?
ああん?」
「ふむ、一見ジト目で口が悪く誤解されやすい、だが感情が顔に出ないだけで結構熱い元男の親友、さらに元男だからこそ無防備で無自覚に自分のダイナマイトボディで主人公をドキドキさせ、その一方でジト目によりわざとやって反応を見て蔑んでいる女王様のようにも見える。」
「……………」
負けた。
というか正直、声をかけたのを後悔している。
「やがて少しずつ肉体に引きずられて精神も女性的になっていき、自分を理解してくれる主人公に惹かれていく。
しかし彼女はそんな訳無いと自分自身の気持ちを押し殺すが、気持ちは日々大きくなりとうとう彼女は自分が身も心も女になったと認め、主人公争奪戦に身を投じる。
……………
ありだな。」
まともじゃ無い。
いや、どうせゲームの中だ、という意識があるからか?
俺は黙って離れ、さり気なく人影に隠れた。
撤退ではなく戦略上の一時的な転進が偶然後方だっただけである。
決して逃げたわけではない。
少しして第一陣として説明会に送られた。
「ゲームまで来て勉強かよ…」
正直面倒くさい。
案内された場所も広い部屋に椅子と机が並んでいて、かつての学校の教室を彷彿とさせる。
今度は故意にサボろうかな?
ドアが開いて教師(教官?)が入ってきた。
最初に見えたのはおっぱいである。
今では自分自身巨乳の自覚はあるがその俺と比べても一目で判る程に差があるだろう。
胸がデカければ尻もデカい。
その上で、優しそうで穏やかそうな表情の美人だ。
教師のピンク色の髪はフンワリとしたウェーブをしていて背中までとどく。
「じゃあ~説明会を~始めます~。」
おっとり巨乳のお姉さんに教わるなら話は別だ。
「え~と~。
自由に~ここに座って下さ~い。」
キャラの性能を最大限に利用して前から二列目の真ん中の席を取った。
「では、後は頼のみましたよ。」
アンヘルが教室から出て行く。
するとお姉さんの話し方ががらりと変わった。
「よしっ。
あらかじめ言わせてもらうと私は運営キャラよ。
普段はさっきみたいなロールプレイでやっているからよろしくね。
では説明会を始めます。
あ、軍に入った人達ももちろん完全フリーの人でも説明を受ける事は出来るから安心してね。
どうしてこんな形なのか、どうしてスキルやアリビティみたいにしないのか、と言えば常識や習慣を左右するのは流石に規制されちゃったからね。
そんな訳で急遽対応した結果が説明会と後で説明する【貴方のヒトヒラ】(貴方の一片)よ。
まあでも覚える事を大して無いし、貴方のヒトヒラに聞くことも出来るから気負うことはないのよ。
例えば犯罪は常識的な行動をすれば罪に問われることはあんまり無いし。
刑は変わるけど。
具体的には日本より厳しいわね。
この世界では犯罪者の更生を期待して世話するなんて余裕はないし、メタな事言うとクリスタリアはただのゲームという意識があるからよ。
取説にも書いてあるからあなた達のプレイ動画を映画やドラマみたいに編集して販売するのは知っているわね?
つまりあなた達のプレイは全て記録されているの。
だから現想世界内の犯罪者プレイならともかく本格的な犯罪者は逃げられないわ。
現想世界内の犯罪者プレイならあくまで現想世界内の警察組織が対応するし刑も現想世界内のものよ。
捕まった時のリスクを承知の上でのプレイなら運営が出張ることはないわ。
さて、今までのVRMMOと違う点ね。
NPCともう話した人は分かると思うけど全員がAIで動いているの。
人類以外も多くの存在にAIが実装されて、死んだらリセット、輪廻転生をしているようなものよ。
だから、ただのNPCなんて思わないで接してくれれば開発者冥利に尽きるわ。
あ、そうそう強制じゃないけどさ、プレイヤーをクリスタリア、NPCをナチュラルと呼ぶ事を推奨するわ。
で、そのクリスタリアがナチュラルと違う点だけど、一つ目はプレイヤーが操作している事ね。
言うまでもないけどさ。
二つ目はキャラメイクが出来るか出来ないか、よ。
ナチュラルは出来ないから親に影響受けるけど、ランダムよ。
技術であるスキルもポイント消費で覚えたり出来ないし、後から才能であるアリビティや肉体の構造を追加したりなんて出来ないわ。
要するにクリスタリアは全員がナチュラルで言うところの天才で更に天才になれるの。
でも所詮天才だから。
ナチュラルにも天才はいるし、絶対的な壁があるわけではないのよ。
ユニークアビリティやエッセンススキルを持ったナチュラルもいるぐらいよ。
そんな訳でアイテムボックスみたいな優遇措置はないわ。」
その後もまさに立て板に水と言った具合ですらすらと話していく。
要約すると現想世界はVRMMOというよりVRシュミレーターと言うべきと言うことだ。
そう言われれば毒物の規制も当然か。
排泄や清潔まであるらしい。
無料の大衆浴場が街にはあるが、浸かるだけでよいので水着着用でよく、さらに湯気、逆光、風による鉄壁のガードが覗き等を防ぐし、それは自分自身以外の全員に有効なので馬鹿な真似はしないようにとの事だ。
アーツもナチュラルでも発動出来るらしい。
本当に差は才能や技術をポイントで選べるところと復活出来るところぐらいのようだ。
更に細かい法律も教えられたが頭に入りきらない。
だが、貴方のヒトヒラは要するにサポートキャラであり、そいつに聞けばよいらしい。
助かった。
スキルやアリビティの詳細やアーツはマザークリスタルの中では他のVRMMOのようなステータス画面やチャットが開けるらしいからそこで調べられる。
サポートキャラでも今使えるアーツ等は教えてくれる。
協会では皆ノートを貰い、ノートには状態とアビリティが表示される。
階級が上がれば他の道具も渡されるらしい。
例えば種は雑用がせいぜいなので誰でもなれるがノートだけで他には種の依頼が受けられる以外にメリットは無い。
しかし双葉は街の外での依頼もあり、種より死に易いため戦闘能力を証明しなければならない。
しかしタグをもらえて登録した街に出入りする時に荷物検査とタグを見せるだけですむ。
タグには死体の代わりという意味もあるから回収するのがマナーだそうだ。
ノートにはLPSPMPとアビリティが表示される。
LPはライフポイントでダメージで減り、ゼロは死んでいる事を示す。
SPはスタミナポイントで肉体的に疲労すると減り、ゼロは指一本動かせない事を示す。
MPはマインドポイントで精神的に疲労すると減り、ゼロは気絶している事を示す。
ゲージは健康等によって上限や回復力も僅かに変わり、毒や骨折等の異常も表示される。
スキルが表示されない理由はノートは血から情報を読み取っているという設定だからで、スキルを自称ではなくはっきり証明する為には試験を受けなければならない。
だが初日にスキル重視の人が一日中使ってしまったという苦情があったので運営キャラの権限で希望者は初回は免除するらしい。
「じゃあ、質問タイム!」
あの鳥男が手を上げる。
まさか運営相手にもセクハラをかます気か?
「そもそもアーツが分からないのは何でですか?
常識じゃ無いですよね。
別の規制に引っかかったんですか?」
意外にもまともだ…
「バグよ。
次のアップデートにはなおせるわ。
それまで効果や発動条件は貴方のヒトヒラに聞いてね。
はい、他は~?」
今度は魔人族と思わしき捻れた角を持つ人が手を上げる。
「現想世界内の犯罪は現想世界内の警察組織が取り締まるとの事ですが、PKも公認するという事ですか?」
「ええ、そうよ。
でもさっき言ったように捕まった時のリスクはあるわ。
PKはNPCにも出来るけど、どっちもバレれば盗賊として討伐対象よ。
特に警邏兵や門番は【捕縛】【追跡】【陣形・捜索網】【記憶】【心理学】とかのスキルを持っているから犯罪者を捕らえたり特定したりするのは十八番だから気をつける事ね。
殺人で捕まれば処刑、カケラは回収されずに破壊されるからデスペナルティは避けられないわ。
でも相手の装備品やアイテムを根こそぎ奪えるから見返りもあるの。
悪質なほど、繰り返すほど、賞金額はあがるから逆に狙われもするけどね。
はい次の人~
……………
じゃ次ね。
貴方のヒトヒラを配るから、並んで。
マザークリスタルの中で外見は貴方のアバターと同じ様に変えられるわ。
性能は対して変えられないけど。」
席から立ち上がって一列に並ぶ。
またも学生時代を思い出す。
そういや結局大学は卒業できなかったなあ。
リハビリに時間がかかりすぎたんだ。
「次~。
はい。」
懐古しているといつの間にか俺の番が来た。
お姉さんの手が光り、光が消えると妖精さん的な小人がいた。
この子がヒトヒラか。
黒い髪は足元までとどく長さで、体の起伏は全く無い、というか幼児体型だ。
清楚な、古い家で和風お嬢様していそうな子だ。
「至らぬ点も有りますが、誠心誠意お仕えさせていただきます。」
かなりキチンと挨拶をしてきた。
小さくてかわいいな。
「うん。
いや、はい
こちらこそ宜しくお願いします。」
俺も挨拶を返す。
思わずこっちまで丁寧っぽくなってしまった。
しかし、妖精と言えばすでにフェアリー族を見たが、フェアリー族は一メートル程度の大きさがあった。
しかしヒトヒラは二十センチより少し小さいぐらいだ。
そんな大きさだし、戦闘や肉体労働には期待できそうにない。
魔法があるかも知れないから断言は出来ないが、急遽追加されたというのに高い能力を持つとはゲームバランス的に考えにくいし。
「……………
あなたはちょっと待っててね。」
何故かお姉さんに止められた。
解せぬ。
「さっそく聞きたいんだけど、何で呼び止められたか知ってる?」
「男なのに女のアバターだからなのでは?」
「あ、やっぱり分かるか。
でも普通に出来たんだけどなあ?」
「バグでは?」
「バグ多いな。」
「有機式コンピューターとは言いますが要するに人工脳でして、一部ですがプログラムを代わりに考えて予定外でも対応してくれるという物なのです。
しかし代わりに考えさせれば当然ながら期待していたのとは違う考えに至る場合があります。」
「その期待していたのとは違う部分がバグなのか。」
「はい。」
「なるほど。
ありがとう。
え~と…名前言ってなかったな。
俺はぬこ鍋。
お前は?
俺が名付けるのか?」
「ぬこ鍋様ですね。
分かりました。
私は名がまだ無いので名をいただければ幸いです。」
「ん~朔夜なんてどう?
中々良いと思うが。」
「ぬこ鍋と自らに名付けておられるので、てっきり私もそのような名になるかと思っていました。」
「自分がネタで名乗るなら兎も角、人に名付けるんなら真面目に考えるよ。
朔夜は当然ながら夜のイメージから、黒髪だし俺が忍者的な感じでいこうと思うからそれに付き合うことになるお前も忍者っぽくなってくれって意味でもある。」
「はい、待機の人はもう一回注目~。」
む、漸くか。
残っている人は十人に満たない。
「貴方達は実際の性別とは異なる性別のアバターを作成したわね。
ランダム作成を選んだ時に制限が適応されないバグが原因で、貴方達に非はないから安心してね。
それで貴方達にはお詫びに五級ポーション三個を受け取って始めから作り直すか、テスター…いや被験者としてそのままそのアバターを使用し続けるかの二つの道があるの。
性別選択は無かったのはVR内で異性として生活した場合の影響が分からないからよ。
リスクとして性ホルモンのバランスが崩れてホルモン注射を受けているみたいに体や思考が男性的か女性的になるかも知れない。
特に不感症や性的不能の可能性があるわ。
でも被験者の場合は給料が出るし、何らかの異常があれば治療費や手当ても出すわよ。
作り直す人はマザークリスタルで作り直して来てね。
今回のセッション中は私が協会の説明会をしているから来てくれればポーションを渡すから。
被験者をしてくれる人は並んでね。」
ふむ、リスクは男性機能の喪失か…
「あ、あの。
質問したいんですけど…」
「遠慮無くどうぞ。」
「馬族や飛虫族みたいな人間と明らかに違うのは大丈夫なのに異性は駄目って何でですか?」
「むしろ明らかに違うから現実と現想世界ではっきりと区別がつきやすいの。
だけど性別は種族に比べると違和感が少ないからね。」
俺は肺と膝から下が 右にしか無い。
片肺だとすぐに息が乱れて中々戻らない。
何が言いたいかと言うとオ○ニーや○ックスが困難だ。
よく途中で酸欠になったりして、しかしそれでも性欲は貯まっていく。
むしろ去勢でもした方が楽ではないかと時々考えてしまうことがあるほどだ。
……………
……………
……………
……………
……………
結局女性のままにした。
もうこの姿で知り合いが出来ていたし、不能になった所で困り事が減るだけだ。
「じゃあ、俺、このままでいきます。」
「随分早く決めたわね。
一応言っておくと、本人が許可しない限り自分以外の全ての人にガードが適応するから女湯に入っても肝心な場所は見えないよ?」
「そんな邪な理由じゃねえよ。」
「そう。
じゃ、画面の契約書を呼んでから同意するを押してね。
次の画面に電話番号と住所を入力すればこの場はお終い。
どんなに長くても一週間以内には書類が届くから、よく読んで手続きをして完了よ。」
言われた通りに同意し、情報を入力する。
「これでいいか?」
「オッケー。
免除したい試験はある?」
「【調合】と【手当て】を。」
「……………
はい、もういいわよ。
楽しんでいってね。」