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第3話 検証回 その1



 目を覚ますと、いつもの薄汚れた天井が見えた。


「……ねっむ」


 頭が重い。


 昨日は考え事をしすぎた。


 周りでは他のガキどもがまだ寝ている。


 イビキ。

 寝言。

 湿気。

 汗臭さ。


 いつものスラムだ。


「……はぁ」


 ゆっくり体を起こす。


 そして思い出す。


 ソフィア。

 原作。

 ルーク。

 魔剣。

 終盤の宇宙規模インフレ。


「……現実逃避してぇ」


 無理だった。


 むしろ起きた瞬間に思い出した。


「まぁ、考えても仕方ねぇか」


 今日は検証だ。


 まずは、自分に何ができるのか確認する。


 でないと何も始まらない。


 そのために今日は下水へ行く予定だ。


「……が」


「その前に仕事休まねぇとな」



 俺は所属しているスラムグループのリーダーのところへ向かった。


 俺の所属するこのグループは、この辺では珍しくまともなグループだ。


 スリ。

 盗み。

 誘拐。


 そういう犯罪は禁止。


 その代わり、下水掃除とか荷運びとか、肉体労働や汚い仕事ばっか回ってくる。


 大金は稼げない。


 でも、犯罪者にはならない。


 少なくとも、衛兵に見つかった瞬間首が飛ぶような真似はしなくて済む。


 スラムじゃかなりマシな環境だった。


「おうルーク、今日は早いな」


 リーダーがパンを齧りながら言う。


 三十前くらいの男。

 顔に傷がある。


 でも意外と面倒見はいい。


「悪い、今日ちょっと休みたい」


「ん? 珍しいな」


「ちょっと体調悪い」


 半分本当だ。


 昨日から頭の中ぐちゃぐちゃだし。


「なんだ、熱でも出たか?」


「いや、そこまでは」


「なら好きにしろ。この前結構働いてたしな」


「軽っ」


 まぁ、このグループは出来高制に近い。


 働けば飯が増える。

 休めば減る。


 それだけだ。


 だから意外と自由だった。


「助かる」


「死ぬなよー」


「努力する」


 適当にいつもの挨拶を返して、俺はその場を離れた。



 下水道についた。


「……くっさ」


 思わず顔をしかめる。


 いや、知ってる。


 掃除の仕事で何回も来たことはある。


 でも臭いもんは臭い。


 腐った水の臭い。

 カビ。

 ヘドロ。

 あと何かよく分からん臭い。


 全部混ざってる。


 入口は石造りで、階段が地下へ続いていた。


 街の表側より古そうだ。


 原作でも、初期は結構こういう場所が出てきた気がする。


「まぁ、王道だよな」


 スラム。

 下水。


 テンプレみたいなスタートだ。


 ただ今日は、魔物退治をしに来たわけじゃない。


 目的は実験。


 魔力操作。

 魔力切れ。

 固有魔術。


 その検証だ。


 だから俺は、普段掃除の連中もあまり来ない奥へ向かう。


 しばらく歩くと、少し開けた空間に出た。


 崩れた石柱。

 乾いた床。

 脇に流れる汚水。


「……ここならいっか」


 俺が勝手に“隠れ家”扱いしてる場所だ。


 仕事の休憩中、サボる時によく使っていた。


 人も来ない。

 魔物もあまり来ない。


 ちょうどいい。


「さて……」


 俺はその場に座る。


 まず確認するのは、魔力操作。


 魔術は使えない。


 でも、魔力そのものは昔から感じていた。


 体の中を流れる熱みたいな感覚。


 まぁ、結構動かせる訓練はしてきた。


 ただ、それだけだ。


 魔術は使えない。


 原作知識的に、魔術は“術式”を理解しないと発動できない。


 身体強化魔術ですら、ちゃんと理論が必要だったはずだ。


 だから俺ができるのは、あくまで魔力操作。


 それだけ。


「……で、魔力操作の応用だが」


 原作だと、魔術じゃない魔力技術も色々あった。


 浮遊。

 壁走り。

 水上歩行。

 探知。

 魔力視。


 この辺は確か、純粋な魔力操作技術の応用だったはずだ。


「……火とか水を出す話ばっか聞いてたし、身体強化魔術すら使えねぇから完全に忘れてたなぁ」


 後半になると、みんな当然みたいにやってたせいで感覚麻痺してたけど。


 冷静に考えると意味分からん。


「まぁ、まずは出来そうなのからか」



 数時間後。


「……うん、無理」


 壁にもたれながら呟く。


「これ、一流の技術だわ」


 浮遊、無理。

 壁走り、無理。足の摩擦量を上げる、身体能力が足りない

 水上歩行、普通に落ちる。一定に足から魔力で浮力を生み出すと何それ。


 想像以上に難しい。ていうか、本当に動かすだけと放出しかできない自分には不可能だわ。


 魔力を動かすだけなら出来る。


 でも、“外に出した魔力を維持する”のが異常に難しかった。


 すぐ散る。

 集中が切れる。

 形にならない。


「後半の連中、なんで当然みたいに空飛んでたんだよ……」


 神編のインフレが頭をよぎる。


 感覚麻痺してた。


 あいつら普通じゃない。


 唯一できそうなのは。


「……探知、か?」


 目を閉じる。


 ゆっくり魔力を広げるイメージ。


 すると。


「……あ」


 なんとなく分かる。


 肌から五センチくらいの範囲だけ。


 空気の流れ。

 水滴。

 壁。


 そんな感覚がぼんやり伝わる。


「いや、近っ」


 思わず突っ込む。


 ほぼ意味ない。


 でも。


「……できては、いる?」


 感覚はあった。


「まぁ、ゼロじゃないだけマシか」


 問題は。


「腹減った……」


 めちゃくちゃ疲れる。


 魔力使うと腹が減るのか。


 知らなかった。


 原作でそんな描写あったっけ。


「……いや、あいつら後半ほぼ人間じゃなかったしな」


 参考にならねぇ。


 とりあえず。


 次は本命だ。


「……魔力切れ、やるか」


 めんどい。


 だが、ここまで来たら試すしかない。


 周りを確認して、魔力を一気に放出──はできないから、ちょろちょろ垂れ流す感じで消費していく。


 そして。


 十分後。


「……お、結構キツいな」


 頭が少し重い。


 二十分後。


 吐き気。


 三十分後。


「っ……ぅぉぇ……」


 視界が揺れ始める。


 今まではここら辺で止めていた。


 だが今日は続ける。


「……っ」


 さらに魔力を絞る。


 すると。


 ズキンッ!!


「っぁ!?」


 頭に激痛が走った。


 目の前が白くなる。


 眠い。

 異常に眠い。


 首が立っていられない。

 瞼が重い。


「これ、が……魔力切れ……?」


バタッ。

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