表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/99

第80話:第73層の例外処理(イースターエッグ)と、迷宮内の完全休息

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


第67層の『瘴気の森』を抜けた後も、『三律の連環』の歩みは極めて順調だった。


不要なタスクを削ぎ落とし、リソース管理を徹底した彼らのシステムは、続く階層群を一切の危なげなく突破。そしてついに、未知の領域である第73層へと足を踏み入れた。


「……警戒を怠らないで。これほどの深層よ、環境デバフか、見えないバックドアが仕掛けられているはずだわ」


ミクの厳しい号令の下、全員が『ゼロトラスト・モード』でじりじりと前進する。


第73層は、淡い光を放つ水晶が壁面に群生する、幻想的な洞窟エリアだった。視界は良好だが、それが逆に不気味さを煽る。


『――前方より魔物接近! 数は三!』


ユリウスのセンサーが反応し、前衛のガストンとヴァレリアが即座に構える。

現れたのは、硬い甲殻を持った二足歩行の魔物――『シザー・ビートル』だった。


「来るぜ! アタシが先陣を――」

「待てヴァレリア、敵の挙動アルゴリズムが少しおかしいぞ」


大盾を構えたガストンが訝しげに眉をひそめる。

深層の魔物特有の「殺意に満ちた超高速の突進」がない。それどころか、フラフラと歩幅が合わず、まるで中層で遭遇する下級エネミーのような緩慢な動き(ロースペック)だった。


「……ええい、手加減なんてしてやらないよッ!」


ヴァレリアが戦斧を軽く振り抜く。

バキィッ! という呆気ない音と共に、シザー・ビートルの甲殻は紙細工のように粉砕され、三体の魔物は一瞬にして光の粒子データとなって消滅した。


「……えっ? 脆すぎないかい?」

「中層レベルの耐久値だぞ。深層の敵にしては、明らかに処理タフネスが軽すぎる」


拍子抜けした前衛陣。だが、次の瞬間、彼らの目を疑う光景が広がった。


魔物が消滅した跡に、ゴトリと重々しい音を立てて『ドロップアイテム』が落ちたのだ。


「こ、これは……『純度99%の特級魔力結晶』!? 普通ならフロアボス(階層主)クラスを倒して一つ落ちるかどうかの、超レアアイテム(最上位アセット)よ!?」


ミクが血相を変えて結晶を拾い上げる。

さらに、ユリウスが周囲の壁面をスキャンし、驚きに目を見開いた。


「ミク、壁に群生している水晶だが……ただのオブジェではない。すべて、最高品質の『霊薬の原石』だ。少し削り取るだけで、市場なら金貨数十枚で取引される代物リソースが、そこら中に山のように生えている」

「……ハニーポットよ」


ミクが青ざめた顔で双剣を構え直した。


「明らかにゲームバランス(ドロップ率)が崩壊しているわ! この階層全体が、欲に目が眩んだ冒険者を引き寄せるための巨大な罠(悪意ある仕様)に違いないわ! 最後にとんでもない強敵クリティカル・バグが待ち構えているはずよ! 全員、絶対防衛陣形を維持!!」


PMの悲痛な警告に、全員が冷や汗を流しながらゴクリと喉を鳴らす。

異常なほど弱い敵。異常なほど高品質な報酬。

それはまさに、巨大なシステムの裏側に隠された「落とし穴」の前兆にしか見えなかった。


彼らは壁面のレア鉱石には一切目もくれず、現れる中層レベルの魔物を過剰なまでの火力で瞬殺しながら、滝のような汗を流して最深部へと進んだ。


そして数時間後。

彼らはついに、第73層のボスエリアと思われる、巨大なクリスタルで装飾された最奥の扉の前に到達した。


「……行くわよ。この奥に、この狂った階層の元凶(管理者)がいるはずよ」

「おう……! どんな理不尽な火力が来ようと、俺の盾で絶対に防ぎ切ってやる……!」


ミクとガストンが、決死の覚悟で重い扉を押し開ける。

六人は一斉に部屋の中へと雪崩れ込み、それぞれの武器を構え――そして、完全にフリーズした。


そこにあったのは、透き通るような美しい地底湖と、柔らかな光に包まれた苔の絨毯。

魔物の気配は一切ない。それどころか、部屋の中央には『完全回復のセーフティー・スポット』がコンコンと湧き出し、傍らにはご丁寧に「ご自由にどうぞ」と言わんばかりの超高品質な果実が実る樹木が生い茂っていた。


「…………えっ?」


ミクが双剣を取り落としそうになる。

ユリウスが何度も杖で空間をスキャンし、ルカも魔力探知を張り巡らせるが、結果は同じだった。


「……罠、なし。敵性反応、ゼロ。毒素、なし。それどころか、この空間の空気マナを吸っているだけで、体力が全回復していく」


ユリウスが、信じられないというように呟く。


「……これ、システム開発の業界でたまにあるやつだわ」


ミクが、ガクッと膝から崩れ落ちて深い溜息を吐いた。


「開発者(迷宮の創造主)が、お遊びでこっそり仕込んだ隠し要素イースターエッグ。敵は極端に弱く、報酬だけが異常に高く設定された、完全な『ボーナスステージ』よ……!」


その言葉に、数秒の沈黙が落ち。

直後、極限の緊張状態から解放された前衛陣が、ワハハハハッ! と腹を抱えて爆笑し始めた。


「傑作だ! 死ぬ気で身構えて飛び込んだ先が、極上のリゾートセーフエリアだったなんてな!」


ヴァレリアが戦斧を放り投げ、ふかふかの苔の絨毯に大の字で寝転がる。


「おいおいPM! 石橋を叩き割るどころか、そもそも下に川すら流れてなかったじゃねえか!」


ガストンも分厚い鎧をガシャガシャと脱ぎ捨て、地底湖の水でバシャバシャと顔を洗い始めた。


「うぅ……っ。だって、こんなのPMとして疑うのが当然じゃない……!」


顔を真っ赤にして抗議するミクの頭を、ガルドが笑いながら大きな手で撫でる。


「いいじゃねえか。結果的に、安全にリソースが潤ったんだ。……たまには、この迷宮システムからのご褒美ってやつを、素直に受け取っておこうぜ」


ガルドの言葉に、ミクもようやく肩の力を抜き、ふにゃりと笑った。


「そうね……。ここまで神経をすり減らして(オーバークロックして)進んできたんだもの。たまには、アイドル状態(待機)のまま時間を無駄遣いするのも悪くないわ」


いつもなら「街に戻るまでが遠足スプリントよ」と急かすミクが、自ら双剣を置き、柔らかな苔の上に腰を下ろした。


ルカが地底湖の清らかな水を汲み、持参した茶葉で温かいハーブティー(リフレッシュパケット)を淹れ始める。ユリウスもまた、壁面から上質な魔力結晶を興味深そうに採取しながら、どこか楽しげな表情を浮かべていた。


死と隣り合わせの迷宮のド真ん中。

しかし第73層の例外的なバグ(ボーナス空間)は、『三律の連環』の六人に、街の酒場以上に穏やかで、満ち足りた完全休止スリープモードのひとときを与えていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「この連携、理にかなってる!」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

ページ下部にある【ブックマークに追加】と、

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆のモチベーションが爆上がりします!


明日も更新予定ですので、引き続き『三律の連環トライ・リンク』の活躍をよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ