第51話:安全な帰還(ログアウト)と、激震のリリース報告
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「テストドライブは完璧だった。だが、今日の探索はここまでだ。各自、速やかに撤収の準備を」
第54層の安全地帯。ユリウスの冷静な指示に、メンバー全員が異論なく頷いた。
かつてのユリウスなら「私の魔力はまだ有り余っている! 先に進むぞ!」と強行軍を強いていた場面だ。しかし今の彼は、PMであるミクの「安全第一」という設計思想を完全にインストールし、メンバーの隠れた疲労度を正確に読み取ってブレーキをかける役割を全うしていた。
転移結晶の光に包まれ、五人は迷宮都市へと無事に帰還を果たした。
――迷宮都市、冒険者ギルド。
夕刻のギルドは、一日の探索を終えた冒険者たちでごった返していた。酒を飲み交わし、情報交換をする喧騒。
しかし、ギルドの重厚な扉が開いた瞬間、その喧騒は水を打ったようにピタリと止んだ。
「……おい、嘘だろ」
「なんで、あいつらが一緒にいるんだ……?」
冒険者たちの視線の先。
そこには、涼しい顔で歩を進める『三律の連環』の四人と、その最後尾を、まるで彼らを護衛するように静かについて歩く『賢者ユリウス』の姿があったのだ。
「ユリウスの奴、どこにも拾ってもらえないからって、ついにミクのところに頭を下げたのか?」
「いや、逆だろ! あいつの性格だ、『俺の火力がねえと先には進めねえだろ』って強引に押し入ったに決まってる!」
「うわぁ……せっかく第51層の素材を持ち帰って波に乗ってたミクたちも、あんな時限爆弾を抱え込んじゃ終わりだな……」
ヒソヒソと囁かれる、ユリウスへの嘲笑とミクたちへの同情。
かつてのトップパーティーを崩壊させた「傲慢な賢者」の悪評は、それほどまでに街全体に浸透していた。
そんな周囲の視線など意に介さず、ミクは真っ直ぐに買い取りカウンターへと進み出た。
「お疲れ様です。本日のドロップアイテムの査定、お願いします。第54層の『幻影の暗殺者』の素材がメインです」
ドンッ、と置かれたマジックバッグから、希少な擬態素材が大量に吐き出される。
「ご、54層!? あ、あの不可視の魔物の群れを、無傷で……!?」
受付嬢が悲鳴のような声を上げた。そして、恐る恐るミクの後ろに立つユリウスへと視線を向ける。
「あ、あの……ミクさん。その後ろのユリウス様は、まさか……」
ギルド中の冒険者が、唾を呑み込んで次の言葉を待った。
ユリウスが鼻で笑い、ミクを突き除けて「私の火力のおかげだ」と豪語する最悪の光景を誰もが予想していた。
しかし。
ユリウスは静かに一歩前に出ると、ミクの斜め後ろに立ち、受付嬢に向かって深々と、そして洗練された動作で一礼した。
「初めまして、ギルドの諸君。……私は本日より、『三律の連環』に所属することとなったユリウスだ。当パーティーの『戦術指揮』および『火力支援』を担当させていただく」
「……は?」
受付嬢の口から、間の抜けた声が漏れた。ギルド中の冒険者たちの顔面も、驚愕で硬直している。
「おい……今、なんて言った?」
「あの傲慢なユリウスが、自分から『支援を担当する』って……?」
ざわめきが広がる中、ユリウスは全く悪びれる様子もなく、涼やかな声で続けた。
「査定と報酬の受け取りについては、我がパーティーの絶対的なリーダー(PM)であるミクの指示に従ってくれ。私はあくまで、彼女の構築したシステムの一部に過ぎないのだから」
ピシャァァァァァァァンッ!!
目に見えない巨大な雷が、ギルド中の冒険者たちの頭に落ちたような衝撃だった。
あのプライドの塊だったSランクの賢者が。
かつて「火力不足の無能」と見下して追放した女剣士を『絶対的なリーダー』と呼び、自らその下位に甘んじていると公言したのだ。
「う、嘘だろ……あのユリウスが、完全にミクの下についてる……!?」
「それに、あの憑き物が落ちたような落ち着いた顔……。以前のピリピリした危うさが、欠片もねえぞ……!」
ギルドの空気が、嘲笑から「底知れぬ畏怖」へと変わっていくのを、ミクは静かに感じ取っていた。
(……ふふっ。最高の宣伝になったわね)
圧倒的な火力を誇る賢者を、ただの砲台としてではなく、完璧な「理性」を持たせた戦術指揮官として完全に支配下に置いた。
それは『三律の連環』が、個の暴力すらも完璧に制御できる、規格外のシステム(器)を持っていることの何よりの証明だった。
「査定、よろしくお願いしますね」
ミクが再びニッコリと微笑みかけると、受付嬢は弾かれたように「は、はいぃぃぃッ!! すぐに計算いたします!!」と作業に取り掛かった。
「……ミク。私の挨拶(出力)に問題はなかったか?」
ユリウスが小声で尋ねる。
「ええ、完璧よ。100点満点のインターフェースだったわ。……さあ、手続きが終わったらお肉を食べに行くわよ! 今日はユリウスの歓迎会なんだから!」
「おうっ! ユリウス、お前は頭使って腹減ってるだろうから、俺の肉も分けてやるぜ!」
「歓迎します、ユリウスさん! これからよろしくお願いしますね!」
「……フッ。お前たちのペースには、まだ少し慣れないな」
驚愕で固まるギルドの冒険者たちを置き去りにして。
新生『三律の連環』の五人は、確かな絆と最強の連携を胸に、夜の酒場へと笑い合いながら消えていくのだった。
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