第49話:完全なるタスク・オフロードと、灰の空を墜とす主砲
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迷宮第51層の最深部。
絶え間なく灰が降り注ぐ広大なクレーターの中央に、その巨大な影は君臨していた。
『灰燼の嵐帝』。
銀羽の怪鳥たちの頂点に立つ、翼長10メートルを超える四つ目の巨鳥。その翼が一度羽ばたけば、致死量の灰が視界を奪う猛吹雪となって吹き荒れる。
「ギャァァァァァァァァッ!!」
嵐帝が鼓膜を破るような咆哮を上げ、クレーター内に濃密な灰の竜巻を発生させた。
視界ゼロ。前衛からは、上空を旋回するボスの位置はおろか、隣にいる仲間の姿すらまともに見えない。
だが、ミクの唇には、焦りではなく「笑み」が浮かんでいた。
(……ああ、なんて『軽い』の!)
かつての彼女なら、この絶望的な視界不良の中で、敵の気配を探り、味方の位置を把握し、次の陣形を考えながら、自身の回避行動を取らなければならなかった。脳内メモリは常にパンク寸前。
しかし今は、その「状況判断」という最も重いプロセスを、すべて後ろの男に丸投げ(オフロード)できるのだ。
「ミク! 敵は上空40メートル、右旋回中! 3秒後に君の真上から急降下してくる! そのまま前方へ5メートルダッシュ、右へスウェイだ!」
灰の竜巻のさらに外側。安全圏に陣取るユリウスの『賢者の眼』は、濃密な灰の向こう側にあるボスの魔力挙動を完全に捕捉していた。
「了解!」
ミクは何も考えない。ただ自身の「回避(機動力)」という機能だけを100%稼働させ、ユリウスの指示通りに動く。
ズドォォォンッ!!
ミクがステップを踏んだコンマ数秒後、彼女が先ほどまでいた場所を、嵐帝の巨大な鉤爪がえぐり取った。
「ガルド! 大盾を水平から仰角30度! ミクを狙って外した爪の余波がそっちに行く!」
「おうよッ!」
ガガァンッ! 完全に予測された軌道。ガルドは盾を軽く添えるだけで、巨鳥の強襲の余波をいとも簡単にいなして見せた。
「……信じられない。前衛の負担が、今までの半分以下だ」
ミクが息を弾ませて呟く。
敵の動きを探る必要がない。ただ言われた通りに動けば、絶対に安全な位置で敵を躱せる。これが、真の司令塔の力。
「遊撃(回避)タスク完了! ユリウス、敵の隙ができたわよ!」
「ああ、見えている。……アリア! 敵が上昇姿勢に入る前に、足元から『熱波の嵐』だ! 機動力を奪え!」
「はいっ!! 行きます!」
アリアの杖から放たれた猛烈な上昇気流が、再び空へ舞い上がろうとしていた嵐帝の翼を煽り、その巨体を不様に揺らした。
「ルカ! 敵の左翼の付け根、魔力障壁が薄くなっている! そこへ氷槍を三発、連続で撃ち込め!」
「ピンポイントの脆弱性か。……了解だ!」
ルカの放った三本の氷の槍が、乱気流で体勢を崩したボスの左翼を正確に貫き、その関節を完全に凍りつかせた。
「ピギャァァァァァァッ!?」
片翼の自由を奪われた嵐帝は、悲鳴を上げながらバランスを崩し、灰のクレーターの底へとドスンと無様に墜落した。
「敵の機動力、完全停止を確認。……見事な連携だ、前衛・中衛諸君」
ユリウスが、ゆっくりと前へ歩み出る。
息一つ乱れていない。魔力の消耗もゼロ。
ミク、ガルド、アリア、ルカの四人が、ユリウスのための『完璧な舞台(実行環境)』を作り上げたのだ。
「あとは私(主砲)の仕事だ。……消し飛べ、『極大雷光』」
一切の気負いも、過剰な詠唱もない。
ただ最も効率的に、最も正確に圧縮された雷の極大魔法が、ユリウスの杖から放たれた。
轟ァァァァァァァンッ!!
灰の空を真っ白に染め上げる閃光。
墜落して身動きの取れない嵐帝は、抵抗する間もなくその規格外の雷撃に呑み込まれ、巨大な魔力核ごと跡形もなく蒸発した。
「……対象の全消滅を確認。第51層階層主、討伐完了よ」
ミクがストップウォッチを止める。
討伐タイムは、これまでのどのボス戦よりも圧倒的に短かった。
「ははっ! なんか、あっけなさすぎて拍子抜けだぜ! ポーションすらいらねえ!」
ガルドが大盾を背負いながら、大声で笑う。
「ああ。これなら、このまま次の階層に進んでも、ステータス的には全く問題ないな」
ルカも結界を解きながら、余裕の表情で汗一つかいていない顔を拭う。
アリアに至っては、「ユリウスさんの指示、本当に分かりやすいです!」とキャッキャと喜んでいる。
「ふむ……。私の指示に対するレスポンスも悪くない。ネットワークの遅延は完全に解消されたようだな」
ユリウスが杖を収め、満足げに頷く。
ミクはそんな4人の姿を見て、思わず空を仰いで笑い声を上げた。
「あははっ! 本当に、なんて余裕なのかしら! 前衛が考えることをやめて、後衛の頭脳にすべてを委ねる。これが、5人の歯車が完全に噛み合った私たちの『真のスペック』なのね!」
死闘になるはずだった第51層のボス戦。
しかし新生『三律の連環』は、誰一人として大きな疲労を抱えることなく、これを文字通り「蹂躙」した。
完璧な戦術指揮(司令塔)と、最強の矛(火力)。そしてそれを支える無敵の盾(前衛)と支援。
一つの完全なシステムとして統合された彼らの前に、もはや深層の魔物たちは『ただの処理対象』に過ぎなくなっていた。
「さあ、このままの勢いで一気に深層を駆け下りるわよ! 目指すは第60層、黒死竜の首よ!」
「「「「おうッ!!」」」」
灰の空が晴れ、第52層へと続く階段に光が差し込む。
余裕の足取りで階段を下りる5人の姿は、かつて誰も到達し得なかった迷宮の深淵を攻略する『最強のパーティー』そのものだった。
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