第47話:真の要件定義と、究極の意趣返し(ざまぁ)
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迷宮都市の裏路地にある、薄暗くうらぶれた酒場。
そこは、一流の冒険者たちが集うギルドとは無縁の、夢破れた者たちが安い酒で現実から目を背けるための場所だった。
「……くそっ。どいつもこいつも、私の火力を笑いやがって……!」
賢者ユリウスは、汚れたテーブルに突っ伏しながら、安いエールを呷っていた。
神官を死なせ、前衛のガストンに逃げられた彼に、新しくパーティーを組もうとする者は一人もいなかった。彼の「圧倒的な火力」は、強固な前衛という環境がなければ機能しないと、誰もが知ってしまったからだ。
「相変わらず、自分の価値を『火力だけ』だと思っているのね」
不意に、頭上から凛とした声が降ってきた。
ユリウスが血走った目を上げると、そこには見違えるほど上質な装備に身を包んだミクが立っていた。背後には、ガルド、ルカ、アリアの三人も静かに控えている。
「……ミク……ッ! 何の用だ! 全てを失った私を、笑いに来たのか!」
ユリウスが椅子を蹴立てて立ち上がる。
「自意識過剰よ。……私は、あなたを私のパーティーにスカウトしに来たの」
ミクの言葉に、ユリウスは耳を疑った。
「……は? 私を、お前のパーティーに……? 冗談を言うな! 私はお前を追放したんだぞ!? なぜ、今さら私なんかを……!」
「あなたの『目』と『頭脳』が必要だからよ」
ミクはユリウスの向かいの席に、スッと腰を下ろした。
「戦闘中、刻一刻と変化する戦況をリアルタイムで監視し、即座に最適な判断を下す。……これは本来、戦場全体を俯瞰できる後衛の役目よ。前衛で回避と誘導に専念している私(回避盾)が、片手間で完璧にこなせるタスクじゃないわ」
ミクは真っ直ぐにユリウスの目を見据えた。
「あなたは『賢者』でしょう? 圧倒的な火力ばかりに目が行きがちだけど、誰よりも早く魔力や環境の変化を感知し、戦況を正確に捉える目を持っている。……自己の狭い価値観(ステータス至上主義)にさえ囚われなければ、個々の特性を活かした完璧な指示を出せるはずよ」
ユリウスの瞳孔が、驚きで大きく見開かれた。
自分は彼女を「火力が低い無能」と見下し、切り捨てた。
しかし彼女は、全てを失って落ちぶれた自分を見下すどころか、自分自身すら見失っていた『本当の価値』を正確に評価し、必要だと言っているのだ。
「もちろん、このパーティーのリーダーは私よ。全体の設計と最終決定権は譲らない。……でも、戦場での戦術指揮は、後衛であるあなたに任せたいの」
ミクはテーブルの上に、静かに右手を差し出した。
「私たちのシステムは、あなたが加わることで真の完成を迎える。……時間がかかっても構わない。泥臭いテストを繰り返して、あなたを私たちのパーティーの『戦術指揮官』として完全に組み込んでみせるわ。……どう?」
ユリウスは、差し出されたミクの手と、彼女の揺るぎない瞳を交互に見つめた。
(……ああ。私は、なんて小さく、愚かだったんだ)
圧倒的な火力を誇示し、数字だけで他人を評価していた自分が、ひどく滑稽で、惨めな存在に思えた。
自分は彼女を追放したつもりでいたが、実際は、彼女の果てしなく広い『リーダーとしての器』の足元にも及んでいなかったのだ。
復讐の言葉を浴びせられるよりも。
暴力を振るわれ、嘲笑されるよりも。
自分を不当に扱った相手から、一切の私怨を挟まずに「あなたの本当の能力を認めている」と手を差し伸べられること。
これこそが、賢者としてのプライドを根底からへし折る、完全なる敗北。
彼女からの『究極の意趣返し(ざまぁ)』だった。
「……フッ、ははっ……!」
ユリウスは顔を覆い、自嘲するように、しかし憑き物が落ちたように笑った。
「完敗だ、ミク。……私のような愚か者の本質を、よくもそこまで正確に評価(解析)できたものだ。……ああ、分かった。私の頭脳のすべてを、お前のシステムに捧げよう。戦況の解析も、火力の出力も、すべて私が完璧にこなしてみせる」
ユリウスは、差し出されたミクの手を、震える手で――しかし、確かな「敬意」を持って強く握り返した。
「歓迎するわ、ユリウス。……これから忙しくなるわよ」
ミクが微笑むと、背後の三人も顔を見合わせて小さく笑った。
「おいおいミク、本当にこいつを仕切らせるのか?」
「ええ。でも最初はガタつくでしょうから、徹底的に下層で動作テスト(結合テスト)を繰り返すわよ。……私たちの戦術指揮官の、お手並み拝見ね」
追放された無能な剣士が。
かつて自分を追放した最強の賢者を、その圧倒的な度量で呑み込み、自らのパーティーの中枢として迎え入れた瞬間。
『三律の連環』は、ユリウスという規格外の頭脳と火力を組み込み、ついに迷宮の深淵を打倒するための『完全なる完成形』へと歩みを進めたのだった。
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