第4話:限界突破と、重なり合う軌跡
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「――行くわよ!」
宣言通り、ミクは一切の枷を外した。
迷宮7階層。相対するのは、素早い動きで死角から襲い掛かる「ケイブ・バット」の群れ。
その群れに向かって、ミクはこれまでの倍近いスピードで踏み込んだ。
「えっ……!?」
アリアが息を呑む。魔法の狙いを定めようとした視線の先で、ミクの姿がブレたように見えたのだ。
――シュパパパパッ!!
一瞬の交錯。それだけで、三匹の魔物が切り刻まれて地に落ちる。
ミクは止まらない。着地の反動を利用して壁を蹴り、別の一匹へと肉薄する。
「くそっ、速すぎる……! 『挑発』!!」
ガルドが慌ててスキルを発動するが、ミクの殲滅速度にヘイト管理が追いつかない。ミクが作り出した「敵を誘導する隙」に、アリアの魔法がコンマ数秒遅れて着弾し、空を切る。
「アリア、遅い! ガルド、右からもう二匹来る!」
戦場を駆け抜けながらのミクの声に、二人は必死に食らいつこうと体を動かした。
なんとか全滅させたものの、戦闘が終わった瞬間、ガルドとアリアは床にへたり込んでしまった。
「はぁっ、はぁっ……ぜぇ……っ」
「う、嘘だろ……たった一戦で、肺が破けそうだ……」
滝のように汗を流し、肩で息をする二人。
ミクは水筒を差し出しながら、少し心配そうに眉を下げた。
「大丈夫? やっぱり、急にペースを上げすぎたかも……」
「だ、ダメです……! ハァ……ここでペースを戻したら、意味がありません……!」
アリアが震える足で立ち上がり、ガルドも大盾を杖代わりに身を起こした。
「……ああ。ミク、絶対に手を抜くなよ。俺たちが、絶対にあんたの背中に追いついてみせる」
二人の目には、疲労よりも強い意志の炎が宿っていた。
それからの探索は、ガルドとアリアにとって文字通り地獄だった。
ミクのトップスピードは、常に二人の限界を突きつけてくる。
「ガルド、踏み込みが浅い!」
「ぐぅっ……分かってる!」
ガルドは歯を食いしばり、腕の筋肉が悲鳴を上げるのを無視して大盾を振り回した。ミクの動きを見てから動くのでは遅い。彼女の視線、筋肉の収縮、敵の配置から「次にミクがどこへ敵を誘導するか」を予測しなければならない。
「アリア、詠唱の開始をあと二拍早く!」
「は、はいっ……!」
アリアは息を乱しながらも、必死に魔力を練り上げた。ミクが敵を弾き飛ばすのを待ってから撃つのではない。弾き飛ばされる「未来の位置」へ向かって、あらかじめ魔法を置きに行かなければ、ミクのテンポには間に合わない。
(二人とも、ボロボロじゃない……)
最前線で剣を振るいながら、ミクは二人の消耗具合を正確に把握していた。
だが、ミクは決して足を止めなかった。二人の覚悟に応える唯一の方法は、自分が妥協しないことだと分かっていたからだ。
そして――過酷な実戦の反復は、確実に二人の「経験値」を底上げしていった。
数日後。迷宮の9階層。
現れたのは、上層階では屈指の素早さと殺傷力を誇る「キラー・マンティス」の三匹。
「行くわよ!」
ミクが地を蹴る。トップスピード。一切の手加減なしの神速の踏み込み。
鎌を振り上げる一匹目の懐に潜り込み、その前足を斬り上げる。体勢を崩した魔物を、ミクはそのまま横方向へと蹴り飛ばした。
(――来る!)
ミクが誘導したその空間。
「そこだっ!!」
一切の遅れなく、ガルドが先回りするようにシールドバッシュを叩き込み、キラー・マンティスの息の根を止めた。
「ガルド、ナイス!」
ミクは賞賛を口にしながら、すでに残りの二匹へと標的を変えている。
二匹目がミクの背後を突こうと跳躍した、その瞬間。
「ミクさん、そのまま!!」
アリアの鋭い声。ミクは振り返らず、敵の攻撃を避けるためのステップを踏まなかった。アリアの言葉を、完全に信頼したのだ。
直後、ミクの頬のすぐ横を、圧縮された炎の塊が通り抜ける。
『ファイア・ランス』。
アリアがミクの動きを完全に読み切り、回避不要のタイミングで放った魔法が、背後のキラー・マンティスを空中で撃ち抜いた。
最後の一匹も、ミクの流れるような連撃によって両断される。
「……ふぅ」
剣を振り下ろしたミクが振り返ると、そこには荒い息をつきながらも、しっかりと両足で立っている二人の姿があった。
「ははっ……どうだ、ミク。今日は一回も、尻餅ついてないぜ」
「ええ……! 私たちの魔法と盾、ミクさんの邪魔に、なりませんでしたよね……!」
汗まみれで、疲労困憊のはずなのに、二人の顔は誇らしげな笑顔で輝いていた。
「……うん。完璧だったわ」
ミクもまた、最高の笑顔で頷いた。
もはや、ミクは彼らに手加減などしていない。
『三律の連環』の三つの歯車は、凄まじい回転数の中で、ついに寸分の狂いもなく噛み合い始めたのだ。
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