第17話:酒場の喧騒と、止まらない歯車
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「……おい、嘘だろ。また『トライ・リンク』の名前があるぞ」
冒険者ギルドのクエスト達成掲示板の前で、中堅パーティーのリーダーが目を丸くして声を上げた。
その声に引き寄せられるように、周囲の冒険者たちが次々と掲示板の前に集まってくる。
「本当だ……。迷宮第25層、『装甲トロルの群れ』の討伐クエスト。あれって、推奨ランクB以上の高難易度クエストだろ? それを受注からたった半日で完遂したっていうのか!?」
「あり得ねえ……。20層を超えてからの魔物は、上層の比じゃねえぞ。知能も高けりゃ、装甲も異様に分厚い。普通は前衛が二、三人がかりで抑え込んで、ようやく魔法でジリジリ削るような相手だ」
冒険者たちがどよめく中、酒場の奥の席でジョッキを傾けていたベテランの斥候が、ニヤリと笑って口を開いた。
「俺、今日25層の探索中に、たまたまアイツらの戦闘を遠目から見ちまったんだよ。……お前ら、アイツらを普通のパーティーと同じ定規で測るな。あれはもう、別の生き物だぜ」
「別の生き物って……。あの『水狂い』の魔法使いが、また派手な大魔法でもぶっ放したのか?」
別の冒険者が身を乗り出して尋ねると、斥候は首を横に振った。
「いや、それが合体魔法だかなんだかっていう大技は、一切使ってなかった。ただ……四人の『噛み合い方』が異常なんだよ」
斥候はテーブルの上に置かれた硬貨を四枚並べ、それを指で弾きながら当時の光景を語り始めた。
「まず、タンクのデカブツ……ガルドの大盾が新調されてた。ドワーフの親方が打った特注品らしくてな。装甲トロルの丸太みたいな腕で殴られても、一歩も引かずに完全に攻撃の軌道を殺してやがった」
「そこへ、ルカの水魔法だ。あの野郎、トロルの足元の泥を瞬時に凍らせて機動力を奪うと同時に、アリアの放つ極大の火炎が最も効果的に当たるように、水流で敵の姿勢を強制的に崩しやがる」
「じゃあ、やっぱり魔法使い二人の火力がすげえってことじゃねえか」
「最後まで聞け」
斥候は呆れたように息を吐き、最後の一枚の硬貨を指でトンッと叩いた。
「その隙だらけになったトロルの急所へ、リーダーの女剣士……ミクが突っ込んでいくんだ。あいつの双剣も新しくなってた。前は軽くて弾かれやすかった刃が、今は恐ろしいほど鋭く、そして正確だ。装甲の僅かな隙間、関節の繋ぎ目を、目にも留まらぬ十連撃で完全に解体してやがった」
周囲の冒険者たちは、ゴクリと息を飲んでその情景を想像した。
「一番恐ろしいのは……あいつら、戦闘中にほとんど言葉を交わしてねえんだよ。ミクが前線で敵をかき回し、誘導したその『空間』に、振り返ることもなく、アリアの魔法とルカの支援がコンマ一秒の狂いもなく着弾する。……まるで、四人で一つの精密な機械みたいだったぜ。一切の無駄がない、完璧な殺戮の陣形だ」
「……あの賢者ユリウスが、使えないって追い出した女剣士が、そこまで……」
「ユリウスの『星の導き』は今、深層でかなり苦戦してるって噂だぞ。高火力の前衛を入れても、連携がチグハグで被弾が多いらしい」
「それに比べて、あの『トライ・リンク』の安定感はどうだ。……ひょっとすると、あいつらこのままの勢いで、中層を踏破しちまう気なんじゃないか?」
ギルド内に、羨望と畏怖の入り混じった熱気が充満していく。
「――ふぅ。本日の納品、完了ね」
噂の的となっている四人は、そんな酒場の喧騒などどこ吹く風といった様子で、ギルドの買い取りカウンターから離れた。
「おう、親方の打ってくれた新しい盾、最高だったぜ! トロルの打撃を食らっても、芯まで響かねえんだ!」
ガルドが背負った艶やかな黒鉄の大盾を叩いて豪快に笑う。
「私の新しい杖もすごいです! 魔力の通り道が広くなったみたいで、詠唱から発動までのタイムラグがさらに短くなりました!」
アリアもまた、先端に赤い宝玉が輝く新しい杖を胸に抱きしめて喜んでいた。
「道具が良くなった程度ではしゃぐな。……まあ、私の計算した通りの魔力伝導率を出せていることだけは、評価してやろう」
ルカは相変わらず斜に構えていたが、その表情はどこか満足げだ。彼が纏う新しいローブも、魔力防壁の機能が強化され、より前線に近い位置での支援を可能にしていた。
ミクは腰の真新しい双剣の柄を撫でながら、密かに思考を巡らせた。
(ハードウェア(装備)のアップデートは、見事に成功ね。処理能力が上がったことで、四人の連携がさらに高い次元で噛み合うようになった。……これなら、もっと加速できる)
ミクは振り返り、頼もしい三人の仲間たちを見渡した。
「三人とも、装備の慣らし運転は完璧ね。25層の魔物相手でも、私たちの『標準運用』は完全に通用したわ」
「おう! いつでも全開でいけるぜ!」
「はいっ、私もミクさんの動きに絶対遅れません!」
「さあ、この勢いのまま中層の底まで突き進みましょう。私たちの連携は、まだまだこんなものじゃないわ」
ミクの力強い言葉に、三人が力強く頷く。
装備という新たな翼を得た『三律の連環』。その止まらない歯車は、迷宮のさらに深い闇を切り裂くべく、凄まじい回転を始めていた。
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