第16話:鍛冶屋の再会と、相反する論理(ロジック)
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中ボス『アイアン・ガスト』との激闘を制した『三律の連環』は、傷ついた装備のメンテナンスのため、街でも腕利きと評判の鍛冶屋を訪れていた。
「……ひどい有様だな。中層の門番を相手に、よく盾一枚で耐え抜いたものだ」
店主の頑固そうなドワーフが、ガルドのひしゃげた大盾を検分して鼻を鳴らす。
「へへ、勲章みたいなもんさ。頼むぜ親方、次も俺の命を預ける相棒なんだ」
「分かっている。アリアの杖も魔力回路の洗浄が必要だな。ミク、あんたの双剣も刃毀れがひどい。……中層の深部は、今の装備では『出力不足』になるぞ。この機会に全体的な新調を勧める」
店主の言葉に、ミクは手元の予算表(リソース管理表)を指先でなぞった。
(……中ボス戦の報酬とドロップ品の売却益を合わせれば、全員の装備を一段階上のグレードにアップデートできる。特にルカの合体魔法の負荷に耐えられるよう、アリアの杖は伝導率の高い素材に変えるべきね)
「ええ。全員の装備の最適化をお願いするわ。……ルカ、あなたのローブも防御結界の糸を編み直しておいた方がいいわね」
「フン、妥当な判断だ。私の魔力出力に道具が追いつかないのでは話にならないからな」
そんな四人のやり取りが続く中、店の奥から聞き覚えのある、高く冷徹な声が響いた。
「――店主。頼んでいたガストンの大剣の修繕は終わったか。……あまりに扱いが荒くて、刃に無数の亀裂が入っているはずだが」
四人が一斉に振り返る。そこには、純白の魔導衣を纏い、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた賢者ユリウスが立っていた。
一瞬、店内の空気が凍りつく。
「……ユリウス、さん」
「ミクか」
ユリウスの視線が、ミク、そして彼女を囲む仲間たちへと向けられる。
大盾を預けるガルド、ルカの不遜な立ち姿、そしてミクの腰にある使い込まれた双剣。
「噂は聞いている。どこの馬の骨とも知れない連中を集めて、中層で『お遊び』に興じているらしいな。……あの偏屈なルカまで丸め込むとは、一体どんな手品を使った?」
ユリウスの言葉には、隠しきれない棘と、僅かな焦燥が混じっていた。
「手品なんて使っていないわ。……ただ、それぞれの能力が最大化されるように、パーティーというシステムの構築をやり直しただけよ」
ミクは動じることなく、静かに応えた。その目は、ユリウスの背後に置かれた巨大な大剣――Sランク重戦士ガストンの武器――に向けられていた。
「ユリウスさん。その大剣、亀裂の入り方が不自然だわ。……前衛が一人で無理な負荷を引き受けて、あなたの広域魔法の射線を作るために強引に敵を抑え込んでいる。……そんな運用を続けていたら、どんなに強い武器でもすぐに損壊するわ」
「黙れ。火力の低いお前に、深層の戦法を説かれる筋合いはない」
ユリウスが吐き捨てる。
「我々『星の導き』は、圧倒的な『数値』で迷宮を制する。お前のような低スペックな個体が混じる余地など、最初からなかったのだ」
「数値だけでは測れない『効率』があるわ」
ミクは一歩前に出た。
「今の私のパーティーには、無駄な負荷がかかっているメンバーは一人もいない。ガルドが守り、ルカとアリアが制御し、私が隙を突く。……四人が一つの『回路』として機能しているから、私たちは中ボスを合体魔法すら使わずに突破できた。……今のあなたたちのパーティーに、そんな余裕がある?」
「……何だと?」
中ボスを「切り札」なしで倒した。その事実が、ユリウスのプライドを鋭く抉った。
自分たちが深層で、ガストンの力任せな戦い方と、それに伴うリソース不足に喘いでいる現状を、ミクに透かされているような気がしたのだ。
「……フン、中層の雑魚相手に随分な自信だな。だが忘れるな。迷宮の深淵は、そんな『小細工』が通用するほど甘くはない」
ユリウスはそれだけ言い残すと、店主に金貨を投げつけ、逃げるように店を後にした。
「……ミク。あんな奴の言うこと、気にするなよ」
ガルドが心配そうに声をかけるが、ミクは小さく首を振った。
「いいえ、気にしていないわ。……ただ、あらためて確信しただけ。……あっちのシステムには、もう修正できない致命的なエラー(欠陥)が積み上がっている」
ミクは店主に預けた自分の双剣を見つめた。
かつては「軽すぎる」と言われたその刃。だが今は、最高の仲間たちが作ってくれた隙を確実に仕留める、鋭利な「最適解」へと生まれ変わろうとしている。
「さあ、装備が整ったら、次はいよいよ中層の後半戦ね。……もっと効率よく、もっと深く。私たちのやり方が正しいことを、結果で証明し続けましょう」
新たな装備を纏い、四人の『三律の連環』は、さらなる高みへと向かう準備を静かに整えていった。
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