第14話:中層の門番と、完璧なる事前構築(プレ・ビルド)
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迷宮第20層。中層の中間地点に位置するこの階層は、これまでの石造りの遺跡から一変し、広大な地下空洞となっていた。
「アリア、頭上注意! ストーン・ガーゴイルが二体落ちてくるわ!」
「はいっ! 『火炎放射』!」
「『水散弾』。……アリア、射角が3度ずれている。私の水弾に炎を乗せるように撃て」
「あっ、すみません! 修正します!」
空から急降下してくる石の魔物に対し、ルカとアリアの魔法が空中で交差する。ルカの水弾がガーゴイルの翼を撃ち抜き、そこにアリアの炎が絡みつくことで、飛行能力を完全に奪い取った。
墜落し、体勢を崩したガーゴイルの着地点には、すでにミクが回り込んでいる。
「ふっ……シィッ!」
流れるような双剣の連撃が、関節の隙間を的確に削り落とす。最後は盾を構えて突進してきたガルドのシールドバッシュが、ガーゴイルの頭部を粉砕した。
「よし、殲滅完了! 中層の真ん中まで来たってのに、俺たち、かなり余裕じゃねえか?」
ガルドが大盾の埃を払いながら、豪快に笑う。
実際、彼らの進軍は驚異的なほどにスムーズだった。四人の役割分担が完全に最適化され、無駄なダメージや魔力消費を極限まで抑えられているからだ。
「油断は禁物よ、ガルド。……ほら、見えてきたわ」
ミクが短剣の切っ先で示した先。
地下空洞の最奥に、これまでの扉とは比べ物にならないほど巨大で、禍々しい装飾が施された両開きの石扉がそびえ立っていた。
「第20層のフロアボス……中層の『中ボス』ってやつだな。いっちょ、この勢いのままぶっ飛ばしてやるか!」
ガルドが気合を入れて扉の取っ手に手を伸ばそうとした、その時。
「待て、脳筋の盾持ち」
ルカの冷ややかな声と共に、彼の杖がガルドの腕をピシャリと叩いた。
「い、痛ぇな! なんだよルカ、もたもたしてると勢いが削がれるだろうが!」
「愚か者が。勢いなどという不確定な要素でシステムを回そうとするな。ここは中ボスの部屋だぞ? 未知の強敵を前にして、なんの事前構築もせずに突っ込むなど、三流のやることだ」
ルカは呆れたようにため息をつき、ミクの方を向いた。
「リーダー。君も同意見だろう?」
「ええ、もちろんよ。ルカの言う通り、情報の少ないボス戦において一番重要なのは『事前の環境構築』よ」
ミクの賛同を得て、ルカは満足げに頷き、杖を高く掲げた。
「アリア。まずは君の魔力波長を整えろ。中層のボスともなれば、先ほどのガーゴイルのように装甲が硬いタイプである確率が高い。私の水魔法で冷却した後、君の炎で瞬時に加熱する『熱衝撃』を主軸に回す」
「はいっ! 魔力、いつでも最大出力でいけます!」
「そしてガルド。前へ出ろ」
ルカが杖をガルドの大盾にコツンと当てると、淡い蒼色の光が盾の表面を覆い、薄い水膜のようなものが形成された。
「おおっ!? なんだこれ、盾が少しひんやりするぞ」
「『水壁の加護』だ。物理的な衝撃を水膜が拡散し、君へのダメージを軽減する。……このパーティーの生命線は、君がどれだけ耐えられるかにかかっているからな。せいぜい、無様に吹き飛ばされないことだ」
「へっ、誰に向かって言ってんだ。任せとけっての」
口の悪いルカなりの「頼りにしている」というメッセージに、ガルドもニヤリと笑って盾を構え直した。
最後に、ルカはミクを見た。
「回避盾。私とアリアの合体魔法『水蒸気爆発』の充填は、いつでも開始できるが?」
強力なボス相手なら、初手から最大の切り札を切るべきか。ルカの問いに対し、ミクは冷静に首を横に振った。
「却下よ。合体魔法はまだ封印したままにするわ」
「……ほう? 理由は?」
「リスクとリターンの計算よ。合体魔法は強力だけど、二人の魔力を一気に消費するし、もし敵に回避の能力があった場合、外した時の隙が大きすぎる。今の私たちの『標準の連携』なら、あの切り札を切らずとも、中ボス程度なら確実に圧倒できるスペックがあるわ」
ミクの揺るぎない自信。
それは決して過信ではなく、これまでの道程で積み上げてきた「四人のシステム」に対する絶対的な信頼だった。
「ふん……。自分のパーティーの完成度に、随分と自信があるようだな」
ルカは面白そうに口角を吊り上げ、アリアとガルドも力強く頷いた。
「準備は完璧ね。魔法の付与も完了。陣形は基本の『制圧シフト』でいくわよ」
ミクが双剣を抜き放ち、静かに息を吐く。
「さあ、開けるわよ」
研ぎ澄まされた四つの刃は、未知なる中ボスを解体する準備を完全に整え、ゆっくりと巨大な石扉を押し開けていった。
――(次回、中ボス戦へ続く)
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