第106話:仕様変更への気づき(ロールバック)と、通常陣形による高速クリア
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【真・ダンジョン 第一階層・アース・エリア(第5ループ)】
「行くわよ!! 中央は魔法組! 物理組は撃ち漏らしを確実に――」
第5ループ(1.9倍環境)の荒野で、超高速のストーム・ウルフの群れを迎え撃つべく、いつものように『亀の陣形(コンテナ構成)』の指示を出しかけたミク。
だが、その言葉は途中でピタリと止まった。
(……ちょっと待って。なんで私たち、亀のように固まっているの?)
ミクは、自分の足元を見下ろした。
以前、第3ループ(1.5倍)で陣形が崩壊しかけた時、ミクの足は「鉛のように重く、地面に縫い付けられたように動かなかった」からこそ、機動力を完全に捨てる静的防衛(亀の陣形)という苦肉の策を採用したのだ。
しかし、今はどうだ。
限界突破の特訓(3.0倍の極圧環境)を経てきたミクの脚力にとって、現在の1.9倍の重力など、ただの『少し重めの服を着ている程度』の負荷でしかなかった。
「……気づくのが遅すぎたわ。PMとして完全に視野狭窄に陥っていたわね」
ミクはクスリと笑い、低く構えていた双剣をスッと横に開いた。
「みんな!! 指示を修正するわ! 亀の陣形は解除! 私たちはもう、重力に怯えて固まっている必要なんてどこにもないのよ!!」
「えっ……?」
ガストンが大盾の裏で目を白黒させる。
「陣形をロールバック(初期状態へ回帰)するわ!! 私が前衛で遊撃に回る! ガストンはヴァレリア(フロントエンド)を護って! ガルドは魔法組を護りなさい! いつもの『通常の陣形』で暴れ回るわよ!!」
ミクのその言葉に、七人全員の脳内に雷のような「気づき」が走った。
そうだ。動けないから固定砲台になっていただけで、動ける(オーバースペックになった)のなら、わざわざ的を絞らせるような密集陣形を組む必要など全くないのだ。
「ガハハハハッ!! 違いねえ!! アタシら、普通に走れるじゃねえか!!」
ヴァレリアが歓喜の咆哮を上げ、大斧を片手に荒野へと飛び出した。
「おうよォ!! 俺たちの真の連携を見せてやるぜ!!」
ガストンもまた、重力で固定するだけの盾を捨て、機動力を生かしたシールド・バッシュの構えへとシームレスに移行する。
最強の七人が、最も得意とする『基本陣形』へと展開した瞬間だった。
『ギャルルルルッ!!』
ストーム・ウルフたちが、陣形がばらけた隙を突こうと一斉に飛びかかってくる。
だが――。
「遅いわ(クロック数が足りないわ)!!」
ヒュンッ!!
ミクが荒野の土を蹴り、ウルフたちの突撃軌道の中央へと、瞬きする間もなく「高速移動」で割り込んだ。
1.9倍の重力下でありながら、そのスピードは完全に元のミクの敏捷性を取り戻している。いや、重力に逆らって踏み込む分、一つ一つのステップに込められた反発力は以前よりも遥かに鋭く、力強かった。
「こっちよ! 私を追いなさい!!」
ミクが双剣を振るい、金属音を鳴らしてヘイト(トラフィック)を完璧にコントロールする。
ウルフたちはミクの異常なスピードに翻弄され、完全に的を絞れず右往左往し始めた。
「完璧な誘導だ! 行くぜ、ヴァレリア!!」
「ガハハッ! 貰ったァァッ!!」
ミクが綺麗に一つにまとめた敵の群れ(パケットの塊)へ向けて、ガストンの突進とヴァレリアの大斧が叩き込まれる。
無理に上から下へ振り下ろして「重力を乗せる」ことばかり考える必要もない。普通に横薙ぎに大斧を振るうだけで、2.5倍環境で鍛え上げられたヴァレリアの筋力が、ウルフの群れを荒野の土ごとまとめて薙ぎ払っていく。
「ルカ、防壁は前面だけでいい! ユリウス、アリア、掃討戦よ!」
「了解だ! 『紫電の連雷』!!」
「『焦熱の火球』!!」
ガルドの強固な大盾に守られた後衛陣も、ミクが前線で暴れ回り敵の足を止めてくれているおかげで、圧倒的に安全な環境から「正確に的を絞った」魔法攻撃を連射することができた。
亀の陣形の時のように、盲目的に周囲を絨毯爆撃して無駄な魔力を消費する必要もない。極めて高効率で、エコな殲滅プロセス。
「ハァッ!!」
最後の一匹が、ミクの超速の双剣によって十文字に切り裂かれ、光の粒子となって消滅する。
『――Wave 7/7 Cleared. アース・エリア、第5ループの処理を完全終了しました』
「ふぅ……! 終わったわね!」
ミクが双剣をクルリと回して鞘に収め、晴れやかな笑顔で振り返る。
「あっという間だったな……! やっぱり、自由に動ける(通常陣形で戦える)ってのは最高に気持ちがいいぜ!!」
ガストンが汗を拭いながら、ガハハと豪快に笑う。
第3ループであれほど彼らを苦しめ、全滅寸前まで追い込んだ「重力による機動力の消失」。しかし、己の肉体というハードウェアを極限までアップグレードした彼らにとって、第5ループの1.9倍環境は、もはや何の障害にもならなかった。
「この調子なら、サクサク進めそうね。私たちの基礎スペックは、2.3倍から2.5倍までは完全に保証(動作確認)されているんだから!」
ミクの言葉に、全員が力強く頷く。
本来ならば一つループを進むごとに死闘を繰り広げ、絶望的な重力に苦しむはずのアース・エリア。
しかし、トレーニングルームという開発環境で「先の仕様(2.5倍〜3.0倍)」までをすでにカンストさせてしまった『三律の連環』にとって、ここから先はただの「答え合わせ(消化試合)」。
「さあ、遅れた進捗を取り戻すわよ! 次の階層へデプロイ!!」
彼らはもはや這う這うの体でロビーへ排出されることもなく。
圧倒的な余裕と、通常陣形という本来の美しく完璧なアーキテクチャを取り戻した七人は、第6ループ、第7ループと、驚異的な処理速度で真・ダンジョンの大地を駆け抜け始めるのであった。
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