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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第六十一話 あと少し

 

 銃を突き付けられたシムラは、ゆっくりと手を上げて、それでも不敵に笑う。


「君がここにいる理由がわからない。ぼくに銃を突きつける理由も。“トロッコマン”、っていう名も……君程度が調べられるとは思わなかった」


「俺が運び屋をやる理由は娘を探すためだ。そのために偶々だったが、良い情報屋と手を組めてな。大陸横断なんてきな臭い依頼だ、そいつに頼んでそれなりに調べさせてもらったんだ」


 バンジャックが懐から取り出すのは、一枚の紙だ。

 その情報屋から入手した第二支部(セカンド)についての、ひいてはシムラについてのことが記載してある。


第二支部(セカンド)のガキ共が八歳だった時は、さすがに驚かされたが……何よりお前、トロッコマンの経歴にも驚かされた。元々は教会じゃなくて魔術学校の出、らしいな」


「それに何か問題が? わざわざ君が銃を取り出してぼくを牽制するほどの理由になるとは……」


「問題はそこで出会った女性だよ。現在は死亡している、お前の元妻だ」


 バンジャックの言葉にシムラは固まった。

 余裕を感じさせていた笑みも消えた。


「学院で出会った女と二年の交際を経て、子どもができた。二人で奥さんの実家に帰った。子育てをするためにだ。子供は無事に産まれ、すくすく育った。だが、五歳になった頃、悲劇が起きた」


「やめろ……」


「悪魔に故郷が襲われ、偶々出稼ぎに町に出ていた君を残して全滅。無論、妻も子供も死んでいた」


「やめろ!!」


 淡々と事実のみを述べていくバンジャックに初めてシムラが感情を表した。

 その様子を見ても尚、バンジャックの優位性は変わらない。


「お前は悲しみに暮れた。そりゃそうだ。幸せの日々が悪魔によって一瞬で奪われたんだ。俺だってそうなる。だが、お前の悲しみは──そこじゃなかった。娘が死んだこと自体はどうでも良かったんだろ?」


「何を……」


「魔力適性S。そこまで言った方がいいか」


 バンジャックの言葉にシムラは強く反応した。

 目を開き、信じられないものを見るかのように。


「お前の奥さんも魔力適性がSだったようだな。しかし、奥さんには魔力がなかった。適性Sとは、何かしら特別な能力を持っている場合が多い素体のことだ。魔術なら使える魔術の数が増えたり、威力が上がったりだな。その点、お前の奥さんは宝の持ち腐れだったわけだ。だがそれをお前は見逃さなかった」


 シムラの拳に力が入る。

 バンジャックの推測が当たっていることを示していた。


「子供を作り喜んだことだろう。お前と奥さんでは喜んだ、そのベクトルが違ったかもしれないがな。適性S、だったんだろ? その子供も」


「……それがどうした」


「簡単さ。お前は実験体を失ったことが悲しかった。だから死者をキメラ化して動かす研究をしたんだな。お前の娘を、自分の実験にまた使うために」


「黙れ!!!」


 家族に不幸があった。

 そんな過去を掘り返されれば誰だって声を荒げる。

 それも、その不幸は純粋はものではないと蔑まれれば尚更感情も高い波を上げるはずだ。


 だからその時、シムラが声を上げるのは妥当だったが。

 叫んだのはシムラではなくリオだった。


「先生のことをろくに知りもしない貴方が、ペラペラと語るな!!」


「お前……」


 バンジャックからすれば、リオもまた被害者の一人だ。

 娘を甦らせるために、キメラ化の実験台にされたというのになぜそこまでシムラを庇えるのか。

 自分の推測がもしかすれば間違っているのかもしれない。


 そんな思考になり始めたところで、


「運び屋君、君は第三の手を知ってるかい?」


 シムラはそんなことを聞いた。


「何を──」


 直後。

 真横から全身を殴るような衝撃に、バンジャックの身体が吹き飛んだ。

 防御の魔術などないバンジャックはそのまま軽々と研究所の壁にめり込んで、銃を手放した。


「か……一体……何が」


 常人であれば死んでもおかしくない一撃だ。

 それを受けても尚、吐血と全身の打撲で済んでいるのは恐らく、バンジャックの身体が頑丈だったというわけではなく、シムラの手心が理由だろう。

 吹き飛ばした張本人シムラは、くつくつと笑いながら血液を注入する準備を進めている。


「君に邪魔などされるわけにはいかないんだよ。これは……人類のためになさなければならないことだ」


 既に彼を邪魔するものなどいない。

 バンジャックは全身の痛みで起き上がることもできないし、ケンもリオの一撃により気絶している。

 彼の計画を止める者はもう誰も──。


 とその時だ。


「ケン!!!!」


 研究所の壁をぶち破り、侵入してくるは巨大な岩巨人(ゴーレム)

 その姿は従来のゴーレムのそれではなく、鎧のような姿をした、異質なもの。

 正しく、カリストが装着した原始巨岩装甲アーマード・アダムコアだった。


「な、なんだアレは……リオ!」


 その存在に驚きつつもシムラは冷静に対応する。

 命令を受けたリオは即座に跳躍し、その黄金に輝く拳をアダムコアの顔面へと振り抜いた。

 だが──


「な」


「邪魔よ!!」


 ヒビすら入らないその装甲。

 兜から覗く赤い瞳が、怪しく光る。

 リオが退避するより先に迫るアダムコアの拳がリオの身体を見事に捉え、そのまま彼方に吹き飛ばす。

 その破壊力にリオは受け流すことが出来ず、リオもまた苦悶の表情を見せた。


「ケン……おじさんも。なら、私が!」


 倒れるバンジャックとケンを一瞥し、状況を即座に理解したカリストは、その背中に格納された杖先をカプセルへと向ける。

 凝縮された魔力が破壊の炎を作り出し、カプセルの中にいる少女諸共破壊する一撃を用意する。


幼炎龍(エンペドクレス)──」


「させるか!!」


 シムラの言葉の直後、リオの攻撃ですら耐えてみせたアダムコアの巨体が横からの衝撃に身体を浮かせた。


「──な、なによ!?」


 バンジャックを一撃で昏倒させた攻撃にアダムコアは余裕で耐えてみせるが、得体の知れないものであることに変わりはない。

 杖を再び格納し、拳を振るが空を切るだけだ。

 視認することのできない不可視の攻撃に、カリストは戸惑う。


 その隙を、リオは逃さなかった。


虎牙王拳(こがおうけん)!!」


 アダムコアの胸部に突き刺さる黄金の拳。

 充分な助走と貯められた力は強靭なゴーレムの胸を粉砕するに至った。


 交差する視線。

 忌々し気に睨むカリストに、自身の実力が数字持ちに匹敵することに歓喜するリオ。


 中から露出するカリストは心臓の役目だ。

 弱点を露出する形にはなったが、まだ負けたわけではない。

 すぐさま右腕でリオを薙ぎ払い、応戦する。


「邪魔するな!!」


「それはこちらの台詞だ!!」


 アダムコアとリオの激戦が始まる。

 その最中シムラは一人、実験の最終段階へと進んでいく。


 カプセルを前に恍惚な表情を浮かべ、手元の装置を操作していく。


「あと少し……あと少しだよ」


 そんな中──ケンは。

 まだ目を覚まさない。


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非ご協力よろしくお願いいたします。

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