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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第五十九話 原初の一撃

 

 原始巨岩機甲アーマード・アダムコアの振り上げられた拳には、青いオーラめいたものがまとわりついていた。

 見慣れないその拳の力にアッコロは既視感を覚えた。


 それはまるで(かえで)らが使っている気術のようで──。


「俺に接近戦で挑もうとは、石ころ如きが生意気であ!!」


「ま、まちなさ──」


 ベアはより激しい戦いを求める漢だ。

 更に肉弾戦においては第二支部(セカンド)内でも最強のプライドを持っている。



 あの(かえで)であっても、刀なしでベアと対峙することは不可能であり、その事実がベアの実力を証明すると共に、彼の絶対的な自信にも繋がっていた。

 だからこそ、まるで自分達と戦うためにあつらえられたようなその岩巨人(ゴーレム)の姿に、強い憤りを覚えていた。


 岩巨人(ゴーレム)の認識は、一様に雑魚を蹴散らすようの使い魔、或いは雑用を任せる自立型人形である。

 故に魔人との戦闘の際に岩巨人(ゴーレム)を使う者などいなければ、上位の土魔術にも岩巨人(ゴーレム)の種類は記録にない。


 端的にベアは舐められたと感じたのだ。

 だからこそ立ち向かう。

 例え自分より巨大な敵であったとしても、軽々粉砕できる自信があったから。


熊筋肉太腕(マッスル・ベアアーム)!」


 魔術により太い腕が更に肥大化する。

 ただでさえ岩巨人(ゴーレム)の両腕を砕き割るだけの力が強化されたならば、腕を振り回すだけで常人ならミンチになる破壊力を持つだろう。


 アダムコアの拳が眼前に迫る中、破壊の力を十全に有したベアの腕が迎え撃ち、そして。


 ─────アッコロの懸念は的中した。


 ベアの強化された腕をものともせず弾き飛ばし、アダムコアの拳はベアの頬を撃ち貫く。

 更にその瞬間、


偽・原初の衝撃プロト・アダム・ショック


 アダムコアを覆っていた強大な魔力が衝撃へと変換され、ベアの身体を吹き飛ばす。

 三メートルある巨体が軽々と宙を舞い、地面を舐める。


 その様子を宙で離脱したアッコロは目の当たりにして唾を飲む。


「ベアがこんないとも簡単に……」


 アッコロはベアと十年の付き合いがある。

 しかし、その長い月日の中でも、ベアが宙を舞う事態などそうみる光景ではない。


 走る戦慄。

 しかし、アッコロには先生の実験を邪魔させないという使命が、


幼炎龍の(エンペドクレス)


 だが、そのアッコロの決意を踏み(にじ)るように、アダムコアは詠唱を始める。

 背中に取り付けられたカリストの杖、それが肩に乗り、まるで大砲代わりにしているかのよう。

 その先には既に術式が展開され、


慟哭(サラマンロア)


 短い言葉を引き金に、炎の光線が発射される。

 一度触れれば摂氏二千度の超高温がいとも容易く骨まで溶かし、死にいたらしめるであろう第七階位術式の御業。

 そんな高度な術式に対応できる術など、アッコロは持ち合わせているわけもない。


 だが、ここで引けば背後のベアがまともに喰らってお陀仏間違いなし。

 ならば──


八の流し手(オクト・アヴォイド)!!」


 アッコロは真っ向から受け止める。

 八本の腕に魔力を全て流し込み、全力で熱線の分散に努める。

 しかし、その火力を完全に流し切ることができるはずもない。


「ぁあっ!?」

「あ、アッコロ!?」


 流しきれないダメージの全ては、真正面から受けるアッコロのものだ。

 ベアにだけはこのダメージをとどかせてはいけない。

 その一心でアッコロは熱線を弾く。


 まるで終末兵器とかしたアダムコアの容赦ない攻撃は僅か数秒だった。

 だが、その一分に満たない攻撃でアッコロは静かに倒れた。


「アッコロぉぉぉっっ!!!」


 ベアは吠えた。

 服は焼け落ち、肌のところどころは火傷の跡が出来てしまっている。

 その惨状は危うくアッコロの命を奪いかねない事態だったのだと、理解して、


「許さねェェェェェッッ!!!」


 激昂するベアは懐から取り出した注射を首に刺す。

 すると毛並みは赤へと変化して、身体も更に巨大化。

 走るだけで岩盤を砕くバーサーカーと化した。

 大地を駆ける姿は、破壊という文字が熊の姿を成したかのよう。

 誰が見ても代償ありきの力を振るうベアに、カリストはアダムコアの中で小さく首を振った。


 そして、


「死ねェェェェェェッッ!!」


 ベアの正真正銘の突進の対処は、アダムコアが片手を突き出すだけに終わった。

 ベアの頭蓋を難なく掴み、突進の勢いはアダムコアで完全に消失する。

 肉と骨がひん曲がるような音と共に、アダムコアの剛腕はベアを振り上げ、そのまま遠くに投げ捨てる。


「な……であ?」


 何が起きたかわからない。

 というように、地面に墜落したベアは目を丸くする。

 まさか1日のうちに、二度も投げられる日が来るとはベアも思わなかった。


 そんなベアに歩み寄りながら、カリストは言った。


「“あんたが飽きるまで相手してあげるわ。文字通り、飽きるまでね”」


 本当なら早くケンを助けに行きたい。

 だが、この場でアッコロとベアを確実に戦闘不能にすることの方がカリストは大事に思えた。


(ケン……頑張ってね)


 カリストの健気な思いは届くのか。

 届かなくても良いか。

 カリストはただ、目の前の敵を処理するのみだ。


 —


「いつまでそうやって演技をしているつもりだ? そこもと」


 身体中の痛みが、脳髄に語りかける。

 もう戦わないでくれ。

 もう立たないでくれ。

 お願いだから、もう痛いのは嫌なんだ、と。


 多くの人間が概ね同意するだろう。

 痛みとは、人間が持つ原初の防衛反応だ。

 痛みがなければ、自身の身体の危険もわからないし、痛みがなければ他者に共感することもできない。

 だからこそ痛みは大事なのだ。


「最強の名を欲しいままにした割には、手応えがまるでない。拙者が伝え聞いた、“白骸(しろむくろ)”の伝説は、一騎当千、ありとあらゆる傷を治し、白き剣を持って戦場を蹂躙する白い死神……と」


 だからこそ、彼女は(・・・)それを捨てた。

 その代わりに再生機能を上げたのだ。

 危険の知らせという、痛みの役割を捨てさせるために。


 それにより徐々に彼女の痛みは消えていった。

 今では身体が何か叫んでいるような感覚はするが、どうせその声も怪我をすれば消えていく。

 その繰り返しをするだけで、身体の訴えなど消失するのだ。

 自分自身の再生の力によって。


「それがこのザマ……正直信じられぬ。なぁ──一番目(ウーヌス)


 (かえで)の視線の先、研究所の通路に切り刻まれた斬撃の跡。

 そこに沈む、四肢を欠損させた桃髪の美少女が一人、血溜まりに浮かんでいた。

 白目を剥いて、心臓の鼓動も止まっていてもおかしくない死体っぷり。

 だが、この彼女に至ってはそれはない。

 彼女の力とは即ち。


「いい加減にしないか!」


「あらぁ、怒りすぎじゃないぃ?」


 死なないこと(・・・・・)、なのだから。

 (かえで)が放つ斬撃を、腰を曲げて跳ねることによって回避する一番目(ウーヌス)

 回復するとはいえ、怪我はしない方が良いに決まっている。

 無駄な力を消費しないにこしたことはないのだ。


 跳ねた先で、四肢を瞬時に生やして調子を確かめる一番目(ウーヌス)

 その様子が腹立たしいのか、(かえで)の口元は歪んでいた。


「真面目にやらぬか!」


「大真面目よぉ? ただ思ったより目的地が遠くてぇ」


「拙者との死合いに集中しておらぬでは無いか! 真剣に立ち会え! それが強者の勤めであろう!?」


「違うわぁ。私たちの勤めはぁ」


 刀を振り、切先を向ける(かえで)の言葉は充分共感出来るし、理解もしていた。

 第二支部(セカンド)は基本閉塞的な支部であり、子供の補充が行わなければ出ていくこともない。

 交流をほぼしてこなかった第二支部(セカンド)の中で最も強い実力者なのであれば、その力が通用するのか試したい。

 その気持ちは分かるが──履き違えている。


「悪魔を殺すことよ」


「ッ……」


 確固たる意志を持って告げる一番目(ウーヌス)の圧に、(かえで)は一歩下がった。

 だがその怖気を歯噛みして、再び構える。


「だからこそ先生は勇者を産み、世界の救済を願っているのだ。それを邪魔するそこもとらは──悪魔も同然だろう」


「言ってくれるわぁ」


 (かえで)の構えに合わせて、一番目(ウーヌス)もまた構えた。

 片手を前に、身を半分横に。

 正中線を正面から隠した、急所を守るとある武術の構えだ。

 パイドラから教わった内容は気術のことのみだったが、彼女の動きを見て覚えた。


(ワンコ君、大丈夫かしらぁ)


 一瞬の心配。

 だがすぐ眼前の敵に視線を戻す。

 集中していないわけではなかったが、片手間に倒せるほど、第二支部(セカンド)最強は楽な相手ではないのだ。

 刀に込められた紅葉色の気力と指先に込められた桃色の気力がぶつかり合う。


「だから拙者から目を離すな!!!」


 気力は感情と共に膨れ上がり、一番目(ウーヌス)を彼方へ吹き飛ばす。

 気術の技量は相手の方が上だ。

 この状態で勝ち星を上げるには、当初の一番目(ウーヌス)の予定を完遂が必至────。


「ワンコ君。私が行くまで負けちゃダメよぉ」


 気配からすればもうシムラの部屋にはついているのだろう。

 問題はあのリオに打ち勝てるのかどうか。

 一番目(ウーヌス)の見立てでは、最初リオこそ第二支部(セカンド)で最も強い男と考えていた。


 勿論それはリーダーシップを張っていたから、というのも多分にあるが、それ以上に────リオから発せられる黄金の気が尋常じゃない質と量だったからである。


 どうか死なないで。

 その願いはどこか夫の帰りを待つ妻と子のような純愛に似ていたが、一番目(ウーヌス)はそのことに気づくのはだいぶ後の話だった。


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非ご協力よろしくお願いいたします。

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