#ふたりはVライバー
大会へ向けた練習期間。
それはどれだけ長期的に取ろうとも、体感的には短く、常に足りないと言い続けるものだろう。
天Vオーバードール杯に向け、夜斗と八重咲のP.S代表ペアもかなりの練習を積んでいる。
しかし不安要素は多い。
このゲームは二対二のチーム戦のため、個人技だけでなく編成も重要になってくる。
単に強いキャラを使えばいいと言うわけでなく、プレイヤーとの相性、キャラ同士の相性も考えなければならない。
一応、一ゲームごとにキャラを変えてもいいが、今回のタイトルはまだ出たばかりの新作ゲームであり、準備期間も決して長い訳ではない。
複数キャラをやり込める時間はほぼ無いと言っていい。
さらに言うなら、他の参加者に関しては上級者によるコーチングも行われている。
アウェイというほど敵対的な環境ではないが、少なくとも開始前の時点では明らかに不利を背負っている。
まぁ不利になった理由がそもそもコーチングを断った夜斗にあるからな。
勝手にやれという他ない。
むしろ問題なのは俺の方だ。
「なんでチームメイトがお前なんだよ……」
「アタシがメインだもん〜しょうがないじゃん〜」
忘れてはならないところだが、天VはあくまでもVTuberによるゲーム大会だ。
もしもVTuberではないストリーマーやゲーマーを参加させるのであれば、レギュレーションを変える必要がある。
そしてVTuber以外も参加可能とした時点で、天V自体の必要価値が大きく下がってしまう。
当然、VTuberではない俺が出るのも本来はNGだ。
エリカは全然出ていいとか言ってたが、俺から断っている。
そのため、今回に限る特別措置で大会へ関与することが決まった。
有り体に言えば、乱入である。
天下一V闘会オーバードール杯。
この大会が開始してから、約二時間が経過した。
一試合は3分程だが、二本先取のルールである以上、作戦タイムも交えればこれくらいにはなる。
全15組のトーナメント、その一回戦が全て終わり、シードを含めた8組が二回戦へと進んだ。
夜斗達も勝ち進んでいるようだ。
「ようやく儂らの試合じゃのう!」
「今回はシードだったからな!」
コメント:エリカ様待ってました
コメント:ラスボスは遅れてやってくる
コメント:また優勝してくれ
コメント:最強の出番か
コメント:ロキくんもガンバ
コメント:リカロキ倒せるチームいるのか
蛇王エリカのペアが、バトル用のルームへ参加する。
エリカの相方も運営側のプレイヤーらしい。ロキ、だったか?
前に姉御と一緒にエキシビションをしていた気もする。
知らんけど。
大会全体を通して、蛇王エリカはヒール役に徹しているようだ。
自分の強さへの自信と、参加した他のライバーへの配慮からだろう。
「よし、儂らは準備できたぞ」
「リカ姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜!!!」
「サクラかの?」
「兄者連れて来たよ〜!はい、兄者ど〜ん!!!」
「どうも」
「ほう、よく来たのう」
コメント:兄者キタァァァ!!!
コメント:え!?兄者!?
コメント:飛び入り参加!?
コメント:まじ!?
コメント:魔王襲来!
コメント:ラスボス増えたw
コメント:え、マジで本戦参加あるの!?
コメント:考察当たってね?
こちらの画面にも出しているが、コメント欄はかなり騒がしく加速している。
今回は俺にとっては珍しく、事前に台本を貰っている。
流石にちゃんとしたところの運営だわ。
ほんとP.Sとは大違いだぜ。
愚妹と俺の乱入はまんまシナリオ通りであり、予定調和で進んでいる。
少し前から公開されているこの大会のトーナメント表。
そこにある不自然なスペースから、何かあるのではと一部で考察が増えた。
時を同じくしてエリカとP.Sのコラボが増えた事もあり、ファンの間では『兄者の大会参加』がまことしやかに囁かれていた。
このファンはあくまでもVTuberを見てるやつらの総称な。
俺にそんな厄介ファンはいない、と信じたい。
ダントツで厄介な後輩系VTuberの顔は忘れることにする。
「愚妹のついでにな」
「確かに声はかけていたがのう。お主も参加したいんじゃな?」
「いや全然。そもそも俺VTuberじゃねぇし、レギュレーション違反だわ」
「え、兄者〜やんないの〜?」
「本戦には出ねぇ」
「なら、何が目的じゃ」
「運営側のチームが無条件シードってのも体裁が悪いだろ」
「だとしたらどうするんじゃ?」
「俺らに負けたら、次の試合は一本ハンデってのはどうだ?」
この大会は二本先取。
一ゲーム目で負けても二連勝すれば取り返す事ができる。
逆に言えば、一本を取られた時点で後がない。
この一本のハンデは、戦績以上に精神的負担が大きい。
「儂らが負けても、二回戦には進めるということじゃな」
「ああ。まぁ勝っても特にボーナスはないんだがな」
「もちろん負けるつもりはないがのう。その提案をするということは、儂らに勝つ自信があると言うことじゃろう」
「リカ姉ぇ〜やる〜?」
「やってやろうかの。ロキもよいじゃろ?」
「エリカは断っても聞かねぇじゃん」
コメント:うおおおおおお!
コメント:リカロキvs春風兄妹!
コメント:熱すぎる!
コメント:事実上の決勝戦
コメント:てか姫は強いのか?
コメント:最高のエキシビションキタァァァ
コメント:これ本戦にしろよ!
本戦にしたら、俺がVTuberになるかジャッジキルで退場かの二択だっつの。
愚妹の乱入から俺が条件を出してエリカが受け入れる。
ここまでが乱入イベントのシナリオであり、台本通りだ。
そしてここからは、その台本がない。
こと試合においては真剣勝負。本気で勝ちに来いと、エリカからの要求はそれだけだった。
今なら分かる。
こんな回りくどい準備までして俺を大会に関与させたのは、全力で勝負がしたいから。
どうやら夜斗の予想は当たっていたらしい。
ゲーマーなら強者と戦いたい。
……だとしたら、なんで相方が愚妹なんだよ。
俺だけ参加した瞬間から罰ゲームっつーか、常に超ハンデ戦じゃねぇか。
一難が去る前に食い気味でまた一難来ちゃうの、ぶっちゃけありえないっての。
俺も準備を終えて、試合用のルームに入った。
このルームは敵チームの音声は入らないようになっている。
といっても、ただお互いミュートにしてるだけだが。
「本戦じゃなくてもやるからには本気とは言ったがな……」
「兄者〜作戦ある〜?」
「お前に作戦を全うできる腕はないだろ」
「アタシもそこそこ練習したじゃん〜」
「相手もVTuberとはいえ、大会に向けて練習してるような奴らだぞ」
「ま〜大丈夫でしょ〜」
ため息混じりに、準備完了のボタンを押す。
マッチング画面を通過し、いよいよ試合が始まる。
向こうの編成は、高コストと低コストの両方が万能型。
エリカは後衛だな。
対するこちらは俺が射撃型、愚妹には低コスト格闘機を使わせている。
愚妹のキャラは、低コストの中でも特にコストが低く、通常は三回落ちたら負けるこのゲームで、四回目まで残機が残るタイプだ。
まぁチームコストだから、俺が一回でも落ちたらその時点で負けだが。
ルールは本戦と変わらず二本先取。
できれば一本目を取って優位に進めたい。
「とりあえず、エリカは俺が相手する」
「アタシはロキくんの方ね〜」
「まぁボコされると思うが、できるだけ粘れ」
「は〜?勝つし〜」
コメント:姫の動きヤバw
コメント:止まらねぇw
コメント:双剣っ子は当たれば強い
コメント:冷静に迎撃されてるな
コメント:兄者と蛇王様の体力減らねぇw
コメント:兄者の援護が光る!
エリカのやつ、やっぱり堅いな。
真面目にやるだけじゃ倒せる気がしねぇ。
射撃キャラの弱点を突いてくるし、こっちの得意な動きにも対応してくる。
手札がバレてるって感じだ。
愚妹が無理矢理食らいついてロキの方を減らしているが、それと同じくらいの速度で愚妹もやられてる。
俺の援護はエリカにタイマンで止められて、いつも通りにはいかない。
そして後半からは、愚妹がロキに追い付けなくなっていった。
「ね〜!全然攻撃届かない〜!」
「相手は高コストだからな。逃げに徹してたらスペック差で追いつけねぇよ」
「これどうすんの〜!」
「セオリーならエリカを落としたいが」
「兄者どう〜?」
「普通にやったら無理だな」
「どうすんのこれ〜!」
コメント:これは兄者厳しいか
コメント:姫がもうもたん!
コメント:間に合え間に合え!
コメント:ジリ貧だ〜
コメント:まずはリカロキ一勝か
コメント:姫がんばった
まずは一敗か。
まぁ実際頑張ってはいる。
思ったより粘ってるし、ダメージも与えてはいる。
常に博打みたいな攻撃をし続けてるからな。
当たった時のリターンでどうにか食らいついていた。
ただし、逃げに回られたらそれもできない。
次はさらに対策されることだろう。
「ね〜くやしい〜」
「そうだな。こりゃ厳しいわ」
「……兄者〜?勝てそ〜?」
「どうだろうな。まぁこっちが負けても大会進行に影響はないんだが」
「わ〜諦めてるじゃん〜」
「別に諦めてはねぇよ。やるからには本気だ」
「じゃあ勝てるんだよね〜?」
「それはやってみないとなんとも」
「ならさ兄者〜本気で勝ちに行こ〜?」
「…………」
やるからには本気でやる。その言葉に嘘はない。
エリカは手加減できる相手じゃないし、する気もない。
さっきのセットも手を抜いてはいなかった。
本気でやっている。
それでも負けた。
なら、勝つためには──。
「──そうだな。勝ちに行くか」
「おっけ〜!」
一戦目の敗因は、エリカを削れなかったこと。
愚妹とロキはそこまでこのゲームの練度が高くない以上、良く見積もって五分、順当に見ても愚妹が微不利程度だろう。
だから二戦目は、俺がエリカを落としに行く。
コメント:兄者つよ!
コメント:なんで射撃機がガン攻めw
コメント:リカ様減って来たな
コメント:てかなんで兄者格闘振ってんだよw
コメント:スナイパーが蹴り入れてるw
コメント:なぜその択が通るw
普通、射撃機は後衛だ。
しかしあえてエリカに近距離戦を挑んで、無理やり体力を減らしている。
低コストが落ちそうになると、高コストは助けに来ようとする。
それを追う愚妹が攻撃を当てれば、さらにダメージで差がつく。
結果、相手は想定以上の被弾をする事になる。
「おおお〜いい感じだ〜!」
「ってそれ俺だわ、味方に弾撃つな」
「あ、ごめん〜」
「だいぶ優勢だからいいが」
「うおおおおおお〜!あ……」
「あ、じゃねぇよ、乱戦だからって俺ごと斬るな」
コメント:これはひどいw
コメント:地獄絵図
コメント:画面端に四人いるw
コメント:ス〇ブラ始まったぞw
コメント:殴り合い宇宙
コメント:ガ〇ダムファイト
うん、まぁこうなるか。
普通は遠距離にいるはずの射撃機まで最前線にいる。
近接が弱点の相手には近付くのがセオリーだ。
そうやって全員が距離を縮めた結果、ゼロ距離の殴り合いが勃発した。
もはや敵味方関係なく、手当り次第に攻撃する。
この泥仕合のような展開で損をするのは、コストが重いロキだ。
ロキのキャラは高コスト故、落ちた時のリスクが大きい。
乱戦に巻き込まれて、エリカも二回落ちる結果となり、相手のチームコストはゼロになる。
コメント:兄者Win!
コメント:春風兄妹の一勝!
コメント:もつれた!
コメント:ひでぇ試合だったw
コメント:姫の総ダメージやばそう
コメント:全員ぶった斬ってたぞ
あまり綺麗な方法じゃない、むしろ汚すぎる試合展開だが、勝ちは勝ちだ。
エリカは確かに上手いし、キャラ特性を理解してるため普通にやったら崩せない。
だからあえて、悪手で攻めた。
射撃機が最弱レベルの格闘を振れば、向こうも反撃を考える。
そこに合わせて更に攻撃を被せる。
これも博打みたいな戦法だが、想定外の行動には誰だって対応が遅れるもんだ。
とはいえ、これもある種の初見殺しだ。
もう一勝するには、まだすべき事がある。
俺はチャットをいじり、ルーム内のミュートを解除した。
「どうしたんじゃ?」
「ちょっと時間くれ、充電切れたからコントローラー予備に変えるわ」
「ああ、よいぞ。儂らはもう準備完了しておる」
「今なら引き分けって事で、本戦に戻ってくれてもいいぞ」
「冗談じゃろ」
「いいのか?結構しんどそうな試合展開だったが」
「お主らこそ、ヤケクソ戦法で一本取ったようなもんじゃろ」
「それに対応できなかったのは誰なんだろうな」
「次はないわ」
「だといいな。……準備できた」
「なら、始めようかのう」
音声をミュートにしたと同時に、試合が始まった。
ここからは、全力で攻め切る。
コメント:兄者キャラ変えたな
コメント:まさかの格闘機!
コメント:大剣振り回しに来た
コメント:入力精度やば!
コメント:さっきより兄者の動き良くね?
コメント:格闘機の方が得意なのか?
コメント:めっちゃ速ぇ
別に俺は格闘機が得意な訳じゃない。
だから今回は下駄を履いた。
ついさっき新しく繋いだアケコンを操作し、ひたすらエリカの体力を削りに行く。
この手のゲームはともかく、他の格ゲーはアケコンでやっていた歴が長い。
最近はゲーセンに行く機会も多かった。
近距離戦では一瞬の判断と入力精度が重要になってくる。
故に、体が覚えている最速入力可能な媒体でやらせてもらう。
「兄者〜!まだ〜!?」
「まだだ。お前絶対攻撃ボタン押すなよ」
「アタシずっと弾撃たれてるんだけど〜!」
「反撃したらむしろ被弾するぞそれ」
エリカの体力が減った以上、ロキは無理ができない。
さっきみたく助けにくればまた乱戦になるし、かといって攻めに出て万が一被弾すれば状況が悪化する。
愚妹は攻撃こそ受けているが、大ダメージを食らうような展開にはならないだろう。
しかし、二機目のエリカは冷静に俺の攻撃を避け始める。
対応してきやがったな。
流石に勢いだけでは無理か。
コメント:すげぇ接戦
コメント:姫落ちたか
コメント:お互い後がない
コメント:兄者ガン攻めしてんのに体力あるのなんで?
コメント:これはタイムアタックか
コメント:姫逃げて超逃げて
「愚妹、そろそろ行くぞ」
「アタシ体力ない〜!?わ〜死ぬ〜!」
「死なないまだ死なない」
あとはエリカを落とすだけ。
だが、エリカは残り僅かな体力を守りつつ、時間稼ぎに徹する。
こちらも愚妹が落とされたら負けだ。
お互いが、相方がやられるより先に相手を倒す、タイムアタックのような展開。
こうなると不利なのはこちらだ。
なにせ逃げる愚妹は低コスト、追う側のロキは高コストだ。
キャラ性能に差がある以上、そこまで長くはもたない。
だから、こちらも賭けに出る。
逃げに徹するエリカをひたすら追い立て、かわされようとも構わず大剣を振る。
俺の攻撃は当たらなくてもいい。
細かい方向転換を強要し続け、逃げ場を制限していく。
そして──。
「──いいぞ」
「わ、近〜!」
双剣が、逃げる頭蓋を貫いた。
天下一V闘会の知名度は、年々上昇傾向にある。
最近はプリズムシフトのライバーも参加し始め、話題性が高まった。
更に直近では、シード枠へ挑戦者が乱入するサプライズもあり、『伝説のエキシビションマッチ』以来の盛り上がりを見せている。
なお、その時の大会は『蛇王エリカ』と『ロキ』のペアが優勝したが、乱入戦でそのペアに勝ち越した『春風桜』と『兄者』の春風兄妹が事実上の優勝チームだと、ファンの間で語られている。
以上、非公式vikiより。
「…………」
対戦には相性や流れというものがあるため、ただの一勝だけを見て優勝者のタラレバを語るは浅はかだと思う。
しかし世論は常に都合のいい方、面白い方へと流れるものだ。
常連のヒールより、乱入して来た部外者が優勝する方が、面白いのはよく分かる。
分かるけど、ねぇ。
LIME
俺『今更だけど優勝おめでとう』
エリカ『本当に今更じゃのう』
俺『お祝いにプリンでも送るわ』
俺『2kgでいいだろ』
エリカ『それは嬉しいのう』
エリカ『え、キロ?』




