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第89話 メリーゴーランドの特等席。レンズ越しの眩しすぎる二人のヒロイン

 お化け屋敷でのドタバタから抜け出し、冷たいジュースで少し休憩を挟むと、ひなたはすっかりいつもの元気を取り戻していた。


「さーて! 涼んだところで、次はあっちのメリーゴーランドに乗るわよ!」

「ふふっ。夜のライトアップされたメリーゴーランドも素敵だけど、青空の下で乗るのも気持ちよさそうだね」


 テンション高く先陣を切るひなたと、それにふんわりと続く絵海里。

 両腕へのダメージと心労でフラフラな僕は、「僕はここでカメラマンやってるよ……」とベンチから二人の撮影係に回ることにした。

 陽気な音楽と共に、メリーゴーランドがゆっくりと回り始める。


「伊織ーっ! こっちこっち!」


 先に僕の目の前に回ってきたのは、立派な白馬に跨ったひなただった。

 マスタードカラーの薄手ニットが青空によく映えていて、こちらに向かって大きく手を振る姿は、太陽みたいに眩しい。活発で、少し勝ち気で、でも誰よりも真っ直ぐな、最高に可愛い僕の幼馴染。

 パシャリ、とスマホのシャッターを切る。


「……うん、いい笑顔だ」


 そして、次に回ってきたのは。


「伊織。……ちゃんと、見てる?」


 豪華な装飾が施された馬車に優雅に腰掛ける、絵海里だった。

 ふんわりとした白いブラウスとロングスカート。彼女が馬車の窓枠にそっと手を添え、気品のあるおっとりとした微笑みを向けてくる姿は、まるで本物のお姫様みたいだ。

 フランス帰りの洗練された雰囲気と、彼女本来の甘い柔らかさが見事に溶け合って、ドキリとするほど大人びた色香を放っている。

 パシャリ。もう一度シャッターを切る。


(……やばいな、二人とも)


 スマホの画面越しに見る、タイプの違う二人の幼馴染。

 元気で可愛い看板娘と、美しくて甘いパティシエール。

 レンズを通しているのに、いや、レンズを通して彼女たちの魅力だけを切り取ってしまったからこそ、僕の心臓はさっきの絶叫マシンとは全く違う理由で、ドクドクと大きく高鳴っていた。

 やがて音楽が止まり、二人が満足げな顔で駆け寄ってくる。


「どう伊織? ちゃんと私の最高に可愛い瞬間、撮れた?」

「わたしのお姫様気分も、ちゃんと写ってるかな?」


 期待に満ちた目でスマホを覗き込んでくる二人。

 僕は、まだ少し高鳴っている胸の鼓動を誤魔化すように、ふうっと息を吐いてから、素直に思ったままを口にした。


「ああ、バッチリだ。ひなたの太陽みたいな笑顔は遊園地中の誰よりも可愛かったし、絵海里のお姫様みたいな微笑みは、周りの景色が霞むくらい綺麗で……。正直、ファインダー越しなのに眩しすぎて、ずっとドキドキしっぱなしだったよ」

「「っ……!?」」


 ピタリ、と。二人の動きが同時に止まった。

 お菓子作りの時と同じ。僕はただ、完成した素晴らしいものに対して、純粋な感想を述べたつもりだったのだけれど。


「な、ななな……っ!」

「あぅ……い、伊織ぃ……」


 みるみるうちに、ひなたの顔がゆでダコみたいに真っ赤に染まっていく。

 そして、隣にいる絵海里までが、両手で自分の熱くなった頬を包み込み、恥ずかしそうに潤んだ瞳で僕を見つめていた。


「な、なによ急に! そそそそういうの、真顔でサラッと言うんじゃないわよ!! このバカ伊織!!」

「痛っ!? なんで叩くんだよ、本当のこと言っただけだろ!?」

「そういうところがバカだって言ってるのよ!! もう、あっち行くわよ!!」


 顔を真っ赤にして照れ隠しにペシペシと僕の背中を叩くひなたと、「ふふっ……伊織にドキドキしてもらえたなら、大成功だね」と耳まで赤くして嬉しそうに笑う絵海里。


 ジェットコースターもお化け屋敷も敵わない。

 僕の平穏な心拍数は、最強の幼馴染二人によって、一日中振り回されっぱなしだった。


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