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――次の日の朝――
街中にはゴーンゴーンという鐘の音が鳴り響いている。
最初は気にしなかったのだが徐々にその音が煩わしく、たまらず目が覚めた。
メアは朝になってもまだ帰ってきていなかった。
街中を見渡すと滅多に家から出てこなくなったはずの住人が一人二人と顔を出してきている。
何事かと手短に準備を済ませ話を聞いてみると領主の屋敷で結婚式が行われている事が分かった。そして相手は銀髪蒼眼でもの凄い美人らしい。
それを聞いた瞬間、俺は無意識の内に走り出していた。
そして着いた先は勿論、領主の屋敷だ。
「クク、ハ⋯ハハハ⋯⋯」
⋯おかしい。ほんとにおかしすぎて笑ってしまう。
奴らはどこまで馬鹿なんだ?
これじゃあご丁寧に居場所を教えてくれてるようなもんじゃねぇか。
⋯誘われてるのか?
⋯罠の可能性もある。
⋯危ないのは承知。
⋯メアもいない。
⋯だがそんなもん関係ないな。
⋯⋯覚悟しろ。
貴様ら⋯⋯全員、
「皆殺しだ⋯」
始まった。
復讐者による無慈悲なる復讐劇が。
シドの周辺を禍々しいオーラが漂い始めた。
眼は漆黒になっている。瞳に浮かび上がった紋章はドス黒い赤色になっている。
そして身に纏う服が変わっていた。真っ黒なロングコートに同じく真っ黒なレギンス、顔全体を覆う仮面。
最も特徴的なのは服全体に走っている血管のようなもの。しかもそれがドクンッドクンッと脈打っている。
本当に生きているかのようだ。
もの凄く不気味だ。だがそれをも掻き消してしまうほどに芸術的だった。
当然そんな服を身に纏っていてクツクツと笑っている人物は不気味でとてつもなく怪しい。
「そこの怪しい人間を捕らえろ!!」
兵士達は悟っていた。絶対に勝てる相手ではないと。
だが、自分達に与えられた任務は門の死守。命に変えてでも守る。
そう意気込み兵士は一斉に走り出した。
およそ50人はいると思われる門兵と兵士が襲い掛かってきた。
シドはゆっくりと顔をあげて兵士達を見た。
瞬間、虚無から禍々しい漆黒の槍がちょうど兵士の数形成され射出された。
――グサッ!
その槍は寸分違わず全て兵士の心臓を穿った。
兵士達は一瞬で心臓を貫かれ声を上げることもできずに地面に倒れ伏した。その顔は驚愕の表情に染まっていた。
今の状況を一言で表すなら、
『異常』
街の人達に聞いたが、ここの領主は誠実で真面目な人らしい。そのため人望も厚く人気者だそうだ。
そしてその護衛も領主の為ならばと名乗りでた腕利きの兵士だらけらしい。
その兵士達が弱いわけではないだろう。
では今の状況は何なのだろうか。
理由は簡単。シドが強すぎるのだ。
シドは倒れ伏す兵士の姿を見て満足したように笑みを浮かべ、堂々と屋敷に侵入した。
一番豪華な装飾がされている扉の前までやってきた。
「ここか?入ってみれば分かるか⋯」
脚を大きく振り上げて扉を蹴りつけた。
すると意外と脆かったのか扉は砕け散った。
部屋の中には合計14人。揃いも揃ってこちらを見つめていた。
壁の際に控えているのは10人。恐らく従者だろう。
端っこの椅子で座っているのは引き締まった身体をしていて金髪碧眼の男。領主だろう。
そして真ん中にいるのは3人。
男2人と女1人。
片方の男はだらしのないお腹を蓄えている金髪碧眼。領主の息子だろう。
もう一人は一体何なのか分からない。牧師のような服装をしているのでそうなのだろうが俺の直感が警鐘を鳴らしている。恐らくここの中で一番強いのはこいつだ。
そして女の方は銀髪蒼眼で、どことなく俺と容姿が似ている。間違うはずもない。姉さんだ。
「いた。姉さん⋯早く帰るよ」
「え⋯?誰⋯ですか⋯⋯?姉さん⋯?もしかして⋯⋯シド⋯なの⋯⋯?」
姉さんが珍しく動揺していた。
それも当然だろう。
以前のシドとは似ても似つかない雰囲気、全身を覆う不気味な服、そして唯一変わっていないはずの声も仮面の影響で少しくぐもっている。
だが姉の感なのだろう。すぐに気付いてくれた。
姉さんの目には安堵と後悔、他にもいろいろな感情がごちゃまぜになっていた。それに頬は緩んでいて表情が柔らかくなっている。
それでも自分の事より姉として弟の心配をしていた。
「なんで⋯⋯来ちゃったのよ⋯」
それに対しシドは迷うことなくこう告げた。
「そりゃ勿論、家族だからかな?⋯まあそういうことだから返してもらうよ皆様方?あ、サラ姉にはダメージは通らないから安心してね?」
そういうとシドの目の前にはおびただしい数の魔法陣が浮かび上がった。
数百いや千を超えているだろう。
恐ろしい数の魔法が一斉に射出された。
それを見て領主一行は絶望の表情を浮かべていた。
だがそれとは反対に関心、いや歓喜の表情を浮べるものが一人。例の牧師だ。
恐怖するどころか喜んでさえいた。
牧師がパチンと指を鳴らすと、俺の放った魔法が全て嘘のように霧散してしまった。
だが当の本人は、自分がした芸等をなんとも思っていないかのように振る舞っている。
そして彼は乾いた拍手とともにこう告げた。
「ハハハッ。いやはやなんとも素晴らしい。我々の予想通り⋯いや、予想以上に力をつけているようだ。⋯シド君、我々と手を組まないか?そこの脳筋と太いのは用済みだ。処分はそちらに任せるよ。それで?どうだ??」
⋯訳が分からない。
⋯⋯魔法が全てキャンセルされた?
⋯⋯そんなことがありえるのか?
⋯⋯予想通りとはどういうことだ?
⋯⋯手を組むとはどういうことだ?
⋯⋯何がどうなっている?
⋯⋯こいつは一体なんなんだ?
⋯⋯そもそもなぜ俺の名前を知っている?
思考を巡らせていると、彼女の綺麗な声が響いた。
「シドは妾のものじゃ。貴様らみたいな奴などに譲る気は毛頭ないぞ。理解できたらさっさと退くがいい」
間違うはずもない。メアの声だった。




