殺虫スプレー
元々その小山ともめた事で、クラス中から仲間外れにされている女生徒がいたが、その方がまだましだった。無視される事はつらいが、それ以上の精神的にも、肉体的にも被害は受けない。
でも、男子と言う事もあったのかも知れないが、上田の場合は違っていた。
お昼休み。
机を寄せ合って、お弁当を食べるいくつかの女生徒たちのグループ。
一人お弁当を食べる上田の机の周囲に、少しの空間ができていた。
「おい、見てみぃ。
ちんかすのばい菌がうつったらあかんから、みんなあいつから離れて弁当食べてんぞ」
一人の男子が突然、そんな話を始めた。
「もっと離れなあかんぞ、お前ら。
弁当にちんかす菌がうつるぞ」
調子に乗った別の男子がそう言うと、上田の周りの生徒たちが、一旦お箸をおいて、机をもっと離れた場所に移動させ始める。
その様子を見て、クラスの中にくすくすと笑い声が生まれ始めている。
じっと耐えている上田の所に、殺虫スプレーを手にした一人の男子生徒が歩み寄った。
教室内に異臭が走る。
「消毒せんとなぁ」
そう言って、突然上田のお弁当に殺虫剤をかけた。
祖母が作ってくれたお弁当。そのお弁当に殺虫剤をかける行為は許されるものではなく、上田の我慢の限界を超えた。
「うぉー!」
上田が怒りの声を上げ、立ち上がると殺虫剤を持った生徒に掴みかかる。
「きゃー」
近くにいた女生徒たちが悲鳴を上げ、巻き添えを避けようと、自分のお弁当を手に席を立って、その場を離れる。
男子生徒の胸ぐらを左手でつかみ、右こぶしを上田が振り上げた。
その拳を背後から、山本が掴むと、逆手になるようねじ上げる。
その痛さに上田の顔が歪んだ。
山本はそのねじ上げた手を離すと同時に、上田の顔面を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた勢いでよろけた上田が自分の机にあたり、お弁当が床にぶちまけられた。
体勢が立ち直っていない上田のお腹のあたりを山本が蹴り飛ばす。