いじめ屋
「おい、馬鹿」
山本がクラスでそう言われるようになって、数日。
上田へのいじめはなりを潜め、今ではいじめられっ子は山本になった。
小山の影響力は女生徒たちの間にあるにはあったが、クラスの男子生徒たちへの山本の影響力が無くなった事と、山本に代わって力を得た川岡が必ずしも小山に同調しない事で、以前ほどクラス中に影響を与えることはできなくなった。
そんなある日の事。
川岡が授業が終わり、人気が少なくなった校舎内を一人歩いている。その廊下の先には教室も部室も無く、特に生徒たちの気配はない。
一つの部屋の前で川岡は立ち止まり、その部屋に掲げられている保健室と言う札を確認すると、ドアに手をかけた。
ドアをスライドさせると、部屋の中から少し薬品ぽい空気が漏れだしてきた。
川岡が保健室の中に入って行く。ドアが開いたことに気付いた山口が座っている回転いすを回転させ、ドアに目を向けて、入ってくる川岡の名札に視線を送っている。
「川岡」
その名を確かめると、山口がにこりと微笑む。
「ミッションコンプリートですよ」
「ちょっとやりすぎのような気もするけど、いじめられる側の気持ちも分かったでしょうし。
ありがとう」
「これも俺の趣味と言うか、仕事みたいなもんですから」
「いじめ屋なんて、ネットで見つけた時には半信半疑だったんだけどね。
でも、本当に無償でいいのかな?」
「ええ。
いずれ俺が親父の組を継いだら、世間に迷惑かける事もあるでしょうから、その前くらい役立っておこうと思っているだけですから。
まあ、今後の俺を納得させる材料で、自己満足ってやつかな。いじめっ子をいじめて、いじめられっ子を助けるのは」
「今日でまた転校?」
「ええ、俺、結構忙しいんですよ。
それだけ、悪質ないじめが多いって事なんでしょうね」
「ありがとう。
でも、結局力でしか解決できないのかなぁ?」
「力は必要でしょうね。
今回の俺のような暴力かどうかはともかく。
そんな事を言う先生は理想主義者ですか?」
「うーん、そんな事はないと思うんだけどね。
小谷先生のような人じゃなくてさ」
山口が身を乗り出して、語気にも力を込めて言う。
「しっかりとしたやる気のある先生が間に入れば、話し合いで解決できるんじゃないのかな?」
「それは誤解してますよ。
先生イコール権力ですよ。権力も力ですよ。たとえば、警察なんて国家権力の最たるものだ。
もっとも、この年代、中途半端な権力には屈しないぞ、なんていきがった奴もいるけど、少なくとも、力を背景にしない話し合いなんかで解決はできないでしょうね」
「うーん。
力かぁ。なんだか、それじゃあ、いまだに動物の弱肉強食みたいじゃない」
「まぁ、いじめでなくても、人と人、国家と国家のもめごとなんて、問題が大きければ大きいほど、話し合いで解決なんて無理ですよ。
話し合いでなんてのは、現実を見ることのできない理想主義者の言葉でしかありませんよ。
力無き者は力ある者に屈するしかない。
人間だ人間だと言って、動物とは違うんだと言ってみても、まだそんなレベルでしかない。
そう言う事です。
屈するのが嫌なら力を持つか、他人の力を利用するしかない。もちろん、力を上回る知恵でもいいんだけど」
「強い者が勝つか。
なんだか夢が無いなぁ」
「でも、それが事実。
俺たちだってそうですよ。
国家権力を本気で怒らせる気なんてありませんからね」
「あら、弱気ね」
「もちろん、俺たちだって、勝てない相手でも戦おうって時はあるよ。
義があればね。
それが俺たち男ってもんさ」
「あら、女をなめた言い方ね。
私たちだって、たとえ勝てない相手でも、戦うことだってあるわよ。
自分の子や大好きな人を守るためなら」
「愛ですね。
それは俺たちにもありますよ」
「力かぁ」
山口が深い息を吐き出して、力らなく言った。
「あ、そうそう。
もう山本の心は折れちゃってるから、問題起こさないと思うけど、何かあったら言ってください。
アフターサービス万全ですから、誰かよこしますよ」
「ありがとう」
そう言う山口の言葉に片手をあげ、保健室を出て行く川岡の後ろ姿を複雑な思いで山口は見送り、もう一度深い息を吐いた。
「人間はまだまだって事か」
そう言って、山口は回転いすを回転させ、机に向かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
結局、力で解決と言う私としてはすっきりしない話なんですけど、でも、これが現実のような気がしています。
感想なんか、書いていただければうれしいです。




