ご都合主義
体育の短パンに履き替えても、まだ体と靴に染みついたアンモニア臭が漂っている。そんな山本と並んで川岡が職員室で立たされている。その前には椅子に座る小谷。
かつての山本と上田が、山本と川岡に入れ替わり、その山本の立場も逆転していた。
何があったのか、一生懸命小谷に語る山本。
その横で、しらっとした表情で黙って聞いている川岡。
小谷は山本の話に半信半疑である。
「ほんまの事なんか?
誰や、そのやくざみたいな連中は?」
小谷が川岡にたずねると、川岡が明るく笑いながら、小谷に答えた。
「先生、こんな作り話信じたらあきませんよぅ。
それか作り話でなかったとしたら、ちょっと自分の妄想と現実がこんがらがっているかちゃいますかぁ」
川岡の言葉の方があり得る話である。そう思う小谷が、疑いの視線で山本を見る。
「ほんまですよ。
やくざみたいな奴らが現れて、俺の口に拳銃を突きつけたんです!」
職員室の中では、教頭を始め先生方が三人の言葉に耳を傾けている。
川岡が深いため息を一回ついた後、ゆっくりと話しはじめた。
「先生。
何度も言いますけど、そんな事ある訳ないやないですか。
それにですよ。
もしも、そんな事があったとしたら大問題で、学校としても責任問われますよ。
神聖な学校の敷地の中に、やくざ者が何人もやって来て、生徒に銃を突きつけた!
世間は大騒動するんちゃいますかぁ。
ほんまに、そんな事あったと思いますか?この学校で」
川岡の言葉に教頭が席を立って、三人の所にやって来る。
「小谷先生。
その子の言うとおりですよ。
我が校に大量の不審者、それも銃を持ったやくざ者が侵入したなんて事がある訳ありません」
川岡の表情はその言葉に何の反応も示さず、まじめに正面を向いたままであるのに対し、山本は慌てて必死に、自分の主張を繰り返しはじめた。
「まぁ、先生」
そう言って、川岡が山本の言葉を遮ると、認める訳にはいかない話を繰り返し始めた山本にうんざり気味の小谷が山本を無視して、川岡に顔を向ける。
「確かにパンツ脱がしてしもうたんは、悪かったです。
あれも短パンに履き替えさせるために、ズボンだけ脱がすつもりがパンツまでと言う不慮の事故とは言え、もっとあいつらに注意させるべきでしたわぁ。
すんません」
川岡がそう言って、頭を下げると、話を打ち切るチャンスととらえた小谷が、「おお」とだけ言って、二人に背を向け自分の机に向かい、仕事を始めた。
「行こうか」
川岡が山本の服を持って、引っ張る。
自分の主張が何も受け入れられなかった事で、川岡からもっとひどい仕返しを受けるのではと顔色は真っ青になっているだけでなく、体全体がこわばっているのか、川岡に引きずられるように職員室を出て行く山本の動きはまるで関節が少ないロボットのようなぎこちなさだった。
廊下に出ると川岡が山本に囁いた。
「おい、馬鹿。
お前の主張なんか、誰も聞いてくれへんでぇ。
上田をいじめた時に、お前の言い分を小谷が聞いていじめやのうと、いたずらで片づけたんは単にあいつらにとって、その方が都合がええからなだけやで。
今もそうや、お前の言う事聞いたら、とんでもない事になるから、俺の言い分を受け入れてるんや。
分かったか。お前の言う事をあいつらが聞いてたんは単にあいつらの都合だけ。
今はお前の話はあいつらには都合が悪いんや」




