満月の夜1
自称皇子のレイと旅をするようになって少し経った頃
語られずともクリスは分かった事がある
まず龍神族のパワーは恐らく月の満ち欠けと共鳴している
月の出ない夜にだけレイがやけに自分の近くにいるのはきっと己が弱る夜の不安からだ
逆に今日みたいな満月の夜は何故か月がのぼると慌てて何か適当な理由をつけて消えてしまい朝まで帰って来ない
それからレイは多分クリスを男だと勘違いし続けている別に性別を偽るつもりでもないけど何となく初対面時に女だと思われなかったのも今まで気がついてくれていないのも悔しいので今更自分から訂正出来ないでいる
取り敢えず今夜は満月でレイが例の如く何処かに行ってしまったので
あの我が儘っぷりな要求の数々に応えなくてもいいわけだし自分は誰の目も気にすることなく伸び伸びと水浴びでもしようと思い近くの湖に向かった
月の光の中で少女は一糸纏わぬ姿で泳いだりバシャバシャと水と戯れていたが急に何か禍々しいオーラを感じ辺りを見渡した
湖の真ん中辺りからどす黒い何かが此方へと向かってくるのにクリスが気が付いた瞬間彼女の身体は宙に浮いていた
何かに抱えられ空高く湖から引き離されている
「危なかったな…もう少しであの湖の水魔の餌食になるとこだったぞ?
水浴びをするのも結構だが場所はよく考えるんだな…って!!お前///」
クリスを抱える形で空を飛んでいるらしい青年は顔を真っ赤にしてクリスの顔をマジマジと覗き込んでいる
「何処の誰だか知らないけど有り難う…でも流石に裸だし寒いし恥ずかしいので僕を地上に降ろしてくれない?」
クリスがシレッと言い放つと青年は目線を逸らしてゆっくりと安全な場所まで来て降ろしてくれた
「悪いそなたの裸というか…その女性の裸を見るつもりでは無かったのだ
ただ水魔が見えたので夢中で気がついたらそなたを彼処から助け出していたのだが本当に悪いことをしたな」
勿論魔法で直ぐに服を着込んだクリスに青年はバツ悪そうに謝った
月明かりの下でもはっきり判るくらい未だにだいぶ赤い青年の顔を見てクリスはクスクスと笑った
「悪気が無かったなら謝らないでよ?
安易に水浴びなんてしていたのは僕だし助けてくれて感謝しなきゃいけないのはこっちなんだからさ~っていうか顔真っ赤なんだけど大丈夫?僕そんなにセクシーな体型してないと思うけど…」
その言葉は火に油を注いだだけのようで青年は凄くぎこちない様子だ
「セク…そっそういう問題では無い!!
俺の国では女性というものは淑やかで慎ましく…はっ裸などは///とっとにかく今夜見てしまったことは忘れるようにする!!如何なる理由が有ろうとも妻でもない娘の全裸を見てしまうなど龍神族の名折れだ…本当に申し訳無かった」
龍神族と言われて初めて気がつく
確かに青年の背中にはとても立派な漆黒の翼が生えその瞳は特有の紅い色をしている少し尖った耳と鋭そうな爪…レイ以外の龍神族を見るのは初めてでついジィーッと見つめてしまう
「なぁ龍神族様がこんな田舎の地域になんの用事だったんだ?たまたまなんだけど最近もう1人龍神族と知り合ってね…こんな短期間に2人も出会うなんて何かあるのかと思っちゃうんだけど?」
興味本位で訊いたクリスだったが
「悪いがそれは言えない…」
呟いて静かに身を翻して飛んでいってしまった
月光に映し出される後ろ姿は何処か悲しげでクリスの目には何時までも焼き付いていた