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36話 ミッドシー血戦 2

ヤウロゥバベース北西の東部系ビレッジベースは、深夜に東部連合の工作部隊が散布したやや過剰な濃度のスプライトガスで覆われ、非常用有線通信ケーブルも切断され孤立させられた。


最初にライドグライダーを使用したバッズIIIの強襲部隊によってバッズ改、ゼゥムン改、ドメア改主体の自衛部隊と停泊していた主な軍艦が壊滅。


続けて襲来したエアグライダー・ドメアIIの大部隊で防衛能力を完全に破壊され、最後に現れた飛行艦隊の絨毯爆撃と、ラザオムが提供した西部連盟の中型対人オートボットを多数降下させ、ビレッジは一夜にして死の荒野となった。


翌未明、東部連合は現地残存の西部オートボットと生存者を根絶やしにした上で東部のマスコミを現地に入れ、西部の蛮行と非難。


このビレッジはミッドシーの北東エリアで蔓延していたドラッグの生産拠点があり、特に西部連盟との対立はあった為、東部連合は見せしめが行われた、とした。


西部連盟は猛反論したが、東部連合は実効部隊が潜伏していると、一方的に西部系のアーミータウンベース、オリキットに対し、報復を宣言。


宣言後、即座に事前に配置していたネプトリス主体の大部隊によるオリキットへの奇襲攻撃が実行された。


オリキットは大内海ミッドシーに面している。


通常ならば偵察後、空中戦と平行して、中型強襲潜水艦隊による中型哨戒潜水艦の小型駆逐潜水艦の混成防衛線の突破を試みられるが、東部連合はほぼ小型艦の形状になる水戦殲滅パックを装備したネプトリスを単騎で最初に投入した。


「ラザオムのような男が着任し、この情勢! 想定が甘いのは罪だぜっ? 連盟!!」


水中ではスプライトガスは無効。

しかしネプトリスは水中に限り周囲の水を効果ごとにパターン化した力場で操るサハギンスケイルの特性が実装されており、兵装を含め、熱、光学、振動、重力波等の認識を隠蔽することができた。


有視界の範囲に入っても相手は認識し辛く、ネプトリス自身も無音の暗闇の中を進むような物だったが、この機体はパイロットのサイキックによる水中での空間認識を補助する機能に優れていた。


「敵襲です! 小型艦?? こっ」


唐突に側面に現れたネプトリスは、そのサハギンスケイルの応用で、この時代の最速の中型潜水艦の最大加速常態に急激に移行可能であった。


中近距離水戦兵装、水中振動刃弾(じんだん)を打ち込み、交錯後に、遅れて水中起爆させ次々と撃沈してゆくネプトリス。


重い振動刃弾は撃てば撃つ程機体は軽くなり、ネプトリスは加速してゆく。


西部の中型哨戒潜水艦シーミーアIIと小型駆逐潜水艦アイアングッピーIIはなにと交戦してるのか? 上手く情報を共有できないままほぼ壊滅して防衛線を抜かれた。


海中の哨戒潜水艦隊が消えれば空中哨戒も穴だらけとなる。


マイラギIIと撒くように展開されたドメアIII部隊を主体とした突貫に初期空戦を東部が圧倒してゆく。


海中では混乱した状況のまま中型護衛潜水艦隊が水戦機ケルピラII主体の鉄鋼機を展開させたが、


「散開し過ぎだ」


ネプトリスは硬い護衛潜水艦ウェイブプリーストIIには振動刃弾をほぼ単発で要所に当てて継戦不能にし、ケルピラIIにはより軽いが装弾数の多い水中針弾(しんだん)で撃沈していった。


小回りが利いても水中航行速度が中型潜水艦に大きく劣る通常の水戦鉄鋼機は、ネプトリスには遅く浮いた柔らかい的であった。


それでも自動設定でフェーズの進展に伴い薬物が追加で射たれようとしたが、バウガーに忠告されていたイッポリトIIは投薬を手動で強制停止させた。


「姫と踊るまではシラフでいく!」


ネプトリスの猛攻は止まらずウェイブプリーストII艦隊の4割を継戦不能にして陣形を崩し、二次防衛線を抜けると水戦でのメインターゲットである大型多目的防衛潜水艦アトランテIIとその周囲に展開させられた現役水戦機ケルピラIIIと対峙した。


アトランテIIの探知は厳しく、ネプトリス本体は捉え難くともその水の軌道を探知して、追尾機能の高い対水戦鉄鋼機中近距離仕様のハンター魚雷と針弾クラスター魚雷を連発した。回避の精度もある。


ケルピラIIIも自動回避挙動と装甲値に優れ、また通信可能である為、アトランテIIと同期して水の軌道予測から大まかな狙いで水中針弾とハンター魚雷による威嚇も行った。


ネプトリスは変則的な軌道で撹乱しながら、対艦兵器の振動刃弾をケルピラIIIに対して使用し機体を引き千切るように撃沈し、突入進路を確保した。


螺旋状にアトランテIIへ突貫し、激突寸前で展開した取り付き用の巨大な2本の鉤爪状兵装、緩衝ビッグクローで装甲面に激突した。


衝撃でアトランテIIは海中で半回転して渦の水流を起こし、巻き込まれたケルピラIII群は一時援護不能となった。


緩衝ビッグクローで機体を固定したネプトリスは高速航行形態から近接戦形態に変形した。


「コイツっ、鉄鋼機なのか??」


モノクロの光学認識映像に驚愕するアトランテIIの艦長。


水戦殲滅パックの左右兵装のカバーがパージされ、対艦穿孔柱(せんこうちゅう)爆雷を露出させ、射出機の持ち手を持つネプトリス。


「じゃあな」


調整しアトランテIIの厚い装甲の奥深くまで撃ち込み、めり込んだビッグクローと射出パーツを切り離して高速航行形態に戻り離れだす。


渦の収まりと共に対応しだしたケルピラIII群に百数十発のハンター魚雷を撃ち威嚇しながら、身軽になったネプトリスは一気に距離を取り、爆雷の炸裂と共にアトランテIIは轟沈し、残存のケルピラIIIの多くを巻き込んでいった。


ネプトリスと入れ代わりに東部の潜水艦隊と汎用水戦鉄鋼機が侵攻してゆく。


海中戦力が総崩れになったオリキットの防衛隊は程なく制空権もほぼ失い、増援が来るまでの約1時間の間に軍事施設と交通及びエネルギーインフラの大半を破壊された。


オリキットの機能不全により数年の間、西部連盟はミッドシー北東部で一貫して不利を強いられ、ダシにされたにも関わらずマード共和国は自治権拡大の主張を国内向けのプロパガンダに留め、むしろ諸権利の縮小に甘んじるより他なくなったのだった。



···リュウグウクランの中型多目的移送艦バルタンIII改は同じく宇宙公社の小型護衛艦ロックタイマイIII2隻と西部の小型偵察艦ブレーメンIII1隻と共に離陸した。


「これより本船団は西部の追撃隊に結果的に随伴し、東部の水戦モガリア系S型機体を強制見分する!」


ガーラン艦長はデタラメなことを言ってると自覚はしていたが公式航行ログに記述しておく必要があった。

東部の法務部門の強引さは度を越えた物で、最低限度対策は必須と言えた。


「調査部からの一報では相手はハイルルへの寄港を拒否され、レーマ半島南部の人工島の小拠点へと向かったと想定される! 一連の無法行為による抗争は東西の物っ、我々は無駄な戦闘は避け、S型を狙···ごほんっ」


口が滑りかけて咳払いするガーラン艦長。


「積極的に見分する物である!!」


言い切り、副官として新たに配属された長身金髪のルーラ・ティルモテに手で合図して、公式航行ログの照合用録画録音を止めさせる艦長。


「西部のアカデミー賞を狙えますね」


「酷い三文芝居だっ。しかし、君が赴任してくれて助かったよ、ルーラ」


「秘書の方は面白くなさそうでしたが?」


「そんなことはないよっ」


他のブリッジクルー達に微妙な空気を漂わせるガーラン艦長だった。

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