35話 ミッドシー血戦 1
中型艦用ドックに俺達リュウグウクランのクルーは移っていた。もうちょっとした規模の野営地くらい広い。
シークレットサービス付きだが平時の姫の行動範囲はこのドック内まで広がり、よっぽどうんざりしてたのか端の一角にネットを張ってもらいゴーグルを付けてシャトルを打ち合うシャトルテニスのコートを作ってもらっていた。
「それ!」
「なんのっ」
姫が撃ったシャトルを打ち返す俺。
ブルーナさんじゃ相手にならないから暇なクルーがローテで相手してる感じだ。まぁアンゼリカとミコが参戦しちゃうと2人の無双になっちゃうけどさ。
後ろのコートではブルーナさんとボミミの運動音痴コンビが、わーわー言いながら打ち合ってる。
側面のネットの向こうでは改修作業の真っ最中だ。
リュウグウクランの船は西部連盟のグリルポークIIIから宇宙公社の重力下船、中型強行移送艦バルタンIIIに変わった。
足の速さ、守りの硬さ、探知通信力、格納力の高さが際立ち、戦闘特化タイプじゃなくても現役の中型艦だからグリルポークIIIより火力が高く、頼もしい。
今は回避性能の向上と、連射性を犠牲にする形で主砲の集束熱弾砲火力向上の改修をしている。
乗員は130人を越える予定で、鉄鋼機を追加で5機、エアグライダーも出せる機体を3機は増やせそうだった。
「ザリデ君は船を降りないんですね」
よく言われるなこれ。
「やるだけやりますよ? 色々考えたんですが、つまり俺は一つの渦中の中にあるワケで、それは」
「ミコさんとアンゼリカさんが心配ですか」
「いやいやっ、じゃなくてっっ」
動揺した隙に1点取られた。
「皆と仲良くなってしまいましたしね」
結構、突いてくるぞ、姫。
「···東部の方々してみれば私は墓所から現れた死神。あるいは万年実験機で、癖が強く量産活用の目処が立たないでいるらしいモガリア系S型機体からフルパフォーマンスのデータを取る絶好の機会で、あるいは停滞した西部との抗争のカンフルと思っているのかもしれません。どうぞ」
促され、打ち込んでゲームを再開する。
「西部にも言えることですが、彼らは非常時の常態化乗じて巨大国家であるかのように振る舞っています。平穏は毒なのでしょう」
「まぁ、そんな話もあるかも、ッスね」
大半の陸の地域で土壌浄化が済んだのに本気で蟲退治しなかったり、オートボットの横流しも放置気味だったり、変な動きはあるにはある。
「ザリデ君、私はそのような思惑を利用し、個人的な執着でバドリーラと共に必要以上の争いを継続します。組織の道理の中の方々や、アンゼリカさんにはこの場は必要でしょう。しかし、あなたや、ジェムさん、ミコさん、ブルーナさんだって···降りてもよい気がします」
「それ、姫のワガママですよ」
「そうですか? しかし」
「今、船から降りて、そのまま気楽な何でも屋稼業とか、別の仕事とか、行けないッス」
「···」
今度は姫が隙を見せたから1点取り返した。
「俺もなんか色々考えたけど、結局挑戦できることが楽しいのと、替えが利かない瞬間にいる気がしてる。たぶんそんな、感じッス。どうぞ」
うん、やっぱ1人で考えるより人と話した方が腑に落ちるな。
「強情ですね。あなたも」
姫は笑って、ゲームを再開した。
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ミッドシー南部の東部連合の軍港ハイルルにイポリットIIの管理主任ネイ・バウガーはいた。
陰鬱な顔で、施設の広さとこれから顔合わせる者との想定にウンザリしながら廊下を歩いていると、スティック端末に着信の振動が入った。
ポケットから取り出し、イポリットIIからの文字通信を表示させるバウガー。
「調子がいい。数値安定。ネプトリスの機嫌もいい」
バウガーは薄く笑みを浮かべ、「よかった」とだけ返信して、足を速めた。
「遅れました」
バウガーが議場に入ると、ミッドシー戦線を預かる異様に太ったラザオム中将とその取り巻きが冷たい視線を向けてきた。
他にネプトリスの管理主任、べシムIIIの艦長ユンケン、ハイルル軍港の司令官等がいた。
「イポリットIIとデチューン体、IIIの調整は?」
大きな器のココアを振った生菓子ティオラミスを大匙で掬って食べながら聞くラザオム。
「IIは問題ありません。本国のIIIは幼体ですが、強壮です。IIのデチューン兵も問題ありませんが、IIと同時運用はストレス値が高過ぎるように思われます」
「バドリーラとかいう骨董機は相当だ。狂った姫もふざけてるが、マリネリス工房の仕事だろう。ミコ・ヒダもいるんだろう? 火星の戦乙女、タチが悪い。イポリットIIは今回で使い潰す。だが、敗残の可能性も考慮し、一手打っておく必要がある。保険だ」
「···」
返事をすべきだったが、食べ終えて口元を舐め回すラザオムへの嫌悪と勝敗に関わらずイポリットIIの死の確定に上手く声が出ないバウガー。
ラザオムはガリ勉の小娘と内心吐き捨て、続けた。
「司令、ここの兵を使わせてもらう。ヤウロゥバベースの北西に東部系のビレッジベースがあるだろう? 焼け」
「?! しかしっ、あのビレッジは東部同志のマード共和国の属しておりまして」
ハイルル司令官は顔色を失った。
「まったくだ! 西部の過激派の仕業だっ、報復する。近くの西部系のアーミータウンベース、オリキットをネプトリス主体の部隊で焼け。しっかりエアギルド支部も潰せよ? 姫様も公になって返って動き辛くなってるだろう。口実を作ってやれ」
ラザオムの言い様に、ユンケン艦長は眉間の皺を深くし、ネプトリスの管理主は平然とし、ハイルルの司令官は滝の汗であった。
「オリキットは長年目障りだった。マード共和国も近年の自治権の過大要求が目に余る。仮にネプトリスが敗北しても2戦分の派手な実戦データとそれなりの軍功。釣りがくるだろう。物事の帳尻は始める前に合わせておくものだ。おいっ、カプティーノンを持ってこい! いいシュガーを使えっ、天然のなっっ」
せめて全力の交戦をと考えていたバウガーだったが、汚れた作戦行動に消費されることはもはや避け難かった。




