一城の主
杉原四郎兵衛の後ろに続くのは、彼同様に食いっぱぐれて全てを失って、自分の身体以外の財産を持たぬ人間たちだ。
揉烏帽子を被るどころか、元結も手に入れようがなく、髷を結えぬ蓬髪を汗にべっとりと濡らしている者もいる。
それでも幾人かは四郎兵衛同様に鎧櫃らしいものを背負っている。刀を佩いている者もいる。別の幾人かは米俵や炭俵を担いでいて、他には木材や薦を背負子に乗せて担いでいる者もいた。
皆、疲れていた。皆、腹を減らしていた。
先導の悟円坊や四郎兵衛に、
「あとどれほど歩けば良いのか?」
と問いかける気力も湧かないぐらいに心身が萎えている。
何も考えられないから、何も考えずに、ただ前を行く者の尻の後に付き従って、山道を這い上る。
四郎兵衛が子檀嶺岳に古い山城の跡があることを知ったのは、まだ彼が侍らしい暮らしをしていた時分だ。その頃の彼は、侍らしく馬に乗り、侍らしく弓を引き、侍らしく槍を振り回していた。
その時分にはもう子檀嶺城はうち捨てられた城だった。
当然、誰もそこに詰めていないし、大きな建物などはない――と、四郎兵衛は聞いた覚えがある。ただし、わずかに土塁や竪堀、堀切の跡が残っているらしい、とも聞いた。
その、昔の城主が敵を寄せ付けぬ為に作った遺構が、今は四郎兵衛達を苦労させている。
「慚愧、懺悔、六根清浄。さーんげ……」
悟円坊のつぶやきが止んだ。
山頂にたどり着いたのだ。
平らな山頂に立って、辺りを見回した四郎兵衛達は、がくりと肩を落とした。
城としての設備はもうないことは解っていたが、それでも万に一つ、もしかしたら建物の残骸程度のものは残っているかも知れないと、少しばかり期待していた。
しかし人の手で作られた古い物は、とうに朽ち果てていた。
ただ、比較的新しい構造物……石を積み上げた塚か社のようなものと、細い四本柱へ柴や蔓を編んだ屋根を差掛にしただけの小屋が、ぽつねんと立っている。
参拝をする氏子や修業に来る修験者が、石を積み、急な雨露をしのげる程度の差掛小屋を建てたのだろう。
四郎兵衛は、子檀嶺の山頂には麓の民の崇敬を集めている建御名方神を奉った社があるとは聞いていた。
自分は山道を見付けられなかったが、
「信者どもが登る為の道はあるに違いない」
であるからこそ、山伏の端くれらしい悟円坊を拾い上げ、道案内をさせたのだ。
米俵を背負ってきた男が倒れ込むようにして差掛小屋の屋根の下に入った。もう毛筋の一本も動かしたくないという顔をしている。
「寝るな。そこは米を置くんだ。
お前達は雨に濡れても湿気らねぇが、米は雨水をかぶったら不味くなる。
寝たかったら手前で広い小屋でも作れ」
四郎兵衛に強く言われた男は、よろよろと立ち上がった。