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意志のないバートリー

「おいお前、名前は?」

玄関を突破し、走りながら玄森は気まぐれに跳宰が操る女性に話しかけてみた。

もしかしたら、多少は自分の意志で話せるのではないか、と期待もした。

「…」

案の定、女性が言葉を話すことはなかった。

『その子は<バートリー>というコードネームが与えられてる。それ以外の言葉は認識しないわよ』

補足するように、跳宰からの通信が入った。

「俺が聞きたいのは、コードネームなんかじゃない。本当の名前なんだ」

無駄だろうけどな、と玄森は諦めて小さく呟いた。<バートリー>は視線を向けることもせず、淡々とついてくるように走るだけだ。

『教えてあげたいところだけど、私も兵器化された能力者たちの本名は知らないの…。ごめんなさいね。ターゲットは侵入した建物の最上階にいる。どうやら侵入者を阻むためにステージ式にして迎え撃つ気みたい。一戦ずつ勝利し、追い詰めましょう。この子が案内するから、玄森特殊退院は付いてきて』

「了解…」

跳宰も、彼女の本当の名前は知らないという。この女性は、いや一緒に居た能力者たちは、個別の意志も、本当の名前さえも抹消され、ただ兵器の一つとして扱われている。

それを踏まえてふと思う。死刑囚である自分は、何故意識を奪われなかったのだろうか。殺傷能力だけ軍が欲しているのなら、玄森の邪悪な意志など不要なものではないか。

今何故何をどこに問いかけている時間はないが、意志を奪われている女性を見ていると見下した目線で見る哀れな姿にしか感じられなかった。

『まずは第一ステージ。私が行くわ』

閉ざされている分厚い鉄の扉を、成人男性ほどの大きさの氷柱で貫き突破すると、先は体育館くらいの大きさをした広間になっていた。

(翻訳機、かけとくわよ)

跳宰がそう言い残し、広間の真ん中にいる将校に近づいていく。

「侵入者が。総統のところには行かせぬ、ここで死ね」

将校はロマンスグレーの短髪と長いひげを携えた壮年の男だった。

手には金属製の何の変哲もない長い棒を持っているだけで、軍服も銀製の胸当てと手甲、腰のベルトしか付けていないような軽装だった。

「貴様からは妙な波動を感じる。名を名乗ってもらおうか」

将校が棒を一度カンッと床にぶつけるが、バートリーは気にも留めない。

氷柱で二人を囲ませた。

「…なるほど、不思議な力を使う」

『大丈夫なのか、二人で』

『この男を一人で倒せないようじゃ、<バートリー>は不良品よ。また強化されるだけ。道を切り開くのも、この子の能力次第』

内線で話していると、将校の男は馬鹿にされたと感じたのか、サッと<バートリー>に棒を構え突っ込んできた。



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