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雑談からの情報

「んで、今日は何してきたの?」

紺野の部屋は過去に流行ったアニメと呼ばれる映像作品に関する模型が綺麗に陳列されている。

デスクに置いてあるパソコンでは、彼が集めた映像が再生できるようになっている。とりわけ好むのは、人間関係や心情が緻密に描かれる構成のものと、考察すべき表現が多分に含まれているものだった。

玄森は特に興味はないのだが、紺野に時々作品鑑賞に誘われた。確かに話としてはよくできているのは分かった。

「休暇だったんでしょ?」

紺野はシンプルな背もたれ付きの椅子に座り、クルクルと回りながら問いかける。

「ああ。海を見に行ってきたんだ」

「今時期見て楽しめる海って言ったら、ミナト地区かい」

「よく分かるな」

「二ホンエリアは荒波の地域も多いしね。通年で平穏なのはあの地区だけだし。玄森は海が好きなんだね」

「心が落ち着いたよ。ここは平和なんだって思えた」

部屋の床に胡坐をかいていた玄森は、ごろんと天井を見るように寝転がる。

「俺に平和なんてなかった」

そう呟く玄森に、紺野は苦笑い気味になる。笑っている訳ではなく、同情をしていいのか分からなくなるからだ。

「話してくれたことかい」

紺野も椅子から降りて、床にドッと寝そべった。男二人だとかなり狭く感じるが、今はそんなことはどうだってよかった。

「いい記憶なんて何もなかったんだ。過去の俺は」

「…」

「何もなかった、はずだった。でも」

「ん?」

「休暇のときに、不思議な女に会ったんだ」

「不思議な女?」

「俺が覚えていない過去で、どこかで会ったような人。会っただけで、心がフワフワと宙に浮いたような感覚だった」

「記憶の切れ端なのかもしれないね」

紺野には自分が死刑囚であったこと、能力者であることを話している。

紺野が言うには、能力者の持つ因子は記憶力を強固にする力があるらしい。

どれだけ抹消しても、何らかのきっかけで記憶を蘇らせることが起きるという仮説がある…と彼は言った。

「どこからその情報を…」

「桜井司令官が机に放ってた資料を流し見してね」

「ほんとお前は規格外だよな。密度の高い肉体に、瞬間記憶まで備えてるんだから。生身な俺より実践向きだろう。本当にオリジナルなのかと疑うレベルだよ」

「ハハハ。たまたまだよ。普通の人間だって、意外な能力を持ってることがあるのさ。…その女性には、また会いたいと思うのかい?」

紺野が宙に弧を描くように指遊びをすると、玄森は少し顔を逸らした。

「会いたい、とは…思う。だけど、会わない方がいいような気もする。俺は人殺しだから、彼女を汚してしまうかもしれない」

「固いなあ、玄森。人間、欲望に忠実であれ、だよ」

「相手はいるみたいだしな」

「相手?」

「スーツを着てた穏やかそうな男だったよ」

「待て。スーツ着てるって、そいつは軍属じゃないか?」

「へ?」

「スーツの色は」

「黒一色に、腕に白のラインが一本入ってた」

「oh…」

「どうかしたのか?」

「玄森、黒スーツに白い腕のラインは、研究員のが付き人になる際の制服だよ」

「じゃあ、柳祥子は」

「観察されている人間、ということになるね。もしかしたらどこかの施設で管理されているのかもしれない」

普通に図書館から出てきた柳が、観察されている人間?何かをする人間には見えなかったが…。

「なんとか分からんかな」

「管轄が違えば、話を知ることも出来ないからなあ…見込みは薄いな。俺たちから何かを知ることはできないよ」

「そうか…」

「彼女のこと、忘れといたほうがいいかもな。色々とめんどそうな感じがする」

そうは言われても、柳と一緒にいた男が軍属だと聞くとなぜか関心を背けられない。

また会おうという気持ちが、玄森の中で強くなっていた。

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