なんにも見てない奴の嫉妬は滑稽だね
屈強な肉体を持ったものが多い軍人が多い中、紺野はそれに比べると枝のような細さに見えるくらい華奢な男だった。玄森も幼少期の栄養状態の劣悪さから身長も平均より低く、肉体はガレているが、紺野もそれと遜色ないくらい痩せていた。
紺野はよく同僚からどつかれ、馬鹿にされていたが、本人は全く気にした様子がなかった。
一度紺野の骨が折れるのではないかというくらい強く背中に蹴りを受けても、全く意に介さない。
能力を開花させている玄森は、紺野も何かしらの能力者ではないかと疑っていた。
本人に聞くと、『特段痛みを感じにくいだけだよ』と笑って返されるだけだったが。
「風呂、入らないの?」
夕食の時にまたどつかれたのだろう、紺野の目元には青痰ができていた。
「風呂は最後に入る…紺野、また殴られたのか?」
「まあね。全然痛くないんだけどね。ハハハ」
紺野は指で『部屋に行こう』と合図を送る。広間では茶化してくる同僚がいるからだろう。いつも決まって行くのは紺野にあてがわれた部屋だった。
玄森がスッと部屋へ歩き始めると、紺野はその後をついてきた。
「おう、痩せっぽちのコンちゃんと…特例野郎!」
この宿舎でリーダーを気取る同僚が、取り巻きを二人連れて廊下の真ん中に仁王立ちしている。
またか、と内心ため息をついた。この同僚はよく紺野と自分に突っかかり、暴力をふるってくる。
紺野が全く気にしなくても、玄森は正直苛立つ。反撃してもいいが、紺野に窘められるのがなんとなく情けなくてできなかった。
「コンちゃん、またそんな野郎とつるんでいるのかよ?」
「嫌だなあ、玄森はいいやつだから付き合ってるんだよ」
紺野がそういうと、同僚は笑顔で紺野を張り倒した。倒れ込む紺野に駆け寄ろうとすると、取り巻きが行く手を阻む。
「それじゃまるで俺たちが悪い奴みたいな言い方だなあ。お前が訓練に熱心じゃないから、俺たちが教育してやってるんじゃないか」
「…独善かよ」
玄森がそう吐き捨てるように小声で呟くと、はっきり聞こえていたのか同僚は鋭い眼光に変わり玄森の胸倉に掴みかかった。
「なんだ?この特例野郎。気持ち悪い傷持ちが。野垂れ死ぬ寸前だったのを救われて、しかも栄えある二ホンエリア軍の軍人になんの審査もなく入隊したくせに。
そのくせ普段は特別任務だとか言って俺たちと完全に別行動ときたもんだ。いいか、調子に乗るなよ。俺はお前といつも何も努力せずヘラヘラしてる紺野が大嫌いなんだ、覚えておけ。次舐めたこと言ったら、骨何本か逝かせてやる」
同僚はドスの利いた声でひとしきりまくしたてた後、取り巻きを連れて去っていった。
「…行った?」
紺野はパッと立ち上がり、パンパンと軍服の皺を伸ばした。
「行ったよ」
「嫉妬だよねえ~…」
紺野は努力をしていない訳ではない。むしろ誰よりも自主訓練を行っている。どれだけトレーニングを重ねても見た目に現れる筋肉が殆どつかないのだ。
「ま、あんなやつら相手にしてもね」
紺野はカラカラと笑った。




