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思い出せ、思い出せ!

(柳…祥子…?一緒の男は今、軍のポータル機能を使った)

玄森は監視をするためにこの町にいたわけではない。たまたま休暇の行き先に選んだのがミナト地区にある海水浴場だったのだ。

柳に出会ったのは帰り道で、図書館の近くにある駅に向かっていたのだった。

物陰で柳と一緒にいた男は淡い青色の光に包まれていたのを見た。となると、柳は軍に管理されている人間?なのだろうか。

『祥子』という名前が、心の中で反芻されていた。聞き覚えはないのだが、自分がその名前を呼んだことがあるような気がしてならない。

「ショーコ…ショーコ…」

口に出しながら、懸命に記憶を探ろうとする。探れば探るほど、何処かで会っているような気がしてならない。


《あなたの名前は、なんて言うの?》


記憶の一ページが、突風が吹いたように思い出される。

場所も時期も分からないが、柳と似たような髪型をした幼女が、満面の笑顔で玄森に問いかけている。だが似ているのは髪型だけで、表情や目の荒み具合は先ほどあった柳とは雲泥の差があった。

その幼女も、笑顔ではあるが目が死んだように光がない。自分と全く同じような暗い瞳だ。

彼女も日常的に殴られているのか、差し出した手には直近にできたような大きめの青い痣があった。

(どこで…どこで出会った?)

もっと情報が欲しい。凝縮するように頭の中を集中させる。

記憶が更新された。その幼女と会ったのは、広い原っぱのような空き地だった。

そうだ、自分は親に家から閉め出され、この空き地に逃げ込んだ。頬にタバコを押し付けられ、火傷を隠すように手で押さえながら一人で草陰に隠れていたのだ。

自分は嗚咽しながら泣いていた。火傷の部位はヒリヒリと痛む中隠れている間に、何度も両親の下衆な笑い声を思い出していた。

泣いているところを誰にも見られたくない。見られても誰にも救ってはもらえない。

手をかけてもらっても両親にバレれば逆上され、今以上にひどい目に合うからだ。

周囲の大人たちも、それを知っている。いや、助ければその周囲も嫌がらせを受けるのだ。

だから、誰も助けてはくれないのだ。

そう思って隠れていると、空き地にその幼女が足を踏み入れた。見つかりたくない。そう思って息をひそめたが、幼女はすぐに玄森に気付き近寄ってくる。

冒頭の言葉は、玄森を見た瞬間幼女が口に出した言葉だった。

記憶はそこでプツンと途絶えてしまい、その後のことは今は何も思い出せなかった。


玄森は顔の傷を隠すように布マスクを着け、電車にのって軍の宿舎に帰棟した。

丁度宿舎では軍人たちの夕食後の自由時間になろうとしていた。

「玄森、お帰り」

そう声をかけてきたのは、同僚の紺野(こんの)だった。


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