跳宰は嗤う
「人を模した土人形よ。貴方の中にあるチカラを見たくて試したの、ごめんなさいね?」
跳宰の笑顔が癇に障る。根本的に玄森を見下しているような表情がにじみ出ている。
「アンタも斬ってやろうか?」
未だ猛る気持ちを隠さず、玄森は威嚇する。ダガーはまだ、形を保ったままだ。
跳宰は威嚇に全く動じず、拍手をやめた。
「私を斬る?やってもいいけど、貴方はまた死刑にされるだけ。ここは軍の研究施設よ。それに」
「うるせえ!」
玄森は一歩踏み込み、言葉を聞くのを待たず跳宰に斬りかかった。
「さすが、20人殺すだけはあるのね。危険人物にされていた理由がよく分かるわあ」
跳宰はひらりと初手を躱すと、瞬時にストレスカウンターの画面をタッチした。
強力な重力に潰されるように、玄森の身体が床にへばりついた。
「このっ…!何をしたァ!」
体勢を変えることもできない上に、圧力は身体の骨を軋ませるくらいの力がかかり続けている。
「貴方は私たちに逆らえない。刃を向ければ今のように貴方を簡単に強制的に制御できるの」
跳宰は動けない玄森の顎をクイッと上げた。
「さっきの続きね。貴方は軍属になることを条件に自由が保障されるの」
「何?」
「大人しく話を聞けるなら、この状態解除してあげてもいいんだけど」
自由が保障される?先ほどこの女は玄森が20人は殺した犯罪者と言っていた。そして今、斬りかかった自分を自由にするというのか?自分にプラスな話とはいえ、神経が分からない。
気持ちも落ち着いてきたのか、左手のダガーはいつのまにか消えていた。
「…聞かせてもらう」
素直に言うと、身体にかかる圧力は解除された。胡坐をかいてその場に座ると、跳宰はしゃがみ込み艶やかな顔で玄森に微笑みかける。
「貴方は確かに特異な力を持った犯罪者。貴方は一度銃殺されている。覚えてないかしら?」
銃殺された?そんな記憶はない。だが身体には弾痕は確かに残っていた。
「でも貴方は、元を辿ればただの不幸な青年。そして類まれなチカラを持っている。私たちは貴方に第二の人生をあげたいの」
「俺の…過去を知っているのか?」
「銃殺後、貴方の肉体は隅々まで解析された。記憶もその中に入るの」
記憶も読み取られていたとは。そういえば、このエリア上層部には知識に貪欲な者が多いと聞いたことがあった。
「貴方の過去には…正直私は同情する。歪んでもしょうがないものだった。貴方も身体に残る傷で察したでしょう?」
「…」
「貴方のチカラは、正しく使えばいい。そして私たちの技術で、貴方の悪意は取り去っている。私たちの元で、軍人として働いてくれない?という提案よ。勿論、貴方がさっきのように衝動的に人を傷つけようとすれば、瞬時に貴方は抑え込まれる。社会に出てもほぼノーリスクよ。こんなに美味しい話、中々ないと思うけど」
「もし、拒否したら?」
「貴方は死刑にされて、ただの実験材料になるかしらね」
確かに美味しい話だ。
「任務以外でも、市街地に行くことはできるのか?」
「休暇の間なら、構わないわよ」
「いいだろう…乗った」




