表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/285

心配させるね、詠斗君…

レクス社では依然として人体生成の実験は行われていた。

御内君の頭脳は結局、社会に出しても有用となることがなかった。それを踏まえて、難点を改善した完璧な人間を造ることに心血が注がれた。

そうして誕生したのが、詠斗君だった。

私は桜井司令官に呼ばれた後、詠斗君が連れていかれた実験室に急ぎ足で向かっていた。

何かができるわけでもない。側には永瀬君が付いているのだ。

永瀬君は知性もあり、細身でも常人をはるかに超える筋力を持っている。そういう風に造られたクローンだ。加えて、命令には忠実だ。私ではどうすることもできないだろう。


実験室の扉には、<実験中>の文字が赤く灯っていた。

一応ノックをすると、永瀬君が出てくる。

「黄瀬先輩。貴方がくるということは、詠斗の件ですね。奴には今、記憶の読み取りを行っています」

永瀬君は私のことを先輩と呼ぶ。

「もうすぐ記憶の抽出が終わります。桜井司令官殿に必要な情報は皆無でした。期待外れです」

わざと肩を落とすようなジェスチャーをする。有用な情報はあるはずなのだが。

「なにもなかったと?」

「ええ。司令官殿に語っていたことが全てでした」

「そうか。実験が終わったら、詠斗君を引き取ってもいいかね」

そんな会話をしていると、詠斗君は奥から出てきた。

「黄瀬さん。なぜここに?」

私が実験室の前に居るのが意外だったようだ。

「実験待機室に行くと聞いたから、心配でね」

「心配してたんですか…。たいしたことはしてもされてもいませんよ」

ポリポリと頭を掻いた詠斗君を、私は回収する。

「永瀬君、詠斗君も通常業務に戻らせてもらう」

「どうぞ…またお会いするのをお待ちしています」

永瀬君は一瞬詠斗君を見て、すぐに立ち去って行った。


「…サオリさんに関する情報かね」

「はい。何かされたという訳ではないんですが…やはり僕を泳がせるんでしょうね」

「しばらくはそうだろう。能力は未知すぎる」

やはり詠斗君はサオリさんに関することを聞かれたようだ。

「改竄されなかっただけ良しとしてます…。そういえば、黄瀬さんはあいつには先輩って言われているんですね。黄瀬さんも、まさかレクス社の…?」

「私は全く関係ないと言えば、嘘になるかな」

私は普段前髪で隠している右顔面を露わにした。

「この政府が行った実験の被験者だったんだ」

瞳には∀と刻まれ、額から顎にかけて三本の縫い後がくっきりと残っている。

「実験ですか」

「傷の再生速度を高める実験に参加させられてね」

「ご愁傷様です」

淡泊に、詠斗君に謝られた。

「私は実験に失敗して、刻印と傷跡が残ってしまってね。永瀬君はなぜか、私が被験者であることを知っていて、先輩と呼ぶんだ」

「じゃあ僕も、先輩って言った方がいいですかね」

「やめてくれ」

丁重に断る。私はそう呼ばれるのは好きではないからだ。

「さあ、仕事をしよう。今日も早く帰ってサオリさんに会いたいだろう?」

冗談めかして言うと、詠斗君はツンと別方向を見た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ