回想録
私は寧ろ自分を才能も何も持たない埋没した人間だと思っていたが、御内君の中では違うようだった。
「こんな僕に声をかけ続ける時点で、凡才ではないですよ」
まるで心を読むように、御内君は思考回路を巡らせていることは後に知った。
御内君は基本的に私情も感情も表さないため、実験の際に重宝されていた。まだ平だった私と御内君はよくタッグにされ、二人で能力者研究の臨床に回された。上戸司令官も、御内君のことを認めていたようだ。
能力者研究では、主に採血や体細胞採取が基本だった。50年前の時点では、悪夢を見せるという手段よりもまだ未発達だった記憶の改竄を最初から運用していた。
<記憶の改竄>は、多岐にわたる。特定の部分を消去し、研究所で設定した情報を脳に入れることで架空の記憶が創られる。それは幸不幸どちらも含む夢であり、要は本当の人格を夢の中に隔離することで肉体の支配権を奪うのだ。
能力者実験は順調に進んでいたはずだった。既に能力を発現していると思われる者は確保し、政府に順応させ、あとは実戦に使うだけだった。
だが、湯神震を刺激することで施設は崩落、意思を失っていた他の名の能力者は逃げ出せず巻き込まれて死亡・重傷に追い込まれた。
能力者の危うさを表した事件でもあった。
それでも能力者研究は続けられた。一人の力で施設を全壊させることが明確になり、兵器運用を高官たちは心待ちにしていた。
その後上戸司令官は、白藤さんを連れてきた。私と御内君に与えられた命令は、彼女を丁重に扱う事だった。
データを取り始めると、彼女の身体に明確に変化が起きていた。上戸司令官の前で陽炎のように身体を変化させたとのことだったが、事実と認めるしかなかった。
白藤さんの身体は、能力を発していなくとも常に現実世界とどこか別の世界の間で揺れ動いているのだった。
私たちは特に口出しはしない。彼女を動揺させることになれば、なにが起きるかわからないからだ。
御内君は、普段の能力者に興味を示さなかったが、白藤さんのことは認識していた。
彼が認めていたのは、上戸司令官、白藤さん、私の三名だけだった(らしい)。
異性ということもあってか、白藤さんに対する態度は平常時の態度より3割くらいは柔らかくなっていた。
御内君も、何かを上戸司令官に託されていたらしい。彼も記憶改竄の刑を免れているが、白藤さんの起こした事態と上戸司令官の記憶抹消の話を聞いても勤めることは続けたが、15年後に肉体の崩壊を起こして逝去した。
人工生成された人間は総じて寿命が短く、肉体が崩れて死亡するのだとその時知った。
御内君の体細胞は定期的に採取され、それはレクス社に送られていた。
今度こそ、完璧な人間を造ると社長が意気込んていたことを忘れることはなかった。




