桜井と詠斗、会う
翌日、出勤するなり詠斗は軍人数名に囲まれた。
挨拶をしようとした黄瀬が側で戸惑っているが、口の動きで詠斗に『軍人に逆らうな』と伝えようとしている。
逆らえば命はないということなのか、それとも黄瀬という人間の立場を危ぶませているからなのか?その二つの言葉の可能性が頭に浮かんだ。
「崎下詠斗研究員。桜井司令官の命の元、貴様を拘束する」
「乱暴ですね…。心当たりがないのですが、理由をお聞かせ願えますか?」
理由は分かっている。監視映像に映ったサオリと白藤のことだ。
「国家機密に関わることで桜井司令官直々に尋問なさるそうだ。嘘を付くなよ?虚偽が判明した瞬間貴様の首は飛ぶ。さあ、時間が惜しい。行くぞ」
軍人は詠斗に手錠をかけて、護送車でこの研究施設から少し離れたエリア中枢にあるオフィスビルに移送された。<純白の燈台>と呼ばれるそのビルは、政府を動かす司令官と高官たちの集まる場所だ。
車から叩き出され、まるで犯罪者のように荒く引っ立てられて正門をくぐると、目隠しを付けられた。
建物の内部は研究員には非公開だと軍人に言われた。
エレベーターに乗る音がする。高速なのか耳がキーンとなるが、すぐに目的のフロアに着いたようだ。
「桜井司令官殿。崎下詠斗研究員をお連れしました」
「ご苦労。下がれ」
詠斗は何かソファのようなものに座らされ、軍人たちは荒く退室する足音が聞こえた。
「初めまして、崎下研究員」
桜井はそう言って、サッと詠斗の目隠しを外した。
部屋は明かりを抑えているが、いきなり光が入り目が痛い。
目が慣れてきて見えた桜井は、童顔で派手な茶髪(短髪)の高校生くらいに見える青年だった。
司令官にしては若すぎる容姿だ。擦れていない、純粋そうなこげ茶色の目。体格は良く、理想的な筋肉量だろう。
「貴方が、桜井司令官ですか。お初お目にかかります」
「あー。そんなに固くならなくていいよ、詠斗君。ね、いいでしょ、ユタカ」
いきなり砕けた口調になる桜井の側に、いかにも固そうな青年…豊という名前なのだろう。その人物が監視のように立っていた。
「上下関係を明確にすることは、大事であると思いますが」
眉一つ動かさず、永瀬は答える。気のせいか、気味の悪い目線を向けられたような気がするが。
「まー、そうだよね。でも詠斗君、このままの口調でいいでしょ?僕に畏まられたって、変な感じするだろうし」
「…お好きにどうぞ」
容姿にたがわず、桜井は幼いようだ。
「よかった。僕、堅苦しいの本当は嫌いなんだ。おじい様がとても固い人だったから」




