いつかきっと
現司令官・桜井一馬は愚直を地で行く男だった。
目的の為ならばどんな手を使ってでも実現する。それが彼の正義という名の理想的な環境を作り出すからだ。
そんな桜井は、基本的に執務室から出ない。寝具でさえも執務室に引き入れ、徹底して籠る。
そうでもしなければ、仕事が終わらない状態なのだ。
二ホンエリアの司令官は、他エリアとの外交・高官の意見受理・研究施設の内容に関する物事全てを管理できる権限を持っている。司令官を通さなければ、何も認可されない。高官の意見ですら、時には退けられる。特に研究施設の映像は執務室のパソコンでリアルタイムで確認することができる。
桜井は先日、白藤が現れた映像を見て感動していた。
彼女が桜井の叔父の想い人。そして、自身の想い人でもある。
上戸が離籍したのち、司令官の座に就いたのは祖父・赤晴だった。赤晴は拓に致命傷を与えた湯神を憎んでいた。白藤のことは認めていて、将来縁を結ぶことを許していた。
元々軍人の赤晴は、湯神の一件があってから能力者を徹底的に兵器としてみなし、特攻のための捨て駒として利用することに執心していた。
能力者に対しては冷酷な一面を見せていたが、一族で拓以外に唯一男児として生まれた一馬のことは可愛がっていた。赤晴は時々、幼少期の一馬にアルバムを見せていた。赤晴のお気に入りのアルバムは、実子の拓が写っていたものを集めたものだった。
拓の写真は出生時から命日の寸前までに亘っていた。高校時代の写真になると、拓が白藤と幸せそうに笑いあっている写真が目立つ。湯神も写っているのだろうが、その部分は切り取られていた。
叔父と笑いあう白藤の顔に、一馬は目を奪われていた。大人しく知的な印象を受ける白藤が、心の底から笑っている。そして叔父も赤晴が執着する理由が分かる。体格も程よく、成績を見てみれば文武共に優秀。そしてその笑顔が表す通り、快活な青年だったと赤晴は常々言っていた。
一馬は拓に憧れを抱いていた。こんな人物になりたいと、一馬自身も勉学・運動共に励んだ。そしていつか、白藤のような女性に会いたいと願っていた。
だが、一馬に寄ってくる女性たちは、白藤とはかけ離れたものだった。
一馬からしてみれば知性もなく、品性もない。あるのは司令官であるという家庭環境を狙ったものばかりだった。
成長するたびに、白藤と一馬を神格化していることに、一馬は気が付かなかった。
白藤は能力を発現し、消えてもう会うことが出来ない人物だと思っていた中、彼女の存在が確認された。
なんとしても、白藤さおりを確保したい。そうすれば能力者研究のみならず、一馬の白藤への想いも一歩動き出すことになるのだから。




